【小説『元カレごはん埋葬委員会』12月9日発売です!】目標の叶い方は、思っていたのとはだいぶ違ったりする
みなさまお疲れ様です、川代です。
はー、このお知らせができるのが本当にうれしいです!
小説『元カレごはん埋葬委員会』の発売日が決まりました! 12月9日ごろから順次、全国の書店に並びはじめるようです(Amazonは12月7日の日付になっています)。
私にとってはじめての小説。第1話を書いていたころは「本当に書き上げられるのだろうか」とか「面白いものに仕上がるのだろうか」とか、不安でしょうがなかったのですが、今はもう、愛おしくてたまらない! と思えるくらい、愛と熱狂のこもった一冊に仕上がりました。
というわけで、『元カレごはん埋葬委員会』ができるまでの経緯など、少し紹介させていただけたらと思います。
『元カレごはん埋葬委員会』という企画が動き出したのは、2022年7月。サンマーク出版の編集者・池田るり子さんから、「ご相談したいことが」というメッセージが届きました。
同じ出版業界なので、もともと顔見知りではあったのですが、とはいえ、きちんと話したことはありません。たぶん、5年くらい前に一度ちらっとご挨拶して、ひとこと、ふたこと交わした程度です。えっ、どうしたんだろうと、私は一人あわあわしていました。
続きを読むと、池田さんのメッセージには、こんなことが書いてありました。
元カレが好きだったごはんレシピの墓地。
元カレが好きだったごはんレシピの、墓地……?
あまりにも尖ったタイトルだったので一瞬、思考が停止してしまったのですが、何度か読み返してから、私はすぐにピンときました。
あ、この人はもしかしたら、私と同じことを考えてくれているのかもしれない、と。
実は私はもともと、『失恋レシピ』というタイトルの同人誌を、どこかでつくって売りたいと思っていたのです。
失恋にまつわる思い出のレシピを集めた料理本。どんな人と付き合っていたのか、どんなところが好きだったのか、どうして別れることになってしまったのか——。そんな失恋エピソードと一緒にレシピをまとめたら絶対に面白い! 文学フリマやコミケなどで売れたらいいなあと、ひそかに計画を立てていました。
というのも、このころ、私が考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がちょっと話題になっていたのです。
私は、正社員としては2019年ごろまで天狼院書店で働いていて(その後も業務委託契約でスタッフを続けていました。現在もライティング講座のお手伝いなどを少しやらせていただいています!)、いくつかの店舗の店長を担当していました。担当期間がいちばん長かったのはたぶん福岡天狼院だったかな。東京と福岡の二拠点生活をしていた時期もありました(なつかしい……)。
で、「元彼が好きだったバターチキンカレー」ってなんぞやという話なのですが。
くわしくはこちらの記事にも書いていますが、まあ、メニュー名のとおりです。ええ。そうです、元彼が好きだったバターチキンカレーを店で出したんです。
とにかくその彼のことが大好きだった私は、なんとしてでもこの人にぞっこんになってもらいたい! 夢中になってもらいたい! この女を絶対に手放したくねぇと思ってほしい、なんなら他の男とちらっと話すだけで猛烈に嫉妬するくらい好きになってほしいと思っていました(圧がすごい)。
でも、私にはたいした武器もない。巷で噂のモテテクニックをいろいろ試しはしましたが、彼に効いている様子はない。
こうなったら胃袋をつかむしかねえ! と、「カレーをスパイスからつくれる女になる」ための修行をはじめたわけです。ほとんどの人がカレールーを使ってつくる料理だからこそ、「カレールーを使わない」選択を取る女は、とんでもなく料理上手に見えるのでは!?「カレーでこんなに本格的なんだから、他の料理だってきっとすばらしくうまいに違いない」と純粋な彼が、結婚したあとの姿をもくもくと妄想してくれるんじゃないかと、そうたくらんだわけです。
試行錯誤のおかげで自分でもびっくりするくらい本格的なカレーができ、無事に彼の嬉しそうな顔を見ることもできました。が、さて、問題はここからです。そうです。別れたんです。願い虚しく、普通にふられました。くっそー、もっと食べさせときゃよかった!! と何度思ったことか!
せっかく彼のためにあんっっっっなに苦労してつくったのに、お披露目の機会を失ってしまった。かといって、こんな怨念のこもったレシピ、家族や友達にふるまう気にもなれません。あまりきれいな別れ方でもなかったので、自分ひとりのためにつくるのもなんだかなあという感じです。
そんなわけで、社会人になり、仕事が急激に忙しくなったのもあいまって、そんな凝ったカレーをつくることもなくなりました。夜10時に帰ってきてスパイスカレーなんて、とてもじゃないけどつくる気持ちになれません。
ただ、ねちっこい私の心のどこかには、いつも「いざとなったら私はすごいカレー作れるんだからな」という気持ちがぷかぷかと浮かんでいました(何と戦ってんだよ!)。
そこで、彼と別れてから数年後、私が福岡店の店長になったときに、思い切ってそのカレーを出してみることにしたんです。今度はいろんな人に食べてほしいと思いました。「これ、おいしいよ!」と言ってくれる人が増えれば増えるほど、なんというか、ぐつぐつとした自分の怨念も報われるような気がしたのです。自分のすべてがダメなわけじゃなかったと、自分自身に証明してあげたいみたいな気持ちもあったと思います。
そんなわけで、ええい、もうどうにでもなれ! と、「元彼が好きだったバターチキンカレー」(通称:元カレー)というメニュー名にし、さらに、このカレーができるまでのエピソードを新メニュー告知用の記事として発信することにしました。
最初は内輪だけで盛り上がっていたのが、じわじわと口コミで広がり、たしか、ツイッターでどなたかが「どういう気持ちで食べればいいんだよ」とツッコミ混じりにつぶやいてくださったのがきっかけだったと思います、SNSで話題になり、雑誌やテレビ番組などに取り上げていただく機会が増えてきました。
いちばん話題になったのは、テレビ番組「激レアさんを連れてきた。」で紹介してもらったときだったかな。
そんなわけで、この「失恋×ごはん」という組み合わせ自体にテンションが上がっていて、これをテーマに何か企画したいなあとぼんやりと思っていたわけですが、まるで私の脳内を読んでいたかのように、連絡をくださったのが池田さんでした。
実際に打ち合わせで話してみても、考えていたことが見事に同じで、この「失恋×ごはん」というテーマへの熱量も同じで。私はそれが、とんでもなくうれしかったのです。「重いね〜」「失恋でそんな引きずるもん?」みたいに引かれるかな……と気にすることなく、「え、好きな人のいいね欄とかふつうにチェックしますよね?」くらいの、さも当たり前みたいなテンションで話すことができたのです、池田さんとは。
池田さんは、私と同じくらいの(もちろん、いい意味で!)怨念を抱えていて、そして同じくらい、「これは絶対に面白い本になる」と確信していました。
が、大変だったのはここからです。
そこから毎月一人か二人くらいの方に失恋エピソードを取材させていただいたのですが、そのどれもが本当に濃いのです。取材をするたび、ぐっと心臓の奥を握りしめられたような気持ちになりました。さて、どうすればこの胸の苦しさを、切なさを言葉にできるだろうと、いろいろ考えました。エッセイやインタビュー、対談形式にする案もありました。
まずはじめにやったのは、全体の方向性を決める前に、試しに、私の「元カレー」のエピソードを書籍用にリライトすることです。
けれどどうにもこうにも、進まない。キーボードを打つ指が固まったようにぎこちなく、動きませんでした。
そんな日がしばらく続き、すると、うんうんと唸り続けていた私に、池田さんはこう言いました。
「これ、フィクションにしたほうが面白くないですか?」
えええまさかの小説!? とびっくりしました。
池田さんはこう続けました。
「とあるカフェに、3人の登場人物がいて、『元カレごはん埋葬委員会』っていう会をやってるんです。そこに、過去の恋愛のもやもやした気持ちを抱えた相談者さんたちがやってくる。3人が話を聞いて、相談者さんに、埋葬方法を提案するんです」
きっとその方が伝わる気がする、と。
でもたしかに、と私は思いました。この『元カレごはん埋葬委員会』は、ただ「そういう恋愛をする人もいるのね」で終わりにしたくはなかったんです。読んでくださった方にも、この埋葬委員会に参加する気分を味わってもらいたい。自分の心の中に眠る怨念を埋葬できるような一冊にしたいと、そう思いました。
このあいだ、スペースかどこかで池田さんとも話していたのですが、「本を読む」ことは同時に、「自分と対話する」ことでもあると思います。ページに印刷された文字を追いかけながらも、自分の頭の中では、さまざまな思いが駆け巡っている。「ああ、そういえば私も……」と、本を読む過程で、記憶の扉がぱっと開くこともあります。
『元カレごはん埋葬委員会』は、読んでいるあいだ、気持ちを吐露できる本にしたいと思いました。
隠していた自分の感情に出会える本。
見ないようにしていた自分を見つけられる本。
取り繕っていた衣を脱ぎ捨て、まっさらな自分になれる本。
埋葬委員会をおとずれる相談者さんがむき出しの気持ちを吐露するように、読みながら、読んでくれた人も、自分の気持ちと対話できる本にしたいと思いました。
そのためにはやはり、自分もその世界の一員になったように感じられる、「物語」の形式にしたほうがいいだろうと、小説としてまとめることになったわけですが、これがまあ大変で大変で。
なにしろ、こんなに長い物語を書くのははじめてです。個人的に短編小説を書いたことは何度かあったものの、本まるまる一冊分なんてと、最初は不安でたまりませんでした。
けれどこの一年、毎週金曜日に池田さんと打ち合わせし、愛のある赤字とフィードバックを大量にいただき、書いては消し、書いては消し……をくりかえして、なんとか仕上げることができました。
「とことんいいものを作りたい!」という、妥協を一切しない池田さんと仕事させていただいたこの一年は、この上なく濃く、幸せな時間でした(池田さんとのやりとりについては長くなりそうなので、また別の記事で書きたいと思います)。私の人生の中でも、とても大きな意味を持つ一年になりました。本当に、ありがとうございます!
こうして、『元カレごはん埋葬委員会』は完成しました。
さて、かなり長くなってしまいましたが、いよいよ発売です!
もう、めっちゃかわいい!!!
あまりにかわいすぎて、しばらく池田さんとのやりとりが「かわいいいい」「ぎゃーーー!!」「かわいすぎて言葉が出ない」とそればっかりになっていたこともありました。
カバーだけじゃなく、本文のイラストもすっごくかわいいんですよ! そうそう、それぞれの物語に登場する「元カレごはん」のレシピも載っています。ぜひページをめくってみていただけたらうれしいです。
実をいうと私は、大学生の頃から「小説を書きたい」という目標を持っていました。
エッセイやブログを書いていたとき、書きたいことを全力で書ききれていないようなもどかしさを感じることがありました。エッセイには「これは実際にあったことです」という前提条件がつきます。すると、実際に起きたことしか書けません。伝えたいことがあっても、説得力を持たせるだけのエピソードが足りない、と感じることがよくありました。「実話」として出すとなると、どうしても足がすくむ。物語なら、小説ならもっと自由に書けるんじゃないか。私が書きたいことはもっと別のところにあるんじゃないか——という気持ちがずっとありました。
『元カレごはん埋葬委員会』を書き終えたとき、ああ、私がずっと「書きたいけど、どう形にすればいいかわからない」と思っていたものはこれだったんだ、と思いました。うろうろとあっちこっちを駆け回って探していたものを、ようやく探り当てた気分です。
今ふりかえってみて思うのは。もしかすると「目標」というのは、思っていたのとはだいぶ違う形で叶ったりするものなのかもしれません。
「小説を書けるようになりたい」と思ったのは、9年前のことでした。自分なりにいろいろ勉強もしましたが、いまいちうまくいきませんでした。
他の仕事もやったり、それこそカレーをがんばって売ったり、やたらと遠回りしたような気もするけれど、でも、いろいろ寄り道したからこそ、9年前に「やりたい」と思っていたことに、挑戦するチャンスをもらえました。心底書きたかったことが見つかりました。愛おしいと思えるほどの物語と、登場人物たちに出会うことができました。
人生で出会ってくださったみなさんに、助けてくださったみなさんに、人生で起きたすべての出来事に、どれだけ感謝と土下座をすればいいのかわかりません!
本当にありがとうございます。
『元カレごはん埋葬委員会』は、12月9日発売です。
ぜひ、実際に手に取ってみてください!
よろしくお願いいたします!
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