日々の暮らしを楽しもうとする姿
「新しい家庭を持ってもお互い思いやる心と、お笑いを忘れずに」は、結婚する時に父が贈ってくれた言葉。
父はよくすっとぼけて自分を笑いのネタにするし、母は根っから明るい。
私がお笑い好きで笑い上戸になったのも、両親の作った家庭があったからだろう。だけど繊細気質も生まれつきで、思い悩みがち。人の気持ちのあれもこれも気になってしまうから、自分の心が壊れないように気をつける。伝わらない「ごめんね」や不安、心配は、常に心の中に持って日々を暮らしている。
2020年、緊急事態宣言が出された。
トイレットペーパーを買い足すタイミングだと店に行くと、人が殺到している。圧倒されて一瞬足がすくみ、必要な一つを手に取ると逃げるようにその場を去った。
両親は80まわり。元気でいるか心配なので、そのころから毎週声をかけるようにした。リモートでの会話は表情を見て話せるので安心する。
当時トイレットペーパーの話をすると「もしなくなったら新聞紙でも何でも拭けるんだし、なんとかしようねと話していたのよ」ワハハと両親が笑う。そう言えば私が小学生だった頃は、わら半紙みたいな紙を使うトイレもあったよね。母の笑顔と笑い声で少し気持ちが和らいだ。
ここ数年、歳を重ねて衰えていく不安が強くなった。元々の気質もあるのだろうけど、気持ちをなんとかしようとしても、ささいなことで心が揺れて仕方ない。
そんな時に両親はいつも通り私の気持ちを笑って受け止めて、直接的な言葉でなくても、肩の力を抜いて大丈夫よおと伝えてくれる。
毎週、心配で連絡を取っていたつもりが、自分が励まされている。
二人の元気に暮らす姿が私にとってありがたいお手本。笑いながら快活に過ごす姿にはすごみすら感じる。10年ほど前から少しずつ聞かれるようになった、友人たちの親の老いや死に、胸いためる日も増えてきたから。
リモート画面で決して映さない部屋の床を見回しながら「なんとかなってるよ」と澄まし顔の息子を見て、夫と私の築いてきた家庭を思う。思いが伝わっているのか、しつけが伝わらなかったのかわからないけど。
でも失うことが増えてきた中で、その状況や手元にある物、でなんとかするのって不安や辛さだけではなくて、生活の工夫。
時には不自由でも、明るく乗り越えられたら良い。
そんな姿を、これからの私も見せていきたい。