理想のピスタチオアイスに、出会いたい!
はやる気持ちを抑えながら、ひとすくい、スプーンに取って口に入れる。
「ちがーう! やり直しだ、やり直し!」
「失望」の二文字を顔に貼りつかせて、カップを床に叩きつけた。
なんて。
ドラマみたいなことしてませんがね。黙ってきちんと完食しましたがね。すごーくそんな気持ちになりました。
数年前。
だって、やっとやっと日本に、そしてこの田舎街にも、ピスタチオアイスクリームが来たのだ。
***
アイスクリームについて、他の食べ物よりほんの少しこだわる。
何故なら。
好きだからだ。
初めての長期(と言っても半年ほど)のアルバイトも、大学一年生の時のサーティワン。
30年ちょっと前。独立した店舗が大学と家の間の駅近くにあった。
バイトに行くと、店長の計らいで、休憩時間に、必ず一つ食べさせてもらえた。新商品が来たらひとすくい、スプーンで試食して、味をお客さんに伝えられるようにしなければならなかった。
もう天国。
ここで私は順調に太った。
そして20代半ば、ニュージャージーに住んだ時、ピスタチオアイスと出会う。
ナッツ類の中でも、ピスタチオはダントツに好き。噛む度に広がる独特の強い香りが。ぶわっと広がる。ほんのり塩味との調和もたまらない。
少量でも値段が高いし、カロリーが高いから、度々は食べられないけれど、時には一袋買って、貪り食ってしまう。夫の前でも子供の前でも、ガツガツ食べるのは恥ずかしいから、遠慮しようと思うのに、どうしてもピスタチオの前では私の理性が飛んでしまう。最初は我慢しているけど、気が付くと夢中でガッツいてしまう自分に気づいて、何度恥ずかしくなっただろう。
大好きなアイスの中に、大好きなピスタチオの味。
「もう何でこんなに美味しいんやろう。止まらへんわ」と中学からの友人で、ルームメイトとなった彼女に何度も言った。夫にも「ピスタチオアイスが美味しい!」と主張した。
帰国して、ピスタチオアイスが食べられないのが唯一の心残りだった。
唯一の。
そのくらい恋しかった。
そして数年前。
某チェーン店カフェで、ピスタチオアイスがアイスクリームケースに並んでいるではないか。
うわぁ。
とうとう日本にも来たんだ。
嬉しくて注文した。
席について、一呼吸つき。ひとすくい。口に入れる。
で。冒頭の気持ち。
「ちがーーーーーう!」
ピスタチオの香りがしない。
もちろんアイスもカップもぶちまけないけどさ。
苦い気持ちで黙々と食べきった。
あの失望感が怖くて、その後、ピスタチオアイスを見かけても、見えないフリをしてやり過ごした。
時々、出てきては消えるピスタチオアイスの存在。
テレビなどから視界に入ってくる。でも私は信じていなかった。どうせピスタチオ風味のしない「ピスタチオ風味」風なんだ。
信じないぞ。
騙されないからね。
……。
強がったよ。
我慢したさ。
もう傷つけられたくない。
チョコミントアイスを好きになって、その気持ちを誤魔化した。
でも代わりなんてなかったんだ!
……えーと。
そうやって数年、警戒していた。
ところがつい最近、しっかり目に入ってきてしまった。
ピスタチオアイス。
意を決して夫の持つカゴに入れた。
「試してみる」
「おっ。美味しそうじゃな~い?」
傷ついているなんて知らない夫はノリノリだ。きっと自分も分け前をもらえると思っている。
久しぶりの挑戦だ。
楽しみだ。
会いたかったよ。ピスタチオアイス。
恋しかったよ。
あれから何年も経っている。そろそろ濃い風味のものが浸透してきたんじゃないか。うるさいピスタチオファンの存在のおかげで、ずいぶん味も改善されたのではないか。だってもうパッケージが美味しそうではないか。しかもマカロンだよ。
歳のせいで、あまりアイスクリームを受け入れない胃になってきている私だけど、今日は良いだろう。
帰宅後、ワクワクしながら取り出し。
断面を写そうと割る。
一口。
食す。
「……。」
ちがーーーーーう!
頭の中で、また叩きつけたくなる。
周りを覆うマカロンのせいでは。と別々に食べてみる。マカロンはマカロン味だった。アイスの部分は……アイス味。「ピスタチオ」と謳っていなければ、普通の美味しいアイス。
そう。美味しかったのよ。
アイスクリームとしてはね。
だけど。
香り高いピスタチオ風味にこだわる人は少ないのか。
強いピスタチオ風味を欲する人はいないのか。
そもそも味にうるさくない。私。そこそこに美味しければ良い。
でも理想のピスタチオアイスは譲れない。
まだ全然出会ったことがない。日本で美味しいピスタチオアイス。
どこかの会社で頑張ってほしい。もしかして需要がないのだろうか。
※今回の商品、マカロンの方にピスタチオ風味がついていたからアイスは違ったのかな。いやどちらにしてもピスタチオの香りは私には足りずでした。
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。