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初めてのアルバイトはスーパーの品出し

 初めてのアルバイトは、スーパーマーケットの品出しだった。
 ほんの一週間、雇ってくれないかと直接、地元のコープ生協にも電話して聞いてみていた。

 近くのスーパーに聞いて回っていたところ、電話をかけ直してくれたのがそこの生協の店舗。
 忙しいクリスマスシーズンの、品出しを提案してくれて初めてのアルバイトに臨んだ。

 タイムカードの存在を知り、仕事をする人の挨拶を教えてもらい、品出しの仕事自体を教わり、接客を少しは教えてもらい。
 まったくの初めてで、知らないことだらけだったけど、少しずつ慣れていった。

 店の裏に行って担当の売り場の段ボールを見つけ出し運んでいると、アルバイト仲間が声をかけてくれた。同じ年頃の男の子がほとんどで、女子校に通っていた私には新鮮で楽しかった。
 ちょっとやんちゃタイプの男の子たちが私の学校名を知ると「めっちゃお嬢さま学校やん。なんでバイトしてんの」って興味津々で聞いてくる。「えっ。なんでって。やってみたかったから」って笑うと「そうか」とどう返事したら良いのかわからない顔していた。
 でも時間が空けば彼らと喋って楽しかった。

 中でもおじさん店長や特に現場でよく顔を出す副店長が可愛がってくれた。
 「働いてるか?」「がんばってるなあ」って時々声をかけてくれる。
 店頭での販売にヘルプで入り、お客さんが多くてパニックになっていると、もうお金のやり取りがむちゃくちゃになってきた。お客さんのお釣りを訂正しながら「パニックです」などと訴えると「ワケがわからんくなってきたんか。ええで、休んどき」と引っ込めてくれて、責められることはなかった。

 クリスマスが終わると、その日の閉店時間からすぐに貼り紙など飾りつけを変える作業が始まる。
 「もうすぐバイト終わるもんなあ。見ていくか?」と言われて、勤務時間過ぎていたけど少し手伝うことになった。
 「ここもクリスマスっぽいやろ?」「あれも変えるんや」天井から下がっているポスターも指差し、次々と棚の貼り紙やキラキラの飾りなどをはがし、年末年始の飾りつけをしていく。
 へえ。こんな細かなところまで気が配られているんだー。
 興味津々で荷物持ち担当としてついて歩く。

 一週間働き終えて、店長に呼び出された。
 「お疲れさん。初めてでようがんばったな。バイト料や」と封筒を渡された。

 うわぁ。嬉しい。

 当時の私は顔に出ていただろうか。今以上に表情をコントロールできていなかったかもしれない。
 茶封筒の「バイト代」の文字。ペンで書いてある。

 そして同時にみんなとのお別れ。たった一週間だったけど、毎日7時間身体を動かした。
 一緒に働いていた男の子たちも「今日で終わりか。寂しいな」と挨拶してくれた(その後も一年ほど交流が続いた)。

 店長が私の顔を見て言った。
 「おおーう。泣くな!」

 ああ。どうしよう。胸がいっぱいだ。初めて外で働いてお給料をもらった。外の世界をのぞくってこんな感じなんだ。もう間もなく大学生の私は、少しずつ社会に出て自分の足で歩いていくんだな。
 こぼれ落ちそうになる涙をなんとかこらえ、笑って挨拶した。
 「一週間、ありがとうございました」

 それでもけっきょく駅まで数分は、年末の寒い風に涙を拭いてもらいながら歩いた。

 若かったなあ私。なんて青くてかわいい18歳。

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 再び、メディアパルさんの企画に参加です。
 前回書いていて、初めてのアルバイトがスーパーだったのを改めて振り返っていました。思い入れあるので、好きなスーパーと言って良いかもしれません。すごくローカルな地域の生協でした。
 近々、そのスーパーにうかがう機会がありそうです。



読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。