【書評】愛する人の罪を代わりに償う〜『雪の鉄樹』(遠田潤子)
「この小説に出会えてよかった」と思わせられる、いい本でした。没入して一気に読み終え、心地よい疲労感に包まれました。
『雪の鉄樹』という作品。作者は遠田潤子さん。名作です!
1、内容・あらすじ
主人公は、庭師を職業とする曽我雅雪という33歳の男性。
彼の家庭は、「たらしの家」と言われていました。祖父と父が毎日のように女性を連れ込み、彼の目の前で女性を抱くという、救いのない異常な環境だったのです。
母親も彼を産んでからすぐに出て行き、愛情を受けられずに育った雅雪は、一流の庭師になることだけを目標に生きていました。
彼は20歳の頃から13年間、両親のいない少年・遼平の面倒を見続けています。遼平の祖母から屈辱的な扱いを受けつつもそれを続けていたのは、雅雪の父がきっかけとなった「ある事件」の贖罪のためでした。
雅雪になついていた遼平は、その「ある事件」のことを知り、雅雪に対して複雑な感情をぶつけるようになります。
雅雪は遼平に理解してもらおうと、自身の壮絶な過去を全て打ち明けるのでした──。
2、私の感想
重く、苦しい話ですが、夢中になって読みました。
まず、雅雪が置かれていた家庭環境が凄まじすぎて、絶句しました。これも一種の虐待だと思います。もしかしたら暴行を加える虐待よりもひどいかもしれません。世間には似たような事例があるのでしょうか……。
雅雪の祖父も「これは完全にサイコパスだ」と思いました。孫の雅雪に対する無関心さ、感情のなさに、読んでいてぞっとします。
この家庭環境に由来する「会食恐怖症」のエピソードも胸が痛みます。言葉自体は耳にしたことがありましたが、まさかこんなところで出てくるとは。
このような環境に置かれた雅雪が、まるでとばっちりを受けるかのように、父の起こしたある事件がきっかけとなって「贖罪」をすることになります。
この贖罪の仕方がなんとも「???」というもので、読んでいる方としては「そこまでしなくていいんじゃないの?」と思います。しかし雅雪は不器用に、頑なに、ひたすら罪を償おうとします。
「もう少し自分のために生きろ!」と思わず説教をしたくなるくらいです。実際、作中でも彼のことを心配する友人が説教をするのですが、雅雪は聞きません。
読み進めて行くうちに、「こいつは本当に阿呆だ」とまで思ってしまいます。しかし、この雅雪の不器用さがやがて周囲の人間の心を溶かし、救い、そして雅雪本人も、ある結末にたどり着きます。
最後の一行は涙でぼやけてしまいました。
とある本屋さんの写真。こう言いたくなる気持ちもわかります。
3、こんな人におススメ
・「家族」について考えたい人
作中に「家族は選べない」という台詞が出てきます。考えさせられます。
・「自分は不器用な生き方をしている」と思っている人
主人公の生き方を見て「不器用でもいいんだ」と思うことでしょう。
・「親に愛されていない」と思っている人
どこかに救いはあります。そのことが作品を通してわかると思います。
この本はもっともっと知られてもいい名作です。いろんな人に薦めたいです。
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