いま、「ものづくり」のスピリットは必要か?
2024年6月から月1で開催予定の3×3keyword Talkが始まりました。
建築を軸足に置きながら活躍する若手をお招きして、9つのマス目を使いながら、ゲスト自身を構成するキーワード を用いるトークイベントになっています。キーワードを用いることで様々なバックグラウンドを持ったゲストを様々な角度からディスカッションし、深掘っていく形式としました。
その今回の第一弾は、HUB&STOCKの豊田訓平さんと折り紙・構造エンジニアの下田悠太さんにお話をお聞きしました。
折り紙・構造力学
下田:小学生のときにテレビ番組のテレビチャンピオンを見て折り紙にのめり込み、大学時代には折り紙サークルに所属して深遠な折り紙の世界を知った。進学振り分けで建築学科に進んでからは、建築と折り紙を組み合わせた制作や研究を始め、テントのような折りたためるコンパクトな建築だったり、一枚の布から立体的な軽量のドームを作るための応用を考えては形にしている。紙以外にも布や合板も材料として考えている。
ーー 建築として応用する難しさは?
下田:難しさのひとつは分厚さ。折り紙は紙が薄いから、繊細にできる。ただ建築として成立させようとするとは構造・断熱・遮音の影響により、分厚くなり折り目部分、厚み同士が干渉しあってしまう。コンパクトでたたんで運べるというコンセプトなのに、重たくなってしまう。大学時代の実物大の作品を作った時に、軽量化の工夫をしたのにもかかわらず、1畳くらいの大きさで数十キロ。そこで建築の重たさを実感した。
下田:折り紙の理論の最先端の話としては、たとえば東京大学の舘知宏先生により、どんなかたちでも一枚の紙から折れることが証明されている。紙に小さい皺を入れていくと、様々な形を作れるが、その皺を折り紙と捉えて設計してあげる手法。
ーー つくれない形はないのか?
下田:ほとんどない。設計自体はコンピュータによる計算により一瞬で計算できるが、実際に折ろうとすると10時間くらいかかる。慶応大学の鳴海紘也先生が、熱に反応して自動的に折れる自己折りの技術を開発。10時間かかっていた工程が10秒くらいでできるようになった。
下田:折り紙の技術は、宇宙工学の巨大な構造物から、血管の中に入れる小さな医療用ロボットにまで応用されている。スケールが横断できるところが面白い。
ーー 豊田:そんなスケールの幅のある中、建築を選んでいるところが興味深い。今後の折り紙と建築の可能性はどこにありそうか?
下田:折り紙の技術で動く建築物を作ることによって、固くて動かないものとしての建築ではなく、人の手が加えやすい建築は有り得るのではと思っていた。最近設計・施工したプロジェクトに折り畳み式の膜屋根がある。相撲の土俵の上にかかっている屋根なのだが、使う時は建て起こして屋根として日射や雨風をしのぎ、使わないときは伏せて土俵のカバーとして乾燥や雨から土俵を守る。
膜構造の建物は軽くしていくと自重に耐えるというより風や雪とかの短期荷重による部分がクリティカルになる。それに耐えようとすると、多く鉄骨を入れたりすることになる。
今回の設計では風が強い時は伏せておいて受け流すこともできるため、最小限の鉄骨で実現できた。そういう発想の転換により材料を減らせることに面白さや可能性を感じている。
豊田:日本の現行法規は高い安全性を重視して設計されているが、さらに自由度の高い形態を実現するためには、長期荷重や短期荷重が壁となる。だからこそ下田さんがやっていることは興味ある。
下田:必要以上の材料を使わなくても、最小の材料で最大の効率を得られればいいなと。
豊田:重さで言うと、一年間113トン人間は運べます(笑)
2トンのトラックで50往復くらい。できなくはなった。一番大変なことは検品して数量をカウントすること。それをだれもやらないから、やっている。
ーー 下田:かなり大変だけど、それをやろうとした動機は?
豊田:ゼネコンで意匠・構造を経験、インテリア事務所で内装に携わる。自分で設計して、監理して、出来上がったものがお客さんに喜んでもらいえるのはとても嬉しかったけど、ゼネコン時代に杭工事の番頭さんに「建築は環境破壊だよね」という一言に影響を受けた。歩留まりの影響で使ってない建材がたくさんあること身もって経験したことが、番頭さんの一言と繋がり、解決するソリューションを自分で作るしかないということを思い、立ち上げた。
豊田:材料を起点に様々な人と関わる。デザイナーから主婦まで。主婦のみなさんはインテリアに対する感度がすごく高い。床材が壁に使われたり、一部分のみ使われたり、自分ではやらないデザインが起きている。それがインスタグラムで拡散され、いろんなユーザーの使い方型、施工事例がストックされている状況。コストメリットもあるけれど、モノづくりの楽しさを通して、日本の社会課題を解決する可能性があるのでは。
空き家の改修
下田:資材があまっている根本的な解決になるのは、いかにあるものでどうするか、冷蔵庫の余り物で料理するようなことがだれにでもできるようになることが、みんなのマインドにあったり、それが文化になることが根本から解決しそうな気がする。
シェアハウスをしていた時、古材を材種ごちゃまぜでザックリ形状で分類して保管し、使いまわしていた。それが意外とデザイン的に面白かったり、無理のない循環が生まれていて、かなり豊かな暮らしだったなと、それができたら面白いなと。折り紙の技術を用いた動く建築よりも、形を変えて材料が動いていく建築の方こそ生活の豊かさに繋がるのではと思っている。
DIY
豊田:日本では、家や空間は購入するものという意識が根強いと思う。しかし、自分で手を加えられる空間があると、その空間は非常に大切にされる傾向がある。例えば、オフィスの改修で休憩スペースの仕上げ材の選定に社員が関われる場合、自分が選んだ素材や自分で塗った壁があるだけで、その空間への愛着が増し、モノづくりの楽しさやサステイナブルな意識がトップダウンではなく自然に浸透する。
豊田:プロ用建材の使い方や施工方法を先に伝えることは意識している。
インスタグラムなどのDIY、主婦、大家のコミュニティにHUB&STOCKが入り込み、プロ用建材の使い方や施工方法を先に伝えることを意識している。ものづくりの在り方は、本流はもちろん、もっと自由になるといいなと思っています。
下田:フォーマットやプラットフォームを作ることをやっていると思っていただが、自ら資材を運搬する中でいろんな人に出会い、そのひとのものづくりの欲望を引き出しながら文化として作っているように感じた。
豊田:ハブ&ストックの最終目標は「資源循環の文化をつくる」ということ。キーワードには書いていないけどそこに着地しようとしてました(笑)
商習慣
豊田:建築業界の材料発注における商習慣の事。発注者→元請け→協力会社→材料発注という流れ。協力会社が各社から良い条件で卸してもらっているものを、さらに2次流通させると商社・問屋は面白くない。言い換えると一次商流の中で再流通させることは難しい。それではリサイクルショップであればしがらみもなく扱えるのでは思うが、建材は大半が半製品で製品自体や施工方法などの専門知識が必要になるところが障壁となる。なので、業界に精通した専門性を持ちながら、第3セクターとしてフェアに未活用建材を取り扱えるポジションが必要となる。
豊田:なぜ今まで実現できなかったのか。それは、建材が重く、専門性が高く扱いづらいという問題が積み重なり、結果として複雑化してしまうからです。経済的な合理性を感じられず、最終的には捨てることになってしまいます。しかし、HUB&STOCKでは、その問題をシンプルに分解し、一つずつ解決しています。
コンピューターと手仕事
下田:それっぽい形が出てくる中で、根拠を決めてパラメーターを操作する。コンピュータ内での計算と物理空間のリアルなものづくりしっかりリンクさせること、そうじゃないとむやみやたらなアウトプットが出てくる。
下田:コンピュータはあくまで道具。この方法を使うのが一番正解の近道だからと思える時に使うのがいいのでは。コンピューターはうまく付き合っていけるような友達くらいの感覚で、中心に置くのではなく、手仕事を風上に置いて考えていきたい。
豊田:個人のまなざし、着眼点が、差になってくると思う
下田:これまで作られたのと似た形は、コンピューターが学習してこれからいくらでも形が出てくる。人間に求められることは、何かと何かを掛け合わせると面白いとか、生物の分野を使うとか。そういう部分なのかなと。
豊田:その人自体がファンクションですよね。
場所性、触覚と色覚
豊田:プラットフォームや仕組みを作ることだけではなく、ショールーム的な場所、実際に物を見に行ける倉庫があり、自分の触覚や色覚を持って体験する場所がることが大切。
豊田:予算的に苦しいからコストダウンではなく、VEとして、満足度高く、環境にも優しいプロジェクトになるように、倉庫という実際に建材に触れられる場所が必要。
下田:もの見ながらでしか決められない組み合わせがる。DIYをしながら生活をしていたからこそ、偶然性、偶発性の魅力を感じるが、パソコンに向き合っているときにはなかなか生まれずらい。
豊田:無意味にものを触ったりすることが、設計者として大事なのかな思っている。
下田:構造設計って材料に対して想像力を働かせる仕事。空き家を構造解析して改修しながら住んでいた時、小屋裏の柱にかかる力を考えながら、小屋裏に響く瓦を叩く雨の音や、埃の被った時間の蓄積も感じとれた経験から、構造力学的な知見を持ち合わせながら、材料と触れ合うことは、現場に行ってから物を触るということは違うこれまでとは少し違ったクリエイティビティに繋がりそう。
生物学
下田:ハリセンボンとか、生き物は膜とかシート状のものを変形させている例が多く、折り紙的なことをしている。そいうところからアイデアをもらっている。
下田:葉っぱ、果実、花びらも進化的には同じシート状のものでできている。
ーー 豊田:できるかどうかわからないけど、チャレンジしたいことは?
下田:キノコは菌糸とよばれる小さな個体の数十万の集合体。菌糸一つ一つには脳的なものはなく、隣同士の菌糸や周囲の環境変化に反応して全体が成立している。シンプルなルールで全体が構築されていくようなことだったり、煉瓦単位の物から家が構築されて、一つ変わると温度湿度が変わっていくみたいなことだったり、キノコができるなら建築でもできないかなと。
「ものをつくる」ということ
「建築資材ロス問題」解決に挑戦する豊田さんの根底には「資源循環の文化を創る」があり、その文化創造のために、新しい建築資材の循環のシステムを構築し、そして一般の方が建材を手に取りやすいものとするために、材料をストックしつつ触れ合うことのできるショールームを持っているとのこと。結果、主婦のみなさんやDIYのコミュニティの方々の建築業界の既成概念にとらわれない建材の利用の仕方や組み合わせがSNS等によって広がり、今まさにHUB&STOCKを中心に新しい「ものづくり」の文化が起きているようだ。
下田さんは構造設計に携わりながら、折り紙や生物の構造を応用して、建築やプロダクトを作っている。また空き家の改修をしながら住み、改修時の古材を使い回していた経験から本来「ものづくり」のもつ発想の自由さや暮らしの豊かさを感じたそう。いくらでも計算によってアウトプットができる時代だからこそ、コンピューターはあくまでも目指すべき方向に最短距離で行くための道具と考えており、常にリアルな場での手仕事の感覚を持つことを意識しているとのことだった。
まったくここに着地することを想定していなかったが、どちらもアウトプットや作り出すものは違えど、「ものづくり」というリアルな現実空間で起こる、起きる創造性を重視しているところが共通していた。もちろん、バーチャルな空間での「ものづくり」にも大きな可能性はあると思うし、注目されている部分ではあると思うが、個人的には人間が五感を持って生きる以上、現実で起こる創造性にとても興味がある。自分の興味を広げること、必ずしも作品をアウトプットしなくとも、仕組みを変えていくことで、「ものづくり」という文化に繋がっていくことができるのだと、お二方から教わりました。ありがとうございました!
HUB&STOCKのホームページ
下田悠太さんのホームページ
OKARA(シェアハウス)のインスタグラム
こちらからアーカイブ聞けます
https://x.com/nakagawa_sozo/status/1805193116024234297?s=46&t=j3TMiLSWLZX3XQXZEUZH7Q
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