(映画鑑賞記録)人間は一人残らずクソ!殺!殺!/ロブ・ジャバス監督『哭悲』

・あらすじ
謎の感染症に長い間対処し続けてきた台湾。専門家たちに"アルヴィン"と名付けられたそのウイルスは、風邪のような軽微な症状しか伴わず、不自由な生活に不満を持つ人々の警戒はいつしか解けてしまっていた。ある日、ウイルスが突然変異し、人の脳に作用して凶暴性を助長する疫病が発生。感染者たちは罪悪感に涙を流しながらも、衝動を抑えられず思いつく限りの残虐な行為を行うようになり、街は殺人と拷問で溢れかえってしまう。そんな暴力に支配された世界で離ればなれとなり、生きて再会を果たそうとする男女の姿があった。感染者の殺意から辛うじて逃れ、数少ない生き残りと病院に立て籠るカイティン。彼女からの連絡を受け取ったジュンジョーは、独りで狂気の街を彷徨い始める。

・感想
  同棲カップルのとてもほのぼのとした日常シーンから始まる本作だが、ほのぼのとしているのは最初の10分だけ。それ以降ラストまでは怒濤のノンストップエログロ血祭りである。血飛沫ブッシャー!殺!殺!殺!人間なんてみんなゴミ!生きてる価値なし!殺!殺!殺!という作り手の思想が強く強く伝わってくる。まるでジェットコースターに乗っているようなテンポの良さであった。
  ムカデ人間2やグリーンインフェルノなどのスラッシャー映画も余裕で見れる私ですら(良い意味で)ドン引きしてしまうほどの徹底したゴア描写の連続で、爽快感すら感じてしまう。ホラー映画にありがちな、肝心なシーンで急に画面が切り替わり悲鳴のみの間接的な表現になる。というのがないのも素晴らしい。皮膚を剥ぐシーンも臓器も、人体が破壊されてゆく様をすべてありのまま見せてくれる。素晴らしきサービス精神。
  ウイルス感染パニック映画だが、この"アルヴィン"というウイルスは一度感染すると二度と真人間には戻れないから、ほぼゾンビ映画と言っても良い。そしてただ感染すると凶暴化し人間を襲ってしまうだけでなく、"罪悪感に涙を流しながらも凶暴化が止まらない"という設定も良い。涙を流しながら顔に齧り付いたり目潰ししたり人目も気にせず性交に夢中になるなんて、なんて人間らしい姿なんだ。
  物語としての面白さや脚本云々が素晴らしいかと問われると答えに詰まるが、そもそもホラー映画にストーリー性や、希望を残す終わり方なんか期待していない。こんな映画をわざわざ1900円払い観に行く私のような人間は、人の命がゴミのように軽々しく扱われる映像しか求めていないのだ。「でも結局人って優しいものだよね」「本当の悪人なんかいないよね」という生ぬるい希望を求めるのであれば一生ALLWAYS三丁目の夕日とドラえもんでも見ておけばいい。
  人に易々と勧められる代物ではないが、自分の中に底知れず眠っている破壊衝動に気付かせてくれる素晴らしい映像体験であった。

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