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「二重責任の原則」って何?

公認会計士の独占業務である『財務諸表監査』(以下、「監査」と書きます)ですが、受けたことがない人はもちろん、実際に監査を受けたことがある人にとっても、何をしているのかわかりにくいものだと思います。

この監査解説シリーズでは、『監査』の特徴はどういうものか、何を目的としているのかという点について、何回かに分けて書きたいと思います。

第1回目は「二重責任の原則」についてです。

1.監査の目的って何?

公認会計士試験の試験科目には「監査論」があります。監査には「理論」があり、それに基づく「制度」があり、それらを「実務」に落とし込んで行われています。このうちの「制度」の基本テキストとなっているのが「監査基準」であり、ここに監査の目的が書かれています(監査基準 第一 監査の目的)。

 財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
 財務諸表の表示が適正である旨の監査人の意見は、財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。

さらにわかりづらくなりましたね。。会計士試験では暗記必須の内容です。

実はこの監査の目的の記述には、監査の特徴がギュッと詰まっています。以下、ポイントを記載していきます。


2.財務諸表の作成責任は経営者(被監査会社)にある

監査の目的の「経営者の作成した財務諸表が」と言う一文に、財務諸表の作成責任は経営者(被監査会社)にある、と言う意味が込められています。

(再掲:監査基準 第一 監査の目的)
 財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
 財務諸表の表示が適正である旨の監査人の意見は、財務諸表には、全体として重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。

そのため、監査法人に会計処理について相談しても、おそらく「借方〇〇で、貸方〇〇で、金額は〇〇円の仕訳を入れてください」とまで明確には答えてくれないと思います。ましてや、「じゃあこちら側で仕訳入れておきますね!」なんてことはあり得ません。これは、財務諸表を作成するのはあくまで会社で、これをチェックするのが監査人だよ、という大前提があるからです(これを「二重責任の原則」と言います)。


3.監査法人が教えてくれない?

監査人はこの二重責任の原則に基づいて行動するのですが、これが会社の方の不満につながっていることもあります。質問しても全然教えてくれないじゃないかよ、どうせ後で指摘するなら最初から答えを教えてよ、と思ったことがあるのではないでしょうか。

こういった不満に繋がる原因としては、上記の二重責任の原則というスタンスが十分に共有されていないことがあると思います(でももうちょっとアドバイスしてくれればいいのにな、と思うこともありますよね)。二重責任の原則を踏まえた上で、うまく監査法人とコミュニケーションを取るためのポイントとしては、「どういう仕訳を計上したらいいですか?」とは聞かないことです。二重責任の原則の通り、まずは会社の見解(こういう理由でこういう仕訳を計上します)を伝えれば、それを受けて監査人の意見を言ってくれるはずです。


4.監査の特徴を理解して円滑なコミュニケーションを

二重責任の原則というものがあり、それに基づいて監査法人は受け応えしている、ということをご理解いただけると、いい関係が築けると思いますので、ぜひ覚えておいてください。


いかがでしたでしょうか。次回は「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」について解説していきたいと思います。

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