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夫の転職願望と現実

私も夫も就職氷河期世代。
私はまさに、大学出たけどアルバイト、という氷河期的な流れだったけど、
夫はそうでもなかったらしい。
修士の研究室に会社の人が来て研究内容を見て、
あとは適性検査くらいの試験で今の会社に正社員就職できたと聞いた。
夫の話はまるで別世界みたいだと思った。
そのせいか、夫は氷河期世代の苦労がよく分かってないようにも感じる。

夫とは学校が違うし、私は大学院には行ってないし、卒業年度も違うし、
夫の専門分野は会社ですぐ役立つものだけど、
私の学んでたのは“それなんの役に立つの?”って聞かれるような分野だし、
いろいろ条件が違うからなんでかわからないけど、
私のお世話になった研究室にどこかの会社から人が来てたことはなかった。
教授からも事務からも何も言われないし、友達もあんまりいなかったから、
就職活動なんていつから何をするのか誰も教えてくれなかったし、
自分で求人情報を見て、問い合わせたけど返事が来なかったり、
大きい組織は苦手だしと思って中小企業に見学に行ったら、
高卒の子に来て欲しいから大卒はちょっと、という感じだったり、
親が情報を送ってくれた会社はなんとも微妙に違う分野だったり、
これはダメそうだなと疲れて地元へ帰った。

卒業してしばらくした頃、
祖母「ほーい、大学から電話」
私「もしもし」
大学の事務員さん「就職は決まりましたか?」
私「決まってません」
事務「いつ頃決まりそうか分かりますか?」
私「分かりません」(そんなの私が知りたい)
事務「そうですか。うーん。わかりました」
進路の統計のための調査?
大学の事務から電話きたのは入学以来これが最初で最後だった。

私は、たまたま夫がうっかり私を選択したため、いまは夫とこどもがいて、
生活に困らずに楽しく暮らしていられるけど、一歩間違えば、と思う。
私は外が苦手なので、もし1日8時間も会社で働いたらぐったりだと思うし、
もしずっと独身だったら、今ごろ疲れ果てて体壊してるか、
心病んでどうかなっててもおかしくないし、
親の年金で引きこもってたかもしれないし、
どんなひどい顛末もあり得なくはなかったと思う。

夫のほうはそのまま順調かというと、そうでもない。
最初に夫が転職したいと言ったのはだいぶ前だったらしい。
私はあまり覚えていない。本気だと思ってなかったから忘れたんだと思う。
そういえば電気工事士の資格を取るって勉強してたことがあったけど、
あの頃のことかもしれない。
電気工事士は第二種は取ったけど全く使ってない。家でも会社でも。
私「エアコン替える時はお父さんが工事してくれるの?」
夫「そういうのはできないね」
私「何ができるの?」
夫「電気のスイッチを替えるとか」
私「資格取る時、エアコン工事できるようになるって言ってなかった?」
夫「そうだっけ?言ってないと思うけど」
夫と私はいつも話が食い違う。
エアコン工事できないのは資格的になのか夫の都合なのか分からないまま。

昨年くらいからまた転職を口にしだした。
今やっている業務はやりたいことじゃない。やりがいがない。
もう少し違うことがしたい。今の会社の中には行きたい部署がない。と。
じゃあ何がしたいのか聞くと、「今考えてる」と何ヶ月も考え中だった。
いま40代後半、あと20年くらいをいやいや勤めるよりは、
できるのなら転職すれば、と私も思った。

それからしばらく、表面的には夫は特になにもしていなかった。
なにもしてなかったけど、ある日、在宅勤務中、たまたま私が近くを通ったら、
会社の人に転職したい事を伝えていた。
順番おかしくない?と私は思ったけど、会社のことはよくわからない。
新しい仕事が見つかるまでは退職しないらしいのでまあいいかと思った。

今やってる業務が区切りがつくまでに仕事見つけて辞める、と言いながら、
なにもしないまま仕事は区切りを通り越し次の業務へ入り、
あれ?転職やめたのかな、という感じで今年に入った。
むしろ私のほうが、世の中こんな仕事があるのか、というのを見つけては、
どう?って夫に見せて、その度に、それは興味ない、と言われてた。
私が興味あることにはだいたい興味がないらしい。

ある日、家計簿をつけていた夫は、高騰する電気代をにらんでいた。
「使用量が前年より増えてる」
その原因は「エアコンとか冷蔵庫とか古くなって電気くってるのかも」
だから買い換えようか、というので私が、
「でも買い換えて付け替えたた後で転職して引っ越すことになったら、
と考えると今買い換える気になれないよ」と言うと、
そこで何か夫の中の転職スイッチが入ったらしかった。
家電買い替え願望で転職やる気スイッチが入るってどうなってるの?
そこ?と思うきっかけでスイッチが入るところ、こどもと似てる。

それから夫は転職サイトに登録し、情報をチェックし、
自分の経歴書を何日もかけて書いたり、
写真店だと高いからと、証明写真を家の中で何回も撮り直したり、
電車に乗って、新しいスーツと靴とバッグを買いに行ったり、
転職エージェントとオンライン面談したり、
SPIとかいうテストのアプリを入れて練習したり、
ようやく転職活動らしいことを始めた。

どこに何社応募したのか正確には知らないけど、
10個くらいは応募して、書類で落ちたのが半分以上、
3社4社は面接していた。二次面接までいったのもあった。
オンラインの面接もあったし、新幹線で行ってきたのもあった。
そして結局全部落ちた。
「感じが良かったからたぶん内定もらえると思う」と言ってたのも落ちた。
「方向を考え直す」と言った後、夫の転職スイッチはじわーっと切れたらしい。
心折れやすいのもこどもと似ている。

複数回の転職経験のある妹から聞いた話では、採用する側からすると、
仲介業者から採用すると、その人の年収の30%を業者に払うので、
よっぽどいい人じゃないと採用できない、という事情があるという。
業界の人にとっては当たり前なのかもしれないけど、
主婦の感覚だと高くてびっくりする。

私も求人情報をいろいろ見てみたけど、
40代で平社員だと、管理職経験がないことで、あまり求められてない。
若い人はこれから教育すればいいから求められてる。
中高年で管理職だった人は即戦力で求められている。
特殊な技能がある人はその技術が求められてる。
ただ普通に会社員をしてきた中年は求められていない。
そうか、ちゃんと会社員になれた夫でも、転職は難しいのか。
そういう話をネット記事で見たことあったけど、本当にそうなった。
ましてやアルバイトから主婦の私がもし会社に入ろうとしても、
たぶん全然ダメなんだろうな、と思った。入りたいわけじゃないけど。

もっと何十社も受けたらどこか受かるんだろうか?
私たちはもう他の何にもなれないのか?
起業とか自営とかフリーランスとか農業とかプログラマーとか、
そういうのは夫はやりたくないらしい。
学校が苦痛だった私やこどもと違って、夫は学校が楽しかったタイプで、
会社組織になじめる人で、そのほうが自分で自分を管理するよりいいと言う。

最近リスキリングってよく聞くけど、どうなのかと調べてみると、
今いる会社の中で、の場合を指すことが多いみたいだった。
違う会社に入るために資格を取っても、資格と実務経験が必要な求人だと、
実務経験ないから転職できない。
今の会社の中では実務経験積めない。
どうにもならないじゃん、と二人で落胆した。

現状、生活に困ってないだけいいじゃないか、とも言えるし、
仕事なんて我慢してやるもんだ、という考えもあるだろうけど、
スーツ新調して新幹線乗って面接行くくらいの何かがあったのなら、
今の会社で働き続けるのも精神によくないんじゃないか、という気がする。

こどもはまだ子どもだけど、
ホームスクーラーでも進学して就職する子もいっぱいいるみたいだけど、
うちのこどもはそういう感じじゃない。
学歴は興味ないし、わからないけど会社勤めしそうもないし、
こういう子はどうやって収入得るんだろう?
私「何か、うちら3人でできて稼げる事ってないだろうか?」
夫「さあ?」
こども「・・・」
できること、やりたいこと、資金、体力、時間、運・・・
ぐるぐる考えている。
家族とはいえ人は変えられないので、私自身が何ができるか考えてみる。
こどもと一緒の人生後半で何をしていくか。
悩みではあるけど、未知数だと思えばちょっと楽しい。