【書評】生身の障害者とボランティアたち〜『こんな夜更けにバナナかよ』(渡辺一史)
これは介護福祉分野で長年読み継がれてきたノンフィクションです。『こんな夜更けにバナナかよ』。作者はノンフィクション作家の渡辺一史さん。大泉洋さん主演で映画化され、一気に有名になりました。
1、内容・あらすじ
重度の筋ジストロフィー患者の鹿野靖明さん。一人では体を動かせないうえ、痰の吸引を24時間必要とする鹿野さんが選んだ自立生活と、それを24時間体制で支えるボランティアたちの交流が描かれています。
彼を支える学生や主婦たち約40名のボランティアたちは、様々な動機で集まったメンバー。介護する者とされる者が支え合い、時には遠慮なくエゴをぶつけ合う日常は壮絶でもあり、リアルでもあります。
2018年に映画化されました。
2、私の感想
「筋ジストロフィー」の病名から、鹿野さんのイメージを「自分一人では身体を動かせない、とてもかわいそうな人」と固定して読むと、そのワガママっぷりにかなり面食らいます。
そして、面食らってしまうということ自体が、いかに健常者が障害者を美化・聖化し、「かわいそうな人たち」というイメージを持っているか、の表れなのかもしれないとも思いました。
この本で描かれているのは、聖者でも何でもなく、あっけらかんと堂々とわがままに生きている一人の人間の姿です。
「かけていい迷惑をかけていくのもオレたちの仕事なんだよ」という台詞は、とても示唆に富んでいます。
考えてみれば当たり前のことですが、障害者も健常者も同じ人間であることに違いはありません。
鹿野さんと「鹿ボラたち」のように、同じ人間同士として時には激しくぶつかり合い、傷つけ合いながら関係を築いていくのが、本当の意味での障害者理解なのかもしれない、と思いました。
また、この本のもう一つの柱として、「ボランティアをやる動機」についても大きく扱われていました
「一人の不幸な人間は、もう一人の不幸な人間を見つけて幸せになる」という言葉はずっしりと重いです。確かに「ボランティアは生きる手応えを与えてくれる」という動機でやっている人も多い気がします。
鹿ボラたちの中には「自分はなぜここに来るのかよくわからない」と言う人たちがたくさんいたが、案外そんなものなのかもしれません。
そして、筋ジスは遺伝性の疾患である(例外もあって未解明な部分が多いらしい)こともこの本を読んで初めて知りました。母親の罪悪感・自責感は相当なものなんだろうな、と思いました。
それにしても、タイトルの元になったバナナのエピソードは、この本の内容やテーマをこれ以上なく言い表しています。
このエピソードに尽きる、と言っても過言ではありません。インパクトもあって素晴らしいタイトルです。
3、こんな人におススメ
・介護福祉に携わる人
読んでいない人はあまりいないのかもしれませんが、もしいればぜひ。
・障害についてあまり知らない人
すごく勉強になります。「健常者が恵まれているわけではない」ということもわかります。
・大泉洋さんのファン
大泉さんが好演すぎて、鹿野さんと大泉さんが同一人物に見えてきます。
この本に限っては、映画を見てから読むことをお勧めします。その方がとっつきやすいし、理解も深まります。
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