【書評】苦しすぎる貧困女子小説〜『神さまを待っている』(畑野智美)
貧困問題を調べている時に見つけた小説で、ずっと気になっていました。ようやく読むことができました。畑野智美さんの『神さまを待っている』。
1、内容・あらすじ
主人公は、文房具メーカーで派遣社員として働く26歳の水越愛。
愛は、派遣期間の終了とともに正社員になるはずでしたが、会社の業績悪化で正社員の話がなくなり、職自体を失ってしまいます。
失業保険を受けながら求職活動をしてもうまくいかず、貯金が底を尽きます。そして家賃が払えなくなり、アパートを解約してホームレスに……。
漫画喫茶に寝泊まりしながら日雇いの仕事でしのぐうちに、同じ境遇の女性と出会って意気投合し、「出会い喫茶」に誘われて行くことになります。
そこでは、男性に気に入られればデートをするだけで数千円がもらえ、中には「ワリキリ=売春」をやって稼いでいる女性も。
やがて愛も「ワリキリ」を誘われるようになり、気持ちが揺らぎます。
果たして、愛の前に「神さま」は現れるのか──。
2、私の感想
読んでいてとてもとても苦しくなる小説でした。でも目が離せなくて、眉間にしわを寄せながら一気に読みました。
男子大学生を主人公にした、似たような話は読んだことがあります。『東京難民』という小説です。
『東京難民』も怖い小説でしたが、この『神さまを待っている』の方が苦しく感じました。普通に暮らしている自分に罪悪感を覚えるほどでした。それくらいに、主人公の愛が置かれた境遇は過酷で、やりきれません。
「こんなに簡単に、あっという間にホームレスになってしまうんだ」と驚きましたが、本当にそういう現実があるようです。
最近、普通の女性が簡単に貧困に陥ることがある、という実態は色んな本で知ってはいました。例えばこちらの『東京貧困女子』。
しかし、小説になると迫力が違いました。筆者の実体験も反映されているようです。
小説では、主人公の愛は何とか生き延びられそうな展開になっていきましたが、現実ではきっと「神さまをひたすら待っている」人が多いのだろうな、と思いました。
教育の現場にいる者として何ができるだろうか、ということを考えさせられました。私の今後の一つのテーマになりそうです。
今回のコロナ禍で、似たような境遇に陥る人が出てくるのでは、と心配です。
3、こんな人にオススメ
・貧困問題に関心がある人
一つの事例研究としても読む価値があります。参考文献を見ると、かなり取材を重ねて書いたようです。
・行政にお勤めの人
支援のヒントが見つかるかもしれません。心ある人がこういう問題に向き合うきっかけになればいいと思います。
・中高生、大学生
ぜひ、教材として何かを学び取ってほしいと思います。衝撃を受けるかもしれませんが、大いに勉強になります。
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