見出し画像

喋る息子

 息子は高校生となった今、穏やかなことが信じられないくらい、大変育てにいくいタイプであった。普通2歳前後に大変な反抗期が来るというが、我が子は1歳前くらいに反抗期が来てから11歳くらいまでずーっと反抗期だったようなもので。小学5年生頃~6年生半ばまでが一番素直で、その後もまた思春期特有の面倒くささがあった。今も機嫌が悪い時はあるし、親の言葉をうっとうしがることはあるけど、幼い頃と比べるとめちゃくちゃラクだ。とにかく話していて、なかなか面白い子だと思う。これは一貫している。
 いや昔のブログを読み返していたら、面白いものがたくさん出てきまして。今の、自分で考えて自分の言葉で話し、それを聞いて私も考えて、議論するような面白さ、息子がしっかり考えていることによる可愛さではなく、幼児らしい可愛らしさ全開である。

***

 4歳頃というのは、一般的に詩的な言葉を多く発する時期だというが、息子はそこに関してはご多分に漏れず、ポエマーのように素敵な比喩を無邪気に量産していた。山の中を車で走っていて、周りに木がたくさんあると「木の虹みたい!」と言ったり、夜、車のフロントガラスにたくさんつく水滴を見て「星がたくさんだねえ!」と言ったり。

 でも「何で?」「~って何?」も相当多くて、応対が大変な時期でもあった。わからなければユーモアやファンタジーで返すなり「どうしてだろうね」で済ますこともあったけど、「‘やっぱり’って何?」とか「‘面白い’ってどんなの?」とかちょっと簡単にかわせないようなことを聞いてくることもあったし、自分だってその年齢でさんざん使いこなしてきておいて、今さら何ってことを聞いてくることもあった。「今、なんで‘ふーん’て言ったの?」「なんで‘そう’って言ったの?」とかまで聞いてこられて、そりゃただの相槌やがな。と呆れたものだった。

 そんな息子、慎重なようで、もっと小さい頃に2語文や3語文は出ていたけど、なかなか長文を喋らなかった。あまりにグズグズがひどいから、早く喋って気持ちを伝えられるようになれば良いなとも思っていた。
 それが2歳7か月になって、いきなりめちゃめちゃ喋り出した。グズグズもひどかったが、グズグズと食事と寝る意外、ずっと喋っていたと言って良い。起きてすぐに喋りはじめ寝落ち直前まで喋るので、夫と秘かに「さんまちゃん」と呼んでいたものだった。

 何か話してくれた時に「そうなの」という返事も許してもらえず、オウム返しをして共感していることを示すまで、ずっと同じことを言い続けてきた。当然料理中もお構いなしに挑んでくるのである。繰り返さなければいけないから、その言葉をきちんと聞いていないといけなくて、とにかく疲れた。結局話し始めたところでグズグズは変わらなかったし。10歳近くまでグズグズ絡んでは号泣する日々が続いてしまった。グズグズ理不尽なことを言って絡んできて号泣し大喧嘩になってしまうか、そうでなければ喋っているかだった。私に静寂を下さ~い!! と心の中で夕日に向かって叫ぶ日々でした。いやほんとに。息子の喋り相手は相当な疲労困憊。消耗しました。


 そのことを象徴する話も一つ挙げましょう。
 高熱を出し、嘔吐と下痢で苦しんだ3~4歳頃のこと。係りつけの小児科に行くと、点滴をすることになった。
 息子は普段、病気や風邪でも、8度くらいの熱でも起き上がってウロウロしていたり、横になっていてもずっと喋っていたりした。赤ん坊や小さい子供の中にはそういう子もいるらしく、息子はその典型例だった。点滴している部屋でも、皆グッタリしているのに、我が子だけは違う。この子に本当に点滴は必要なのか?!と周りの人は思っていたに違いない。
 

 一日目は40度くらいあったので、さすがにおとなしくしていた。

 でも二日目。熱は少し下がったのだが、まだ高熱で何も食べることはできない。前日に言われたこともあって、長時間の点滴を受けることになった。

 でもその日の息子は前日よりは元気。周りの静かに寝ている子供たちをよそに、息子は1人で「○△は?」「ふーんそっかー」「△□は?」と点滴周辺の物に興味があったり、前日とは違う病室なので、何かと気になるらしく、あれは何、これは何と止まらない。周りの子たちが気になるので静かにしてほしいのだが、大きな声というほどでもなく騒ぐわけでもなく。でもその度に咳込む。私が「あんまり喋ったら咳込むよ。静かにしてたほうが良いよ」と言うのだが、「静かにしてるとは?」(当時の息子の独特の言い回し。「静かにしてると、どうなるの?」という意味。最後の「は」が余分)と聞く。
私「咳が落ち着くから」
息子「咳が落ち着くとは?(咳が落ち着くとどうなるの?)」
私「風邪がよくなるよ。」
息子「良くなるの? ゲホゲホゲホ!!……○○くん(自分の名前)風邪気味だわ……。」
私「風邪気味じゃないよ。風邪なんだよ。」 
その後も、しつこく喋っては咳き込む度に「○○くん風邪だわ…」とか「○○くん風邪…」とかいちいち言う。
息子「風邪気味じゃないの? 風邪なの? 風邪だとは?(風邪だとどうなるの?)」
私「しんどい。ってなるでしょ。(もうだいぶウンザリしている)」
と、ずっとこんな調子だった。

 今思い返せば、私も付き合いが良かった。でも付き合いが良くて、良かったと思う。息子の性格的なものでよく喋っていたにしても、おかげさまで私の気分に関係なく喋り続けた。
 今ではお笑い番組や映画、ゲーム、漫画や本のことで話をすることもあるし、さらに少し気持ちが大人になったのか、中学生の頃よりまた喋るようになっている。詳しくはないけれど友達の話も少しはしてくれる。

 住んでいる所が田舎なので、大学生になったらおそらく一人暮らしを始めるだろう。この先、どうなるかはわからない。子育てなんて常に不安と自信のなさが隣り合わせだ。これで良いのか、今後どうなるのか。あと数年したら離れて暮らし始め、その方がこちらも日常になってしまうだろうけど、この短い、いっぱい面白く喋った時間を、どうか時々思い返してほしい。


#エッセイ #子育て #喋る  

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。