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フルートの組み立てをめぐる冒険

フルートは頭部管・胴部菅・足部管という大きく3つのパーツを組み立てて使う楽器です。初心者向けのフルート教則本の多くには、最初に楽器の組み立て方を説明する際に「胴部管の主なキーの中心を結んだ線が唄口(唇を当てる穴)の中央に並ぶように頭部管の角度を調節しましょう」的なことが書いてあります。

が、僕のセッティングは教科書的な基準からするとだいぶ唄口が内側(=自分に近い側)に向いています。だいたい「主要なキーの中心を結んだ線が唄口の上端に揃う」ぐらい。唄口に息を当てて良い音が出る角度はそれほど変わらないので、その分楽器本体をやや外向きに構えることになりますが、それによって楽器の重心(キーを支える支柱や連結部分)が真上に来るように構えることが容易になり、楽器がぐるんと内側に回転してしまおうとする力を最小化することが出来ます。フルートは「下顎・左手人差指の付け根・右手親指」の3箇所で楽器の重さを支える「三点支持」という方法で構えるわけですが、「楽器の重心が真上に来ること」を意識するとこの「三点支持」に要する力も小さくなり、結果として安定した姿勢の維持(ひいてはパフォーマンスの向上)に繋がります。

これはかつて左手親指を腱鞘炎で半年ほど機能不全にしてしまった際に、より負担の少ない楽器の構え方をあれこれと模索した結果たどり着いた僕なりの結論です。後にそれが「ロックストロ・ポジション」と呼ばれて一定の評価を得ている方法であることも知りました。教科書的なポジションでは左手首をかなり内側に捻って構える形になりますが、その状態で左手親指のキーを押さえたり離したりを繰り返したことが腱鞘炎を誘発した可能性があったことから、現在はこの構え方を基本にしています。

※ただし欠点として「左手人差指を曲げる角度が大きくなり、指の大きさによっては左手人差指がキーと干渉する」という問題もあり、必ずしも万人にお勧めするものではありません。僕はこの問題を左手人差指の付け根が楽器に当たる部分に取り付ける補助具によって回避していますが、そういうものを付けることを蛇蝎のごとく嫌う方もいらっしゃるようですし…。

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ところで、以前出演したことがある某ライヴハウスの経営者は多少フルートに詳しい様子だったのですが、どういうわけかリハーサルのときから

「頭部管を内向きにするヤツは使えない」
「今でもそんなことするヤツいるのかね?」
「絶滅危惧種だと思うけど」

などとやたら絡んでこられました。僕はこの店にはその時がほぼ初出演だったのでちょっと面食らいつつ、

「いやぁ、でもほら、そういうのは人それぞれですから…」

とやんわり返していたものの、先方は全く聞く耳を持ちません。

「僕の師匠は○○フィルで吹いてた人だけど、そういうセッティングじゃレコーディングじゃ使い物にならないって言ってたなぁ」

としつこくぶっ込んできます。こう見えて僕も幾つかの商業的な録音作品に自分のフルートの音を入れてますけれども(笑)、それよりもこの人は本番前に演者をわざわざ不愉快にさせて一体何の得があるのか、正直言ってちょっと理解に苦しむ言動でした。

だいたい、ミュージシャンの楽器の組み立てにケチを付けてるヒマがあったら、こちらがリハーサルをすると言った時間には店を開けていてほしいし、ヴォーカリストが「自分の声が聞こえづらいからモニタースピーカーを出してほしい」とリクエストしたら「外には問題なく聴こえてるけどなぁ」とか寝言を言ってないでさっさと出してほしい。あと静かに集中して演奏してる本番中に食材の業者を納品に来させるのは本当に止めてほしい。そんなの論外でしょ(いずれも当日の実話です)。

人にはそれぞれの領分があり、そこで果たすべき役割があります。ミュージシャンはより良い音楽を提供し、店はお客様にそれを楽しんでもらえるように音響や飲食でより良い環境を提供する。お互いに自分の領分でベストを尽くして、お客様に「今日ここに来て良かった」と思ってもらえるような時間を作り上げたいものですね。


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