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心を動かすとは

最近、「春宵十話」という本を読んでいます。
著者は数学者の岡潔で、変人エピソードが多い人物として知られています。
変人数学者が書いた本であるからにして、読む前は複雑怪奇なんだろうな、凡人には理解するのは難しいだろうな、と勝手に思い込んでいました。
実際、読み込んでみると小難しい理論について書かれた本ではなく、理性と感性について書かれており、その語り口も非常に面白い本でした。

岡は「情緒」というものを非常に重視しており、それなくして教育は危険とすら言っています。
私が特に興味深いを感じたのは以下の箇所です。

人の心を知らなければ、物後をやる場合、緻密さがなく粗雑になる。
粗雑というのは対象をちっとも見ないで観念的にものをいっているだけということ、つまり対象への細かい心くばりがないということだから、
緻密さが欠けるのはいっさいのものが欠けることにほかならない。
「春宵十話」p12

つまり、人の心を知らなければ、良いものにはならない、ということですね。
別の表現をすれば、感情を理解しなければ、粗悪なものばかり作られてしまう、ということになるかと思います。

この岡の文章を読んだときに、ふと思ったことはビジネスにおける人の心や感情についてでした。
昨今では、ビジネスの文脈においてアート思考、感動や体験を与える、感性、プロセスストーリーなど流行っています。

要はどのように人の心を動かすか、ということになるかと思います。

ただ私が気になっていること、というよりは危惧していることは、人の心を動かす、というものが快感や興奮、ドーパミンの分泌ばかりに焦点を当てられているのでは、ということです。(もちろん、全てのビジネスや商品サービスを考慮したわけでも統計データを取ったわけではありません。)

「バズる」、「ウケる」、「流行らせる」などは本来、手段であるなのにそれらが目的になってしまっている。

楽しい、嬉しい、感動した、などの人の心を前向きに動かすサービスや商品も世の中には必要でしょう。
ただそれと同じか、それ以上に人の悲しみや辛さ、苦しさに焦点を当てたサービス、商品も重要なのではないでしょうか。

まとめると、人の心を動かすということにおいて、興奮や快楽、ドーパミン的な側面がフォーカスされている。ただ、人の心を動かす前に他者の哀しさや辛さを知るということも重要なのでは、ということです。

実は上記で引用した岡の文章には前説があります。
とても含蓄のある文章だと思います。

いま、たくましさはわかっても、人の心のかなしみがわかる青年がどれだけあるだろうか。

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