時々思い出す、可愛くて大好きだった友達
目がクリクリと丸くて大きくて。目と同じで顔も丸い。髪は長くてサラサラの彼女。細くて可愛い声をしていた。ほんの少しだけぽっちゃりしていて、ほんの少しだけおどおどしていて、その態度や様子がまた可愛かった。
小学一年生の秋に帰国した後、三年生の時、市内で引っ越しをした。兄の中学校のことを考えたそうで。又、母が義父母や両親から離れた方が良いと判断したのだろうか。
私は転校した先で委縮していたけど、大好きな友達ができた。
私の住んでいたマンションの隣りに、彼女はお父さんの社宅に住み、下校が一緒。
おとなしかったけど、漫画やイラストが上手で、自分の世界を持っていた。下校後、離れがたく、マンションの下で度々、お喋りを楽しんだ。彼女は自分の描いた可愛い女の子の絵を、よく見せてくれた。
「うわあ……」
彼女の絵を見る度に、私も夢心地になる。
「大きくなったら、漫画家か、服のデザイナーになりたいな」
彼女は将来について語った。
「ふぅん……」
帰宅後すぐ母に「デザイナーってナニ?」と聞いて、「私もなれるかなあ?」と、訳もわからず彼女の描く絵に憧れた。
私たちは、そのうち、いじめっ子にそれぞれいじめられ、仲を引き裂かれそうだった。学校で互いに口を聞くと、いじめはエスカレートしたので、仲の悪いフリをした。でも「学校の中でもいじめっ子が近くにいない時は普通に話そうよ」と言われたのに、私はできなかった。他の女の子たちもいじめっ子に抵抗できずにいたし、一緒になって意地悪言ってくる子もいたから、どこで誰が見て告げ口されるかわからない。私は怖がってしまって、学校の敷地内だと仲の悪いフリを続けた。
彼女の要望を、自分への保身だけで聞けなかったことを今でも後悔している。臆病で心が狭いな。私は帰国後の、学校の集団に対する恐怖心と、転校によって、委縮がとにかくひどかったのだ。ウチの中でも私には疎外感が強かった。
でも下校してからも結局待ち合わせて、二人の時間をいっぱい過ごした。滑り台で、いじめっ子へのストレスを発散するべく大声で叫んだり。ブランコに乗って「8時だよ全員集合」や漫画「あさりちゃん」の話をして笑ったり。彼女は私が帰国子女って知ってたから「〇〇って英語でなんて言うの?」と無邪気に聞いてくれた。
遠足の時。歩きながら気の緩んだ私は、彼女と並んでお喋りを楽しんでいた。
お喋りに夢中になった彼女は、私の方を向いてとにかく喋りつづけた。
「ちょっと、電柱に気づいてる? すごく近づいてるよ」なんて指摘する間もなく、彼女は私の方を向いたまま電柱に激突した。絵に描いたように、両手が電柱の両側から出ていた。
えええ! 信じられない。
私だって彼女をずっとしっかり見ていたわけではない。彼女の視線がまさか「まったく」前を向いていないなんて思わないじゃないか。普通ちらちらと前を確認しながら歩かないかい?
「大丈夫?」
心配になって、顔に手を当てている彼女をのぞき込んだけど「うわあびっくりした」と言っただけで、それほど痛がっていなかった。きっと恥ずかしかったのだろう。
その後、喋り続け、ふと横を見ると、彼女がスン! と視界から消えた。
えええ!
今度は溝に落ちたのだ。
ひざ丈もない程度の側溝だけど、でも真横を向いたら彼女の顔があったはずなのに、急に消えたらびっくりするじゃないか。
彼女はなかなかの鈍臭さを持ち合わせていて、笑いが止まらなくなった。
ますます彼女が好きになった。
ある日。
何度か上がったことのある彼女のウチに行くと、飼っていたハムスターの様子がおかしいのと言う。
「冷たくなってきちゃったの。ハムちゃん」
名前を呼んで、彼女はハムスターを両手で包み込むように乗せて泣いている。
家族はその時誰もいなかった。
「どうしよう。コタツに入れたら温かくなる?」
コタツに潜り込んだ彼女は、わあわあ泣きじゃくり出した。
一緒にコタツに潜り込んだ私は、何も言えなくて、心臓がドキドキして、一緒に涙が出てくるだけだ。ハムスターに特に愛着があるわけじゃない。彼女が声をあげて泣いているのが悲しかった。
しばらくしたらお母さんが帰ってきて、私は帰された。
励まし方も慰め方もわからない。無力な自分を思い知って、とぼとぼ帰ってきた。
私にとっては、彼女との強烈な思い出となった。
当時はプラバンが流行っていて、プラスチックの板に絵を描き、それをトースターでちょっと焼いて、縮ませる。私はしなかったけど、絵の上手な彼女はたくさんのマンガを描いて、私にプレゼントしてくれた。
彼女が、お父さんの転勤で引っ越してしまってから、私はその小学校で長い間、友達ができなかった。イジメはエスカレートし、彼女が恋しかった。時々プラバンを、大切なオルゴールの中から出してきて眺めた。
今どこで何をしているのかわからない。
ちょっと変わった名字だったけど、結婚していたら名字も変わっているかもしれない。調べてみてもよくわからない。
絵は今でも好きかな。私のこと、覚えてるかな。私には何の得意なことも、インパクトの強いエピソードもなかったから。忘れられているかもしれないな。
でもこういう風に、心の中で生き続けている思い出の友達と、私は時々会いたくなる。もう何十年も経っているけど、私の心の中ではまだ友達だなあ。
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。