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熟睡中に口を開けたくない

 こんなに「マスク」が注目される事態になるなんて、半年前まで誰も想像していなかった。

 二度の被災経験から、使い捨てマスクの備蓄が多めにあった。ガーゼマスクも私には必要なものなので、絶やしたことがなく。

 でもいまだナンとかマスクは、我が家には到着しておらず。そろそろ手作りマスクを作らないといけないなと思っているうちに、段々使い捨てマスクも復活してきている。それでも可愛い図柄のマスクは作ってみたい。

 実は数年前から、寝る時にガーゼマスクをしている。
 口を閉じているつもりが、起きると喉が痛くて、どうやら口を開けて寝ているようだと気付いたからだ。

 いや本当はちょっと知っていた。
 美容院で、髪の毛を洗ってもらう時、どうしてもウトウトしちゃって、ハッと気が付くとだいたい口がパカッと開くからだ。仰向けになったら、どうも口が開くらしい。

 実家に住んでいた頃。両親の寝姿をよく覚えている。
 父は顔まわりギリギリまで掛け布団で覆いたいらしく、布団に埋まるようにして寝ていた。手はもちろん布団の中。首も隠れて、顔だけがニュッと出ている様子はちょっとだけ怖かった。
 母は熟睡していると、だいたい口が開いていた。眉間にシワを寄せて、時々悪夢にうなされて、おどろおどろしい声を出す。その様子もちょっと怖かった。
 ホントは笑いをかみ殺しながらその様子を見ていたけど。

 果たして自分が大人になってみると、布団に埋まるように寝て、口が開いているではないか。両方を受け継いだらしい。きっと私の寝姿は本当に怖い。

 ただ私は横を向いて寝るようになった。メニエールが起きにくい向きがあるので、そちらを向いて寝ると安心なのだ。
 そうやって横向きで寝ているのに、それでも時々、口が開いてしまうらしい。

 喉が痛くて辛い朝が増えて、ガーゼマスクをして寝るようになった。

 ある日は、起きたら目の上に何か乗っているので、目が疲れた時に乗せて寝るアイピローが乗っているのかと思った。

 私ったら寝相が良いから、ずっとその姿勢のまま寝ていたのかしら!

 と、目の上に手をやると、アイピローじゃなくて、マスクが目までズレていただけだった。

 そしてある日はやっぱり喉が痛くなる。マスクをしていてもだ。

 どうにかならないかと思っていたら、口に貼る「鼻呼吸テープ」なるものが売っているではないか。

 ……試してみたいではないか!


 かなりしっかり貼れるようで、一度貼ると、もうほとんど喋れないくらい上唇と下唇がくっつく。
 夫に何か聞かれても、テープがくっついていない唇の両端で返事をする。或いはテープの下で、上唇と下唇の間に、わずかばかりのすき間を無理矢理作って喋る。

 なんかもう、いっこく堂みたいなのだ。


 そのうち、両手に人形を持って喋ってやろうか。


 でもこれをつけて寝ると、熟睡できて、その効果に驚いた。
 普段は鼻呼吸のはずだけど、寝ている時はコントロールできないから、こんなテープがあるなんてありがたい。

 そうやってそのテープの力に感心していたのに、ある日起きたら、テープが上唇にしかくっついておらず、ヒラヒラぶら下がっていた。
 手ではがしたのなら、こんな風に上唇にだけくっついたままではないはずだ。

 どうやらその強い粘着力を超える力で口を開けたらしい。

 どんだけ口を開けたかったのだ私。

 仕方ないからテープを貼って、結局マスクもして寝ている。
 寝ている時でも、口を閉じたままでいたい。熟睡できるし、喉が痛くならない。免疫力だって上がるというではないか。そしてなんと言っても、恐怖を感じさせるのではなく、愛らしい顔で寝ていたい。切に願う。


#エッセイ #マスク #睡眠 #口が開く #鼻呼吸テープ #腹話術


読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。