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#SF
バカにつける薬はない 第二回
三 人妻と
「あ……あの、おはよう、アディ君!」
朝、学校へ向かう道中。道路脇の家から、アディは不意に呼びかけられた。
テレネだ。庭に出て、花の手入れをしていたらしい。朝の冷気のせいか、少し頬が赤い。
トラルとテレネ、二人の新居は、アディの家の近所に構えられていた。アディの通学路脇だ。大工のトラルお手製の小さな可愛い家で、庭の草木は二人の要望を聞いて、近所の人たちも手伝って用意した。料
バカにつける薬はない 第一回
一 幼なじみ
「アディ……」
サリルが顔を上げ、手をそっと重ねてきた。
「アディ、あなたは決めなくてはいけない。あの村に戻るか、こちらに来るか」
サリルの柔らかく温かい身体が、アディを優しく包む。
慈愛にあふれた、その身体が。
だが今、彼女から突きつけられた選択は、それとはうらはらに冷たく厳しいものだった。背筋が震えたのは、今いる薄暗い部屋がじっとりと冷え込んでいるからだけではない。