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大河「光る君へ」(11)まどう心

 完全復活!!!
 そして北陸新幹線、延伸おめでとう!!!
 地元が盛り上がって笑顔に包まれてるのって良いですね。ブルーインパルス羨ましかった。今年こそ入間に行こう、うん。
 母ですが相変わらず元気です。新幹線開通当日は混雑を避けて全然違うところにランチ&お茶に行ったらしい。それも羨ましいわ。
 で、ここまで「光る君へ」を観てきた母曰く
「源氏物語を感じる……」
 んだそうな。
「私は歴史も知らんし政治のなんやかやもようわからんけど、アレを読んでたせいか、ふっ……と気づく時があるの」
 うっひょー、そりゃ素晴らしい。アレとは勿論「ひかるのきみ」ですよ♡書いた甲斐がありました。というか、原作があまりにも優れているからこその大河なのよ。あれほど平安の常識をガン無視していながら、普通に面白く観られるというのは物語の持つ力に他ならない。脚本の大石さんの、紫式部への並々ならぬリスペクトも大事な要素のひとつ。
※「源氏物語を読みたい80代母」のための企画です。最終回までこの形式で続ける所存。思いっきりネタバレ全開なのでご注意くださいまし。
お喋り役の平安女房ズは以下:
右近(右)、侍従(侍)、王命婦(王)、少納言(少)

侍「右近ちゃあーーーん!」
右「なあに侍従ちゃん(耳を押さえつつ)この大河始まってからというもの、常に叫んでない?」
侍「だってえ毎週盛り盛りのてんこ盛りで濃ゆいんだもん!これが叫ばずにいられますかってえええ!」
右「あーハイハイ。まず道長くんのアレね。六条の廃屋でプロポーズ&玉砕。まひろちゃんがアッサリうんって言うわけないじゃん。キレてんじゃないよっていう。顔つきは若干男っぽくなったけどまだまだ坊やよね(ふっ)」
侍「でもでもさあ、二人とも超ラブラブじゃん?どーにかなんないのー?恋人なりたてで一番盛り上がってる時期のハズなのに、あんまりだようううわーん」
少「平安において政界のトップを目指すというのは、如何に有利な結婚をするか、ですから……まひろさんは前回
『偉くなって世を正していく貴方をこの都でずっと見つめています』
 と仰ってましたよね。つまりまひろさんの望みは元より『結婚』ではないんですよ。遠い国に行く行かない関係なく」
王「実際まひろちゃんの身分じゃ結婚どころか、いいとこ召人めしうど(お付きの女房兼愛人)だもんね。私、実をいうと少し意外だったあのシーン。為時パパの無職と家の困窮を憂えたまひろちゃんの方から
『私を女房として雇ってください(召人でオケ)』
と提案して、道長くんがショック!俺との愛はそんなもんなの?!ってなるかなと思ってた。逆だったわね。道長くん、案外オトナというか……平安上流貴族の価値観ドップリだった」
右「まひろちゃんの方は初めから察してるでしょその辺は。宣孝のぶたかおじさんとの会話で
『ウチみたいな家に婿に入ってくれる人なんているわけない』
 と発言してたし。本気で道長くんの『北の方』になるつもりないし、なれるとも思ってないよ。まして兼家パッパにけんもほろろに追い返された後だし、あの『妾は嫌』発言はワザとだと思う。道長くんが結局身分の違いを乗り越えられないことも丸っとお見通しで、あえて無理難題をつきつけた。かぐや姫のように」
侍「つまり遠回しなお別れ言葉ってコトーーーー?うわあああん!まだ十代だよまひろちゃん!!そんな簡単に割り切れる?泣いてたよね……可哀相……倫子さまと二人でキャッキャしてるのも見てらんなかったようおおおーん」
右「『狙ってる人がいるの♡きっと婿にしてみせる!』『わー楽しみですう』アハハオホホってさあ……きっつ。いつもにも増して人の心のないシーンだったわ」
王「倫子さま、今回もつよつよだったものね。兼家さまに直訴っていうまひろちゃんの無謀な計画を瞬時に察知・みなまで言わせず・毅然とした態度で的確な言葉で諫める。あの胆力判断力、やはり只者じゃない。ああいうお方に仕えたいものね。まひろちゃんも知ったらショックだろうけど、最終的に倫子さまなら仕方ない、納得!ってなるんじゃないかしら」
少「倫子さまはパーフェクトですよね。何もかも揃っていて足りないところがない。Twitter(x)ではまひろさんと紫上を重ねる意見が多かったですけれど、私は倫子さまにその面影を見ましたわ。何度もいいますが、まひろさんは本当にお父様そっくり……賢くてまっすぐで、とても不器用でいらっしゃる(道兼さまもそれ:少納言心の声)」
右「知性が半端なさすぎなのよまひろちゃんは。『史記』から今の政治情勢を把握、『長恨歌』から王たるものが恋に溺れることの危うさを学び、政治も恋も今のまま長く続くわけがないと悟る……だから。漢文ニガテ~なんて言ってる道長くんとレベチすぎて話が通じない」 

侍「知性といえばさ、清少納言(ききょう)!一条帝も即位したし定子さまも登場したし、また出てくるよね?まひろちゃんとガチンコで知的バトルかましてほしい!キッツイ恋愛模様はひとまず置いといて!」
右「えっ侍従ちゃんが恋愛要素を拒否るとか」
王「半端ないわねえ今年の大河……」
少「来週も楽しみですわ……」

 今週は前回ほど大きな動きはなかったのに面白かった。なんでなん。
 さて花山天皇の唐突な出家アンド退位による一条天皇即位。誰がどうみてもアヤシイ経緯に加え、人事刷新で弾きだされ排除された側には当然恨みが積もる。その最も象徴的な出来事が
高御座たかみくらに置かれた生首」。
 いやーすごい、まさかこれを実写でやるとは(はっきり見えないようにはしてたけど)。「大鏡」にもしっかり掲載されているこの事件、隠す気もゼロだったってことですよね。兼家は報告を受けても素知らぬ顔で普通に即位式を敢行しちゃってるし、摂政・兼家の権力が如何に大きなものだったかがうかがえるエピソードですが、ドラマでは道長にスポットを当てていましたね。「穢れなどない!」とばかりに袖で拭う(!)道長の表情や態度は、まさに兼家のそれ。育ちのいい世間知らずのボンに過ぎなかった若者の立ち居振る舞いが、次第に非情な権力者としての仕草にかわっていく様は、まひろとの会話の内容と相俟って中々の凄みがあります。映画「ゴッドファーザー」のアル・パチーノをイメージしろとの演技指導だったそうですが、なるほど納得。役者さんってすごい。
 ↓参考:いつもの「をしへて!」シリーズの記事(必読)。

 あとですね、ここからは本当に私見(いつもそれやがな)なんですが。
 まひろの「妾拒否」は、紫上というより「空蝉」のそれなんですよね。境遇もそちらの方が近い。あまりにも身分が違いすぎ、分不相応すぎて同じ目線での生活なんてとうてい無理。ただ気持ち一つで何の保証もなく、どこへとも知れぬ場所へ流されるなんて耐えられない。ならば今のうちに断ち切ってしまうのが最適解!と。
「いつまでも変わらずに続くものはない」
 と、既にしてまひろは考えているんですよね。「源氏物語」全編に流れるテーマでもあります。それはもう、政治でも恋愛でも同じ。
 盤石と思われた政体も一夜にしてひっくり返ってしまった。
 ましてや人の心などいつ何時どうなるものやら。
 完全に悟ってしまったまひろと、少々自覚はあるものの恋に溺れて目をそらしたままの道長とのコントラストがまたもやえげつない回でした。(たぶん、まひろ従者の乙丸サンはこの図式を看破してる!)
 そして更なる妄想を語ると、紫上というキャラはやはり倫子さまのような「上流貴族」でヒエラルキー上部にいる女子、を想定してると思うんですよね。
 だとすれば「若菜上」での女三の宮降嫁のくだりは、 
 こんな完全無欠のパーフェクト女子でも、こんな酷い目に遭うこともあり得るんだよ……
 などという、源氏物語中で一、二を争う超絶イケズエピソードといえます。しかも嫌らしいのはコレ、光源氏の浮気心じゃなく(全くなかったとも言い切れないけど)朱雀院とその周囲からじわじわ外堀埋められる形でねじ込まれたのよね。そのうえ降嫁後にも紫上への寵愛が変わらないとみるや、ワザワザ女三の宮の位階を二品に上げるとか、光源氏じゃなく紫上にお手紙寄越すとか、朱雀院の娘可愛さという体でのプレッシャーかけっぷりがヤバかった。これはもう、どんなに人間力女子力があってもどうにもならない。むしろ美点があればあるほどダメージでかい。紫上が病んだのって光源氏じゃなく朱雀院のせいじゃない?と思ってます(個人の意見です)。

<つづく>

80代でも読破できた翻案源氏物語「ひかるのきみ」壱と弐無料です。お試し読みにどぞ。
縦書きでPDF、EPUBあります。


「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。