一転アンチ

「好きだったコンテンツが有名になるとなんか離れちゃうよね」

「分からんでもない」

「それでアンチになったりするのよ」

「それは分からん」

「分かんないかなぁ……今までずっと好きで俺しか知らなかったのにさぁ。ある日突然皆が"あれいいよねぇ"って言うんだよ。なんだよそれ、お前ら今までくだらねぇもんばっか消費していたくせに今更俺の感性領域に入ってくんじゃねーよ一般人がよぉ……ってなるじゃん?」

「そこまで過激なお気持ちにはなった事がない」

「そうなると、そのコンテンツを好きな俺まで雑魚大衆の一員みたいな感じになるわけじゃん。それがめちゃくちゃむかつくのよ。俺の感性はそんなレベルじゃねぇ一緒にすんな群れどもぉってなるわけよ」

「お前自分の感性に対する自信凄いな」

「俺の感性はそのコンテンツに合わなくなってきたと考えるのよ。大衆に迎合したクソメディアに取り込まれてゴミに成り果て俺の求めるものではなくなったってさぁ」

「出た。厄介なオタクの悪い部分」

「で、こんなゴミカスのために作られているコンテンツに俺は今まで時間と金を注ぎ込んできたのかって思うと無性に許せなくなって、エックスとか掲示板で叩きはじめるわけ」

「逆恨みもはなはだしいな」

「最初は俺も愚痴のつもりで書くんだけど、どんどん気持ちが入っちゃって、いつの間にかガチアンチに進化するんだよね。そうなるとコンテンツもコンテンツを好きな奴も許せなくなってさぁ。ついつい過激なコメントを残しちゃうんだぁ」

「残すなそんなもん」

「それで先日、ついにやっちまったんだよ犯罪予告。具体的な日時と場所まで書いてさぁ。このご時世だしさすがにやめた方がいいだろって理性は語り掛けてくるんだけど、でも感情には抗えない。だって人間は感情の生き物なんだもん。気持ち、気持ちがすべて。分かるだろ。なぁ」

「分からん」

「分かんねぇかなぁ。お前は俺側だと思ったんだけどなぁ」

「一緒にすんな犯罪者」

「犯罪者。そうか、そうだな。俺は今……」


「時間だ」



冷たい声に遮られ、アクリル板越しに会話していた友人は連れて行かれた。後に残るは、俺一人。



「俺、あの作品好きなんだよな」


最後に言い忘れたこと呟く。しかし、友人はもういない。
さよなら友よ。そして二度と会うことはないだろう。どうか罪を償い、コンテンツを愛せる人間になってくれ。

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