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子供ができて知った、子供をかわいがる人のいるありがたさ

 息子ができるまで、子供はどう扱って良いのやら、どこかで赤ちゃんが泣いても、うるさいなあ……くらい。赤ちゃんや子供に対しての私って、嫌いでなかったにしても素っ気なかったと思い返す。

 
 だから自分に子供ができると、周りの人たちの優しさを、特別で大切にしたいもの、と感じる場面が多かった。

 レストランで、親子らしき二人がこちらを見て「まあ可愛い! 抱っこして良いですか?」と、息子を抱っこしてあやす。病院の待合室で、隣りに座るおばさんが退屈している息子に対し、静かに自分の眼鏡をはずしてみたりかけてみたりして、ソッとあやしてくれる。子供がいないカップルたちも、声をかけてくれる。赤ちゃんや子供を可愛い、大切にしたい、と思ってくれている方たちがこんなにいるんだなと驚き、ありがたく、嬉しかった。

***

 その日は、妊娠中にできたショッピングモールに連れて行こうと、楽しみにしていた。

 最寄りの駅からたった一つ隣りの駅。

 ベビーカーに息子を乗せての、初めての電車。ワクワクしながらカバンにオムツなど必要な物をつめて、あれこれと妄想する。息子は電車に乗るのを楽しんでくれるかな。外の景色を楽しむのかな。
 
 エレベーターに乗り、ホームに着く。電車がホームに入ってきた。いよいよ電車に乗る。ショッピングモールももうすぐだ。

 ホームと電車には思いのほか段差があるんだなと思い、がに股になりながらベビーカーをよいしょと持ち上げ、電車に乗せる。
 幸い電車は空いていて、ベビーカーをたたもうかなどと心配する必要はない。
 息子は楽しんでいるかな。たった一駅だけどね! などと思いながら顔をのぞき込む。

 おっと。表情があやしいぞ。

 ドアが閉まり、電車が動き出した。間もなく。
 息子は全力で泣き出した。

 えええ! 

 たった数分のはずの一駅がとても長く感じる。必死であやしてみる。外を見せてみる。抱っこしてあれこれ声をかける。全然泣き止まない。わあみんな、ごめんなさい!! もっと楽しんでくれるかと思ったんです! 何やっても泣き止みません! ウチの子、泣き出すとパニックになるんです!! 叫びたい思いを心の中で繰り返す。

 次の駅に着く頃には、激しい泣きから何とかグズグズ程度になった息子。
 気が動転していた私は、まだグズグズしている息子なのに何故かベビーカーに戻し、電車を降りようとした。

 すると前を歩く、明らかにだいぶ年上のおじさまが振り返って立ち止まり、息子をのぞき込む。な、なに? と戸惑う間もなく、ベビーカーの、赤ちゃんが足を通し手でつかまる部分を持ち、電車とホームとの間を、一緒に運んでくれた。

 「ありがとうございます!」
 泣きそうになっていた私に、おじさまはひょこっとお辞儀をしてその場を去って行った。

 息子と一緒の電車デビューはほろ苦く、でもあのおじさまのおかげで、私はベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さんたちに、優しくできるようになった。

 そしてその後、電車の時刻表を読み込むほど、息子は電車が大好きになる。

#エッセイ #電車 #初めての #息子 #赤ちゃん #子供


読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。