こどもは人物イラストの練習中
3月1日
「いつか人物も描けるようになって軍隊も描いてみたい」
そういえばお絵描きは好きなのに人物はほとんど描いたことのない子だった。初めて絵を描いたのが3歳の終わり頃で、電車の絵。グルグルのなぐり書きなどは一度もなく、いきなり電車。私の手からシャーペンを取って突然描いた。
それから乗り物ばっかり描いてて、とはいってもマックイーンなど顔のある乗り物も描いてたけど、人を描くのは幼稚園や小学校で課題にされた時だけだった。
最初の人物画は年少さんの時のお父さんお母さん自分の3点セットだった。先生が、
「年少さんだと顔から手が生える手足人になりがちなのに、ちゃんと体から手足が生えてて、みんなにも、ほら腕は体から出てるよね、って見せたんですよ」
と褒められたんだった。
あとは年中年長さんの時の父の日母の日の似顔絵と、小2の図工の自画像。それはここに貼ったら身元がばれそうなくらい似ていた。それ以外はサンタクロースの絵とかも含めて片手で数えるほど。
小2の自画像、そっくりに描けてるってほめたけど、
「先生に言われた通りに描いただけだよ」
と不満そうで、ちっともうれしそうじゃなかった。やっぱり好きなように描きたいんだね。
3月5日
「一日一枚人物の絵描いてる。今日で3枚目」
ここから十年分の人物のお絵描きをして、人物を描かなかった日々を取り戻していくんだろうか。
3月6日
「人物を描くための人形(デッサン人形)がほしい」
そうか、と私はどんなデッサン人形が売られているのか調べる。いまは人形もあればパソコン内で自在に動かせるデッサン人形のアプリもあるのか。どれがどう違うのかこの日のすきま時間をつぎこんで調べる。値段の違い、可動する関節数の違い、デッサン人形代わりになるフィギュア、などなど。
翌日。こんなのとこんなのとあるけどどれがいいかな?と聞く。こどもは無言。
更に翌日。もう一度聞く。
「欲しくない」
あれ?欲しいって言ってたよね?
「言ってない」
あれ?まあいいか。
毎日夕方になるとトイレに行ってからiPadに向かい、人物画を描いている。毎日1枚は仕上げ、日によっては2枚3枚。こどもはASDの特性なのかマイルールができやすい面があって、変なルールにしばられちゃうこともあったけど、こういう習慣ができやすいのはプラスかもしれない。
描き終えると、
「顔と手は難しい」
などと言っている。
3月28日
「どう?」
と描いた絵を見せてくれた。
こどもから見せに来るタイミング以外で見ようとすると、すごく警戒されて隠される。自分が納得しないと見せない。お母さんには見せるけどお父さんは駄目、という場合もある。まだnoteなどに公開してはいけないらしい。
私は自分が思った以上にほめたり感動してみせたりしない(わあ~すご~い!みたいな演技をするとこどもは不審な目で見てくる)ので、
「ああ、色がついたね。うん」
くらいの感想しか言わなかったりするけど、こどもは満足してまた続きを描きに行く。たぶん、見守られてる感がほしいだけで、絵の評価は求められていない。
4月15日
「最近、難しいもの描くようになったら時間かかるから、午前中に描くもの考えて、午後すぐ始めないと間に合わないの気づいた」
と真面目な顔で言い、本当に昼ごはんのあとから描き始め、6時間くらいずーっと描いて1枚仕上げるようになった。
昼ごろにiPadの電池が少ないと、
「17%しかないじゃないか」
などと言われるので、うっかり私がnoteで電池を消費してしまわないように気をつけないといけない。
しかし私やお父さんがiPadを使っていても、使いたいとは言わずに、ただ漫画を読んだりして黙っていて、空いても、使っていいかと聞かずにしばらく様子を見て、こちらが察して「いいよ」って言ったり、もうよさそうだと見るとうれしそうに使い始める。
「使いたい」と言ってくれればいいのに、と思うけど、私も昔はそういう子どもだったので想像はつく。気心の知れた相手にでも、一声かけるよりも、やりたいことを我慢して黙って待ってるほうが精神的に楽なのだった。
人物といって何を描いているかというと、銃を構えた兵士、戦車の横につく歩兵、塹壕戦の風景、屋根無しのジープに乗っている兵士、などのミリタリーなものもあれば、走っている普通の人だったり、なんかのアニメのキャラクター(東方projectの霊夢と魔理沙など)だったり、初音ミクの日もある。
背景はネット検索した画像を参考にコンビニを描いたり森を描いたりしている。
透視図法の線(フリーハンドなのでふにゃふにゃしている)、人物や乗り物の大体の大きさ、線画、色、影、くらいのいくつかのレイヤーに分けている。「デジタルの絵って便利だね。昔はどうやって描いてたんだろう」って言ってる。
人物はみんなほっそりしてどこかかわいい。心は子ども、というのが絵に表れてる感じがする。
絵画教室には行ったことがない。幼稚園のころ習い事を選ぶときに考えたことはあったけど、いわゆる上手な子の絵、という定型にはまってしまったらもったいない気がしてやめた。こどもの描く絵の独特の味が残るほうがいいと思った。
ある日の絵の背景の太陽は真っ白だった。
「太陽は白く輝いてるから白に決まってるだろ」
そうか。たしかに。太陽の塔も白いよね。
5月10日
毎日1枚はまだ続いてる。そういえば最近マイクラなどプログラミングはやってないし、YouTubeも全然見てない。ウィキペディアを読み、ジョジョを読み、絵を描いて、スキップしている。
今日の絵はずんだもん。東北のずんだ餅の妖精。人間の姿になったところを描いていた。
翌日はウィキぺたん。ウィキぺたんはWikipediaのキャラクターの女の子。
こどもが描く絵は、銃や乗り物のときは精密な感じがするのに、人になると独特の絵になるね、と言ったらフフフと笑っていた。
手が大きめで足が小さめでとても痩せてる、と私は感じたけど、子どもに言ったら、
「手は大きくないし足は小さくないし細くもないし、全くそうは思わないぞ」
と言っていたので、こどもの目に見える世界はこういう感じなのかもしれない。