見出し画像

[ライブレポート] スティーヴ・ガッド BHGプロジェクト@ミューザ川崎シンフォニーホール

かわさきジャズが盛り上がっている。今宵はスティーヴ・ガッド(drs)、ミカエル・ブリチャー(sax)、ダン・ヘマー(H.org)から成るユニット、"BHG"をミューザ川崎シンフォニーホールで聴いた。

BHGというのは、ブリチャー(Blicher)、ヘマー(Hemmer)、ガッド(Gadd)の略で、3人のイニシャルを並べたもの。発端は、ミカエルが14年前に生地デンマークを訪れたスティーヴのワークショップに参加した折に、ダンと共演したCDを渡したらスティーヴが気に入って、1年半後に初共演が実現。以来トリオとして12年間活動しており、今回も2か月前からのツアーの最中で、「このホールはツアー中一番大きい会場だね」とミカエルがMCで語る。そのホールは2階席までほぼ人で埋まっている。ステージにはハモンドB-3と、ドラムセットが鎮座している。2階席でちょうどオルガンを斜め後ろから見る位置。3人の行動が上から良く見える。

1st、盛大な拍手と共に3人が入場。客席から「ガッドちゃーん!」という掛け声が掛かって、会場が和む。早速スティーヴがジャケットを脱ぐ。おもむろにオルガンと、スティーヴが両手で2本ずつ持ったブラシで曲が始まる。曲は「Omara」。スローな16ビート。ミカエルのマイルドでとてもいい音のするテナーがシンフォニーホールの高い天井に心地良く響く。彼のテナーは吐く息がすべて音になっているようなピュアな音色だ。そしてダンのフットペダルが奏でるベースの音が静かに腹に響く。

このステージ、1曲が比較的短い。BHGの新アルバムを中心に旧譜からも演奏。クレジットではスティーヴが先頭に書かれているが、MCは専らミカエルが担当して、メンバーを紹介する。やはりスティーヴに一番大きな拍手が集まって、彼の日本での人気を物語る。

ミカエル・ブリチャー

次はBHGの1stアルバムから「Treme」。歩くくらいのスピードで、ミカエルがテナーで抒情的なテーマを吹く。ダンのオルガンが徐々にファンキー度を増して、ドローバーを色々に切り替えて多彩な音を奏でる。終わると、ミカエルが「どーも、ありがと」とたどたどしい日本語で挨拶するのが微笑ましい。

3曲目はこの9月にリリースされた新アルバム『It will be alright』から「Susanna」。ついにミカエルも上着を脱いで、スティーヴが叩くズンチャ、ズンチャという懐かしいリズムにドライブされてテナーソロが徐々に白熱。転調してさらに盛り上げる。もっとソロが続くかと思うと突然終わるのも小気味よい。

4曲目も新アルバムから「Snow」。その名の通り深々と雪が降るように静かなオルガンをバックに、テナーが穏やかにテーマを吹く。バラードの極致。静寂を音で表すとこうなるのか、と思う演奏。

5曲目は旧譜から「Roll」。シンプルでブルージーなテーマ。ミカエルはテナーソロの合間にタンバリンを叩く。終わったと思って拍手しかけると、それはブレークで、スティーヴがさらに続ける。客席から盛大な拍手。

6曲目は新アルバムのタイトルトラック「It Will Be Alright」。バラードで、ハモンドの優雅な響きの上に良く伸びるテナーの音が乗って哀愁を誘う。会場全体がうっとりと聴き入る。最後、名残惜しむようにテナーが単独でソロを取る。これが高い天井に響いて何とも心地よい。

1st最後も新アルバムから「Lady Tambourine」。これもニューオーリンズを思わせるアップテンポの2拍子を基調とした懐かしいリズム。ミカエルはアルトに持ち替えて、オルガンに絡む。スティーヴのドラムソロはリズムをキープしながらさまざまにパターンを変えて展開していく。ストーリー性のあるドラムソロ。何と抽斗の多いドラマーだろう。これには満場のお客さんも大喝采。

スティーヴ・ガッド

休憩を挟んで、2ndはデンマーク西部の美しい海岸風景をイメージした「Over Klitterne」。デンマーク語で「砂丘を越えて」という意味。シンプルなメロディーを持つスローなワルツ。幻想的なダンのオルガンに、悠久の大地を思わせるミカエルのテナー。ほぼテーマだけの短い曲。

ダン・ヘマー

9曲目は「Get That Motor Running」。一転して快活な8ビート。ミカエルはスティーヴの近くまで寄って行って向き合って、互いにチャレンジするように相手を鼓舞する。

10曲目は新アルバムから「Any Moment Now」。スティーヴはドラムセットを離れて、オルガンのすぐ前に1台だけセットされたスネアをブラシでシャカシャカ擦る音で曲が始まる。ちょうど私のいるステージ斜め後方の2階席から、擦ったり叩いたり変化する彼のブラシワークが良く見える。この絵になるパフォーマンスはウケた。

11曲目はミカエルの曲「I Love It When You Smile」。ティーンエージャーの娘さんにせがまれたら何でも買ってしまう、と、愛娘への愛を表現した曲。優しいテーマのバラードで、穏やかなテナーソロを客席が固唾を呑んで聴く。これもほぼテーマだけの短い曲。

12曲目は「In a Little Spanish Town」。これは1926年に出版されたポピュラーソングで、ビング・クロスビーなどが歌っている。スティーヴがブラシとバスドラで踊り出したくなるようなリズムを叩き、テナーが軽快なテーマを吹く。これはいい曲で、BHGがポップスに新たな息を吹き込んだ感じ。スティーヴのソロはここでもリズムをしっかりキープして、モチーフをさまざまに展開していく。ミカエルはその間じゅう、タンバリンでリズムを叩いて煽る。

ラストは「Korean BBQ」。16ビートでテナーがシンプルなリフのテーマを吹く。途中からリズムが変わって2ビートになり、客席から一斉に手拍子が起きる。

会場が広いので、アンコールの拍手がシンクロするのにやや時間がかかる。アンコール曲はThey Had No Roses。8ビートのちょっと懐かしいオールドスタイル。これがBHGの特徴だ。最後に3人がステージ最前列に並んで、肩を組んで深々とお客さんに一礼する。カメラマンがステージ後方から、ステージ上の3人とその後ろの客席を入れて写真を何枚も撮影していたのも面白い。いい記念になることだろう。

 終演後、皆さん満ち足りた表情で出口に進むのが微笑ましかった。

TEXT:Ikeda Nori(かわさきジャズ公認レポーター)
PHOTO:藤本史昭

●公演情報

MUZAスペシャル・ナイトコンサート スティーヴ・ガッド BHGプロジェクト
日時:2023年10月26日(木)開演19:00(開場18:30)
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

出演:スティーヴ・ガッド(drs)、ミカエル・ブリチャー(sax)、ダン・ヘマー(H.org)

<SETLIST>
01. OMARA
02. TREME
03. SUSANNA
04. SNOW
05. ROLL
06. IT WILL BE ALRIGHT
07. LADY TAMBOURINE
08. OVER KLITTERNE
09. GET THAT MOTOR RUNNING
10. ANY MOMENT NOW
11. I LOVE IT WHEN YOU SMILE
12. IN A LITTLLE SPANISH TOWN
13. KOREAN BBQ

Encore
01. THEY HAD NO ROSES