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お風呂好きな息子

 よーしよしよし、大丈夫。大丈夫だよ~。
 「気持ち良いね~」
 1歳くらいの息子を抱え上げて、一緒に湯船に入る。湯船はホンワカ~。私の心もホンワ……
 「ギャー!!!!!!」

 決まって息子は泣き出す。
 なんで。なんでなのよ。なんで私の時はこんなに泣くのよ!


 昼間はほぼ毎日、二人きり。お風呂くらいはゆっくり入りたい。あと大きくなる過程でも大きくなってからも、父親と息子で語らってほしい。
 そんな願いも込め、「お風呂の役割はお願い」と夫に伝え、息子とのお風呂は夫にまかせてきた。
 一人で入れるようになってからも、二人だと風呂場が小さく感じる中学生の途中くらいまで。夫にとっては楽しみでもあったようで。仕事がまだ残っていても、息子とお風呂に一緒に入るために一旦帰宅するほど、二人はお風呂でゴキゲンにお喋りしているのだった。

 そのおかげなのか、そのせいなのか、夫の出張時、私とお風呂に入る時の幼少期の息子は例外なく泣いた。大がつくほどの号泣だ。
 こだわりと、かんしゃくが強くて気難しかったから、私ではイヤなのか。その大号泣を浴室で響かせている息子を見て、私も段々泣けてくる。
 なんなのよ。そんなにイヤなのかい。お父さんと入るのに慣れているにしても、お母さんとのお風呂を、ここまでいやがるとは思ってもみないじゃないか。

 息子はとにかく夫とのお風呂タイムが好きなようだった。お風呂前に、どんなにグズグズ泣いていても、駄々こね激しく泣きながら浴室に連れて行かれても、上がったらゴキゲンになっていた。

 おもしろーい。

 ビフォーアフターみたい。

 風呂前。
 風呂後。
 写真でも撮っておけば良かった。

 血色の良いツヤツヤの顔で、タオルで拭いてやる私にお喋りが止まらない。なんなら歌ったり踊ったりして見せてくれる。お笑い芸人の真似もしてくれる。もう寝る前だから興奮しない方が良いよ。なんて耳に入らないくらい、本人は楽しそうだ。

 一時、シャンプーをいやがったので、夫がロック風「シャンプーの歌」を作って、それを歌いながら息子の頭を洗うと、それも喜んだ。
 夫と一緒のお風呂は、何やっても喜ぶんだよなあ。

 その頃には、「今日は母さん?」て受け入れてくれるようになるのだけど、それまで年月かかったものだ。
 息子がお風呂でごっこ遊びをするようになってからは、湯船につかっている時間が長くなった。のぼせるので、勘弁してほしいくらい。
 でもいつの間にか「今日は母さんと入ろう」と言わなくなった。ああもっと楽しそうに遊んで、息子に喜んでもらえたら良かった。最後の一緒のお風呂は、私はのぼせた顔で、面倒くさそ~に、ごっこ遊びに付き合っていた記憶。終わってしまえば、短い幸せな時間だったのだ。

 それから何年か、父息子で入っていたし、一人で入るようになった今も、温泉には父息子で入る。ただ今年度は受験だし、このご時世も重なって、ながらく温泉には行っていない。

 でも一人であっても、息子はお風呂で大声で歌い、頭を整理しているのかブツブツ何やら言っている日もある。
 先日の息子は、帰宅後ずっと機嫌が今一つで、困ったもんだなーと思いつつ、私はいつも通りに振舞う。
 お喋りな息子が、車の中でも言葉数少なく、晩御飯を食べてテレビを一緒に観ながら少し笑い、お風呂に入った。

 でも。

 風呂から上がると、ヒジョーに機嫌が良い。
 なんなら踊ってもくれるし、やっぱりお笑い芸人のモノマネだってしてくれるぞ。幼少期より精度も上がっているぞ。

 「パンツくらいはいてよ」と笑い転げながら、そう言えば息子は昔からお風呂が好きだったなあと思い出した。


#エッセイ #お風呂 #お風呂好き #父息子 #息子 #機嫌が良くなる

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。