マガジンのカバー画像

月刊かわせひろし

小説や漫画の連載をします。
¥100 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

#SF

バカにつける薬はない 第二回

バカにつける薬はない 第二回

  三 人妻と

「あ……あの、おはよう、アディ君!」
 朝、学校へ向かう道中。道路脇の家から、アディは不意に呼びかけられた。
 テレネだ。庭に出て、花の手入れをしていたらしい。朝の冷気のせいか、少し頬が赤い。
 トラルとテレネ、二人の新居は、アディの家の近所に構えられていた。アディの通学路脇だ。大工のトラルお手製の小さな可愛い家で、庭の草木は二人の要望を聞いて、近所の人たちも手伝って用意した。料

もっとみる
バカにつける薬はない 第一回

バカにつける薬はない 第一回

  一 幼なじみ

「アディ……」
 サリルが顔を上げ、手をそっと重ねてきた。
「アディ、あなたは決めなくてはいけない。あの村に戻るか、こちらに来るか」
 サリルの柔らかく温かい身体が、アディを優しく包む。
 慈愛にあふれた、その身体が。
 だが今、彼女から突きつけられた選択は、それとはうらはらに冷たく厳しいものだった。背筋が震えたのは、今いる薄暗い部屋がじっとりと冷え込んでいるからだけではない。

もっとみる
リトル・ビット・ワンダー「邂逅」「この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは関係ありません。」

リトル・ビット・ワンダー「邂逅」「この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは関係ありません。」

  邂逅

 暗く冷たい宇宙空間で、「彼」は不満を募らせていた。
 それも生半可なものではない。数十年じっくり熟成させた、年代物の逸品だ。
 とにかく暇だ、とディスカバリー51号は考えていた。
 D51は深宇宙探査機のシリーズの一台だ。ディスカバリーシリーズは、太陽系から放射状に、あらゆる方向に打ち出された。恒星間を漂う浮遊惑星の発見と探査を目的としている。
 恒星系から放り出され、自ら輝かない浮

もっとみる
リトル・ビット・ワンダー「こんにちは赤ちゃん」「究極の美食」

リトル・ビット・ワンダー「こんにちは赤ちゃん」「究極の美食」

こんにちは赤ちゃん

「ふやああああ」
 どこか気の抜けた声でその子は泣いた。
「あー、よしよし、まあくんどしたのかなー、ウンチかなー、おなかすいたのかなー」
 マリコは声をかけながら、赤ん坊を優しく抱き上げ、慣れた手つきで確認する。
 うん、おなかがすいているみたいだ。ミルクの時間だ。
 こちらも手早く用意すると、哺乳瓶をそっとまあくんの口元に差し出す。まあくんはすぐさま吸い口をくわえ、もにゅも

もっとみる
リトル・ビット・ワンダー「吾輩は猫である」「銀河欲望対決」

リトル・ビット・ワンダー「吾輩は猫である」「銀河欲望対決」

  吾輩は猫である 吾輩は猫である。
 名前はまだない。
 そう書き出すのはこの地の古典小説である。
 だがこの話は違う。
 名前はある。
 タリン・マリン・ハッセルホッスル一七八五という。
 一七八五は出自の確かさを示す。
 自慢である。
 なのにこの家の主は吾輩のことをタマと呼ぶ。
 略し過ぎである。
 しかも分かっていて略したのではなく偶然なのである。
 なぜなら主は吾輩は猫ではないことを知

もっとみる