監査は1円単位までチェックするのか?
公認会計士の独占業務である『財務諸表監査』(以下、「監査」と書きます)ですが、受けたことがない人はもちろん、実際に監査を受けたことがある人にとっても、何をしているのかわかりにくいものだと思います。
この監査解説シリーズでは、『監査』の特徴はどういうものか、何を目的としているのかという点について、何回かに分けて書きたいと思います。
第3回は「重要性」についてです。
・第1回「二重責任の原則」はこちら
・第2回「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」はこちら
1.監査にも「重要性の原則」みたいなものがある
企業会計原則には、一般原則と言われている7つの原則とは別に「重要性の原則」というものがあります。金額が小さい取引については簡便的な処理方法でもいいですよ、というものですが、監査にも似たようなものがあり、それについて触れているのが「すべての重要な点において」の一文です。
(監査基準 第一 監査の目的)
財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
財務諸表の表示が適正である旨の監査人の意見は、財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。
2.利害関係者の経済的意思決定に影響を与えるか否か
監査済みの財務諸表は様々な利害関係者に利用されますが、それらの利害関係者の経済的意思決定に影響を与えない程度に金額が僅少なものについてまで監査で掘り下げなくてもいい(もしくは間違いを見つけても修正しなくてもいい)ということを意味します。
例えば、84円の切手を購入して使っていない状態で期末を迎えたとしても、それを通信費で計上しても貯蔵品で計上しても監査的にはどちらでもいいですよ、という場合です。
有価証券報告書の表示単位も千円や百万円で表示されることから、数十円単位のエラーや判断の相違があったとしても監査の目的に照らして問題なし、ということになります。
3.「質的な重要性」も考慮する
上記例では「金額的な重要性」を例として挙げましたが、「質的な重要性」についても考慮する必要があります。
例えば、これを修正するとしないでは、損失から利益に変わってしまうなど、金額だけでない影響も考慮する必要がありますので要注意です。他にも、現金実査して合わない場合などは、金額的に小さかったとしても管理状況に不安が出てきて、他の科目にも影響があるのでは?と思わせるので、より深く見ていく必要があると思います。
4.「監査の限界」の意味も含まれている
この「すべての重要な点において」にはまだ意味が含まれています。それは、監査の限界としてすべての取引をチェックできない、というものです。すべての取引をチェックできるのであればいいのですが、それには時間的、もしくは監査資源的な(そこまで人を割り当てられない)限界があります。そのため、監査は「リスクアプローチ」という手法が採用されています。リスクアプローチとは、リスクが高い(重要性が高い)項目に重点的に時間や監査資源を投入するという方法です。
リスクアプローチについては長くなるのでまた別の機会に解説したいと思います。
いかがでしたでしょうか。監査現場においては「重要性の基準値」を設定し、その金額に基づいて修正するかどうかなど判断していますので、監査法人と話をする際に「重要性」についても気にしていただければと思います。
次回は「監査証拠って何?」について解説していきたいと思います。
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