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「それでダメだったら、最初からダメだったんだし、これからもダメなんだよ」の真意を知る

 結婚して22年ちょっと経つのに、今さら「あれ? 夫って、話せばわかるんだ……」と思い始めている。

 好きなミュージシャンが一緒だった、から始まって、好きな音楽のジャンル、好きな曲、好きな画家、好きな色が似ていた。面白いと思う映画、可笑しいと思うお笑い芸人、テレビ番組。いまだに話が尽きない。新婚の頃はよく深夜3時ころまで、それぞれ自分の布団で天井を眺めながら話し続けた。
 たくさんの共通の好みがある分、ちょっとした違いは「よく認識していたつもり」。
 でもそうでもなかったのかもしれない。

 付き合っていた頃、「こんなこと言うとダメかもしれないけど」「駆け引きできないからこれからも重たくてごめんね」などと、二人の先の不安を私が口にする度に、
「それでダメだったら、最初からダメだったんだし、これからもダメなんだよ」
と言われて安心したものだった。

 でも、その言葉の本質的なところが私はわかっていなかったのだなあ。と、最近実感するようになっている。


 22年経っても色々と発見はあるものだと思っていたけど、まさかこんな根本的なところがわかっていなかったとは。

 ようやく気が付いたのか私は。なんて鈍かったのだろう私。どこを見ていたのだろう私。人を見る目に自信があったつもりだったけど、本当に大丈夫なのか私。 


 気が付いたのには、前フリがある。

 ちょっと前に田中泰延さんの講演会があって、夫に誘われていた。でも私は体調が悪くて外出が厳しかったので、「今日は出られない」と告げると、夫は「そうかあー」と残念そうにしつつ、一人で行ってきた。
 そういった集まりに、一人でサッサと出られるのが夫だ。改めて私と全然違うんだなと思った。夜、電話がかかってきて「この後の懇親会に出るから遅くなっちゃう」と言ってきた。
 夫は一人でもそういう所が平気。
 そして田中泰延さんと映画の話でもして、彼の本だけでなく、夫の好きな映画(田中泰延さんの「街角のクリエイティブ」で力説していた映画の中の二つ)のパンフレットにサインもらって、ご機嫌で帰ってきた。

 講演会でも私は気後れするから、夫と一緒なら、って程度なのに。その後の懇親会なんてますます足がすくむのに。
 これが、「そう言えば、夫と私って全然違うよなあ」と改めて感じたきっかけとなり、その後、改めて夫を客観的に見ることにつながった。


 今年、町内会の班長の役割が回ってきて、我が家は清掃担当の部長になってしまった。
 だから、清掃に関する連絡事項をしたり、会合には必ず出たり。

 会合は夫婦どちらかが出れば良いのだけど、主にダンナさんが出ている世帯が多い。
 もちろん決まりはなく、奥さん側が出ている世帯もある。それぞれ家庭の事情もあるし、そういう集まりがただただ好きな奥さんもいる。

 最初の頃、夫が私を誘うので出てみた。が、その会合の様子がわかってイヤだと抵抗した。人が集まるところは苦手なのもあったし、どちらかがいれば良いのに夫婦でこまめに出ていると、夫が忙しければ奥さんに是が非でも頼みたいと思われる。積極的だと思われるのがとても負担だ。

 私は近所に会報を配って歩くのですら、できない日があるくらい体調が安定しない。運転はできても歩くのが辛いとかザラにある。できるだけ明るく笑顔で応対したとしてもそれが限界で、自宅の玄関のドアを閉めた途端、「ふあ~~!」と横に倒れ込んでいる時だってある。運転が辛いくらいクラクラとメニエールに見舞われている日もある。急にメニエールが来る時もある。
 だから、そう無責任にあれこれ引き受けられない。

 もちろん各家庭それぞれ事情はあるだろう。みんなだっていちいちそれを話さない。

 そんなわけで会合に夫婦で参加するのはイヤなのだけど、夫は会合に参加して皆の前で話し、連絡事項を伝えるのは平気なので出てくれる。

 その代わり、夫が面倒くさがる各家庭への訪問、チラシ配り、電話、個人個人への頼み事は私が平気なので請け負った。

 面倒くさいし好きでもないし体力的にキツイ日もあるけれど、世間話したり、一対一で顔を合わせたりするのはそれほど負担ではない。多分夫の参加する会合と同じ温度で、私は個人個人の家に行ったり電話をかけたりして頼みごとをする。

***

 夫と何でもない会話はいくらでも楽しめる。人に対する考え方など真面目な話もしてきた。子供の話も、面白話、相談、愚痴、真剣な家族関係の話までたくさん積み重ねてきた。

 でも、「これはイヤ」「私はできない」という内容に関して、以前は私が卑屈になり過ぎて、伝えにくかった。私って何てダメなんだろうという負い目があったり、夫に負担させる罪悪感があったり。

 だからそういったことに関しては、夫にメールで伝えていた。ただ伝わっているのかどうか、元々筆不精で、メールになると不愛想な夫は返事もくれないし、何度同じことを伝えてもあまり響かない気がした。

 伝わっていないんじゃないかと感情をため込んでから、爆発させるようにようやく話していた内容もある。そんな時はもう私の気持ちはパンパンで、毎回重たいものになり、結局夫を傷つけてしまう。

 でも町内会のことで、直接言うしかないタイミングが何度もあって話していると、直接言う方が夫に伝わると今さら気が付いた。

 ちょっとした文句や不満、言いにくいことも、その場で言うと、夫は意外と嫌がらない。「え~」とかムスッとしながらも夫は、その場で気持ちや感情を処理するので、私みたいにいつまでもウジウジしないタイプなのだと今さら気が付いた。

 へえー……。

 知らなかったデス。

 22年以上もかかってしまった。

 「それでダメだったら、最初からダメだったんだし、これからもダメなんだよ」の、本当の意味が今さらわかって、私が口にした時の夫の反応を楽しめるようにすらなってきた。

 町内会の班長は大変だけど、そこで、それぞれの役割が段々ハッキリしてきたおかげで、夫婦を、男女より相棒の意味での「パートナー」として感じられるのは面白い。
 年数経ってもまだまだ、私は私の夫とコミュニケートする面白さを感じられる。これからも楽しみだ。


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#それぞれの役割

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。