【書評】ウイルスで滅びた人類とその再興~『復活の日』(小松左京)
この本も、今の情勢でなければきっと読まなかったと思います。ウイルスによる人類滅亡を描いた、小松左京さんの『復活の日』。
1、内容・あらすじ
舞台は196X年。イギリス陸軍細菌戦研究所では、宇宙空間から採取した微生物を元にした細菌兵器=猛毒の新型ウイルス「MM-88」を研究していました。
しかし、良心の呵責に耐えかねた研究所の教授がこの「MM-88」を持ち出しますが、スパイに騙され、横取りされてしまいます。
さらに不幸な偶然が重なり、スパイの乗った小型飛行機は吹雪に遭ってアルプス山中に墜落。大気中にばらまかれた「MM-88」は猛烈な速さで増殖し、全世界に広まります。
感染者は急性心筋梗塞の発作や、急性全身マヒに陥って次々と死亡。ワクチンも抗生物質も効果がなく、そのメカニズムも防御策もわからないまま、各国の防疫体制は崩壊。人間社会は壊滅状態に陥ります。
半年後、35億人の人類だけでなく、地球上の脊椎動物がほとんど絶滅してしまいます。生き残ったのは、南極大陸に滞在していた各国の観測隊員約1万人のみ。
南極の人々は国家の壁を越えて「南極連邦委員会」を結成。人類再建の道を模索するのですが、やがて思いがけない「第2の死」の可能性が浮上します──。
2、私の感想
これは警告の書であり、そして巨大なシミュレーション小説でもあり、さらに人類に大きなテーマを突きつける文学でもあります。もはやSFの範疇には入り切らない作品だと思いました。
今(2020/05/31現在)、感染が広がっている新型コロナウイルスと違って、この小説に出てくるのはほとんど人為的なウイルスなので、人類の自爆・自滅と言えます。
しかし、ラストの奇跡的な展開も、人類がいなければ起こり得なかったことなので、神の皮肉といった大きなものを感じさせます。壮大です。
それにしても、『感染症の世界史』を読んだ時も思いましたが、人間は微生物には勝てないんだなあ、と痛感しました。もしかしたら、地球上で最強の生物は微生物なのかもしれません。
今の情勢だから、「ウイルスによる人類滅亡」の部分が注目されているのだと思いますが、この小説のクライマックスはむしろ人類が滅んでから後の展開です。南極人類たちの必死の奮闘は見ものです。
そして、小松左京さんの博覧強記ぶりがよくわかります。ものすごい知識量です。盟友・星新一さんが何かのエッセイで「小松左京の知識は超人的」というようなことを書いていたのを思い出しました。
3、こんな人にオススメ
・「ハードSF」が好きな人
期待を裏切らないハードっぷりです。読んでいて頭がクラクラしてきます。
・人類の行く末が心配な人
人類はこういう結末を迎えることもなくはないな、と思わされます。
・壮大な物語を読みたい人
間違いなく壮大です。しかもちゃんと着地するところがまたお見事。
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