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パソコンがつなげたものは

 働いたお金を貯めて、1996年、25歳になる前の私は、念願のニュージャージー暮らしを始めたところだった。
 ルームメイトとなった彼女は、中学一年生からの友人である。知り合って間もなく、彼女も幼少期にニュージャージーに住んでいたことがわかり、まあまあ近い距離で、居た時期もかぶっていた。すごいね、どこかですれ違っていたかもね、縁だね! と喜んだ。

 彼女はその後、受験して別の大学に行ったけど、私たちは手紙を交わし続けていた。ある時期、そういえば手紙がしばらく来ないなと思ったら、地元の自動車教習所でバッタリ。大学辞めてニュージャージーに住む、と話してくれた。

 私も久しぶりに行きたかったので、卒業旅行としてそちらに行ってみたら、住みたいという思いが強くなった。彼女が暮らし始めてからもう5年くらい経っていたっけ。その頃に彼女の厚意で一緒に住み始めることになる。

 彼女は現地の短大から大学に移り、勉強をするにあたってどうしても家でのパソコンの作業が必要らしく、パソコンを買いに行くことになっていた。私がニュージャージーに着いて3日目のことである。

 当時、ウィンドウズ95が日本でも出てきて、ちょっとしたパソコンブームがあるのを、ニュースで人ごとのように見ていた。私には縁のないものだと思っていたけど、ニュージャージーに来て、いきなりそんなものに触れる機会がくるなんて、思ってもみなかった。

 そしてその時、パソコンを選んだり周辺機器を選んだりするのに付き合ってくれ、帰宅後に接続を手伝ってくれたのが、後の私の夫である。

 「最初は、好きなこと調べたり、ゲームで遊んだり、何でも良いから触って楽しめば良いんだよ」「誰かEメールできるような人、いないの?」と夫となる彼は言っていた。3歳上の彼は、自身が大学生の頃から、必要で使っていたらしい。

 「パソコン始めてん。電子メールアドレスっていうのを作ったから、教えとくね!」と言って、メールアドレスを教えてくれていた日本の友人がいたのを思い出し、彼女にメールを書いて送ったら、返事が来た。ものすごく嬉しかった。手紙を書くのが大好きな私にピッタリのものだと思った。しかも知り合いのほとんどが遠く日本にいるわけで、遠くにいる人たちと、こんなにすぐに連絡が取れるってすごい! 

 その後、私は夫となる彼とメールを交わし、彼の人柄をそれで知ることになった。ほんのちょっとしたことからである。

 夫は基本、筆不精。面と向かって言葉にできるタイプなのに、文面となると、途端に全然愛想がなくて言葉が少ない。それでも彼の文面からその人柄を感じた。この人、変に気を使ったり、飾ったりせずに、すごく素直に気持ちを言葉で表現できる人なんだ。何度も会わないと、人柄なんてわからないから、特に第一印象も良くはなかった私にとって、また会おうと思えたきっかけの一つが、メールだった。

 その初めてのパソコンで、友人は大学の勉強をし、数々の宿題をこなしていた。そして一緒に使わせてもらっていた私にとっては、夫を知ることができたものとして、とても恩を感じる存在となった。


#エッセイ #ウィンドウズ95 #メール

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