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よの25 霊感がある

会社の同僚、荒島しず子の部屋探しに
たまたま付き合わされるはめになった。

候補の物件は3つ。
私はドライバーとして駆り出された。

3つの物件のうち、一番最後に見た部屋が一番条件が良かった。家賃も場所も設備も文句ない。

しかし。

荒島しず子は部屋の一点を見つめ、顔を歪めながら、この部屋は駄目とつぶやいた。

え、なんで?と言いかけたその時、彼女は、
「わたし、そういうの感じる人なの」と言った。

え?そういうのって・・。
もしかして、荒島ってそういう人だったの?


当然ながら、自分は全く何も感じないし、わからない
からそうなんだとしか言いようがない。

結局部屋は、2番目に見た物件で決まった。


しかしながら。

荒島ってそういう人だったんだ。
私はほのかに尊敬の念をいだいた。

実際、女性陣の間で荒島は一目置かれているらしい。
見えないものを感じたりするわけだから。

ただ。

そのことが仕事で役に立つわけではない。

逆にむしろ、彼女の仕事振りを見ていると独特の思い込みが多々見られる。
それでちょくちょく間違えるのだが、ただなにか妙な説得力があって、やや強引ながらもリカバリーさせてしまう力を持ちあわせているのだ。

彼女の感じるという見えない世界は、本当のところどこまで信用できるのだろうか。

まあ。
見えないだけに判断のしようもないのだけれど。

とある企画で彼女とチームを組むことになった。
会社にとってはぜひ成功させたい注目の企画だ。

私と荒島はリーダーとしてA案でいくかB案でいくか判断を委ねられた。

分析の結果セオリーでいけばA案だ。
ところが、荒島はB案でいきましょうと私に迫った。
理由は、なにかA案は良くない気がする、と言うのだ。
はっきりした理由はないが、妙に説得力のある荒島は、最後は私を信じて、というなかば強引さでB案を通した。

そして1ヶ月後B案で進めた結果企画は駄目になった。

私と荒島は上司に呼び出され、こっぴどく叱られた。
なぜB案を選択したのか。論理的な裏付けもないことでお咎めは大きかった。

まあ。
失敗した時はそんなものだ。

さすがにへこんだかに見えた荒島に、私は労いの言葉を掛けた。

すると荒島は、逆に良かったのよ、と囁いた。
A案を選択していたらもっと悪い結果があったのだと言うのだ。

う~ん。


かもしれないけど・・。


めんどうくさい。と私は思った。




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kawawano



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