ショートショートストーリー「仙人」
2人の男が会話をしている。
「腹減ったな~、何か食いに行こうぜ」
「そうだな、何がいい?」
「どうせなら、昔の王様でも食ったことのないような、すげえご馳走でも食いにいくか?
「でも、贅沢ばかりしていると寿命を縮めるよ?」
「俺はな、食いたいモンを食い、飲みたいモンを飲む、それで早死にするなら本望さ」
「でもさ、考えてみると、昔の人と現代人では、単に年数で数える以上に人生の密度が違うと思わない?」
「……どういうこと?」
「例えばさ、昔は車も飛行機もなかったろ?今は東京から大阪まで新幹線で2時間ちょっと、でも昔の人は何日もかけて歩いていったわけだ」
「……まあ、そうだな……」
「ということは、現代人は昔の人に比べ同じ時間に何倍もの経験をすることができる、それはつまり、何倍も生きているということになる」
「……なるほど」
「さらに外国なんていうと、舟でそれこそ1年以上もかけていっただろ?でも今は飛行機で何時間だ、それこそ何百倍も長く生きていることになる」
「……ということは、例えば昔の人の寿命が50年だとしたら……」
「そうだなあ、いろいろ加味しても、40倍程度は経験する内容が違うとすると、現代人は昔の人でいうと、ざっと2000年は生きている、ということになるかもな」
「2000年だって!?」
「ああ、言ってみりゃあ、海で1000年、山で1000年修行したようなもんだな」
「……てえことは、俺達は仙人みたいなもんかよ……ずいぶんとまあ、年取った感じだねえおい。急に自分が年寄りに感じてきたよ……」
「そう落ち込むなって、それより、何食べにいく?」
「なんか、そんな話聞いたら食欲がなくなってきた……ちょっと、山にでも行ってくるわ……」
「ん? 山に行って、どうすんの?」
「霞でも食ってくる……」
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