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【散文】異星人

 昔、私は広大な宇宙で、興味深い連中に出会った。
 彼らは一様に、吐き気を持っている。我慢する者もいれば、しないものもいる。それは物心ついたときからそこにあり、個体によっては程度が違う。ほとんどない者もいれば、日々苦しんでいる者もいる。治すための手段は人によって違う。治らない者も多く存在する。最先端の医療を持っていながらも、この吐き気は彼らにとって未だ最大の健康問題なのである。
 面白いのは、この吐き気を抑えるための者がいることだ。職業として成立している。多くの嘔吐感を沈めた彼らは、多くの感謝を受け取っている。だからといって尊敬される人間かと言われれば違う。大体の場合、吐き気を自分で管理できなければ「劣った個体」として卑下される。そんな奴らを介護してやる必要はない、そう考えられている。
 彼らは一様に、吐くと死んでしまう。同族は見て見ぬふりをし、最終的に周りに誰も寄り付かなくなる。吐いた個体は、しばらく息をしたのち、息絶える。だが彼らにも少しの優しさはある。惜し気に死者を見送るが、共感はしない。
 私は彼らに、とても親近感を覚えた。願わくは、苦しむ彼らを極端な方法で救いたいとも思った。それが、彼らにとっての幸せになるだろうから…そうおかしな考えを持ったところで、私は宇宙の旅から帰還した。

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