小学校の同級生のこと④

いよいよ、1年生の学校生活がはじまる。
入学式の日にもらったランドセルの黄色いカバーを母ちゃんにつけてもらい、
教科書もノートも全部、名前もバッチリだ。

パラパラと教科書をめくってみる。
最初の方は、どの教科も文字は大きくて、絵ばかり、まるでこれじゃ絵本だ。
「小学校の勉強は難しいってきいてたけれど、そうは見えないなあ。
 これくらいなら、なんとかなりそうだな。」
勉強というと、のび太が毎回0点を取って泣いているシーンか、
勉三さんみたいに分厚い本を重ねているシーンくらいしか知らなかったし、
僕には弟が一人いるけれどお兄ちゃんもお姉ちゃんもいなかったから、
いまいち「勉強」のイメージがわかなかった。

最初の1週目は、学校たんけんや、そうじ当番、集団下校の説明、健康診断、
それと学年集会くらいのもので、なかなか「勉強」の時間はなかった。


学年集会の日。体育館に集められる。入学式の日はシートが敷かれたり、
カーテンやいろいろな飾りがあった体育館だったが、
今はガランとしていて、1年生だけがまんなかの前の方に固まって集まると、
後ろの方はスッカラカンで物足りない感じだ。

「さぁ、何組さんが一番早く並べるかな?」

3組の北山先生が、前に立って大きな声をかける。

「ほれぃ!3組!!他のクラスに負けたらあかんでぃ!!」

全体に向かって声をかけるときと、3組だけに声をかけるときで、
ぜんぜん喋り方がちがっているのが面白かった。

「3組やったら、いつもあんな風な話し方なんかなぁ。
 僕らの和久井先生は、「ならびますー。」「前をむきますー。」と、
 最後の文字を伸ばしてゆっくり優しく話すけど、全然ちがうなぁ。
 とりあえず、2組でよかったよかった。」

なんて思っていたら、僕らの2組が並ぶのは最後だった。
和久井先生はちょっと困ったような顔で、
「背の順背の順。練習したやろー。ほれほれ。並んだらすわりますー。」
と、僕らの頭をポンポンとさわりながら順に座らせた。

各クラスの先生が、自己紹介をする。
「1組の担任の松岡です。僕はね、この3月までは6年生を教えてたんだよ。
 6年生になると、背を追い越す子もいて、卒業式の時は、みんな大きくなったな
 ぁ、と思ってたら、今度は1年生の担任になったので、
「あれ?1年生の机ってこんなに小さかったっけ?」
 と、びっくりしました。あとでお話しするけれど、1組には坂下くんもいるから、
 休み時間は1組にもあそびにきてくださいね。1年間よろしくお願いします。」

坂下くん・・・。もしかして、あのジッとしてられない子のことかな。
そういえば、最近は入学式の日にはしてなかった、帽子みたいなのを被ってるな。
今日は・・・1組の列には入らず、脇本先生と体育館の”スッカラカン”の部分をうろちょろしている。
1組、となりだから休み時間にいってみようかな・・・。


「2組の和久井ですー。私は今年はじめてこの美山小学校にきました。
 だから美山小学校では1年生です。1年生のみなさんとこの美山小学校のことを
 たくさん知って、大好きになりたいな、とおもいます。
 よろしくおねがいしますー。」

1年生だって!!と、他のクラスの子達が騒ぎ出した。
あらためて見ると、2組の和久井先生がダントツで若いし、優しそうだ。
他のクラスの人たちも気になっていたのかもしれないな。


「はい!ちゅうもーく!そこ!背筋!ホイ!私に注目よ!
 和久井先生の後に、こんなしわくちゃばばあを見たくないってか?ハッハッハ!
 3組の北本です。学年の先生の中では一番のお姉ちゃんです。ハッハッハ!!
 みなさんと一緒に、たくさん笑って、たくさん勉強したいなぁ、と思ってます。
 場合によっては・・・・たくさん怒らなあかんかも?ハッハッハ!!
 よろしくお願いします!!」

ハッハッハ!につられて、学年みんながケラケラ笑った。
北本先生は、ちょっと怖そうだけど、怒らない時はとても楽しそうだな、って思った。僕は集団下校の班が北本先生だった。うーん。あんまり怖がらなくてもいいのかも?

「4組の水谷です。この美山小学校はもう5年目になります。
 もしかしたらみなさんのお兄さんやお姉さんが「鬼の水谷」とか言うてるかも
 しれませんが、僕を鬼にするか天使にするかはあなたたち次第やで!!
 ちなみに、今のところ4組さんはまだ私を鬼にしていません。
 1年間、天使のままでい・さ・せ・て・ね♪ よろしくお願いします。」

手を顔の横で合わせて、おしりをプリっとした水谷先生をみて、
4組の子達はつぎつぎに「おぇぇぇぇー!」と言った。
水谷先生は腕をふりあげて怒ったふりをしながら4組の列に戻ったものだから、
隣の3組と5組までぎゃあぎゃあ言って、学年全体がにぎやかになった。
僕も一緒になってぎゃあぎゃあ騒いでた。面白い先生ばかりだな、と思ってたら、
となりに座っていた優子ちゃんがトントンと肩を叩いて、
アゴで前を向くように教えてくれた。


「はい!今私が出した指は何本だったでしょう?」

と、一番背の小さな平林先生が背伸びをしながら言った。
それまで水谷先生のほうばかりに気を取られていたから、
急にみんな前をむいてキョトンとした。

「ほれー。前見てなかったでしょ。あなたたち。
 お話はね、目で聞くの。だから目がこっちを向いてないと、
 私の声はあなたたちにとどかないのよ。
 正解は、5本。5組の5本でしたー。と、いうわけで、
 5組の担任平林でーす。
 まだいまのところ・・・1年生には背は追い越されてないかな?
 背はちっちゃいけど、態度はでかい!北本先生の次におねえちゃんは私です!
   早く私の背を追い越してくれるのを楽しみにしてまーす!」


また学年みんながケラケラと笑った。
紺と赤のジャージを着た平林先生が、5組の前にチョコチョコ
パーマ頭を振りながら戻ろうとする時、
それまで例の坂下くん?と一緒にいた脇本先生が前に出てきて、
坂下くんのところには給食の川井先生がそばについた。


「みなさん、はじめまして・・・の人が多いんちゃうかな?
 1組さんと4組さんにはチョコチョコおじゃましてます。脇本です。
 私は1組坂下くんと、4組の伊川くんと一緒に、なかよし学級で勉強しています。
 なかよし学級のことは、みんな知ってる?」

1組と4組だけが、「知ってる!」「行ったことある!」と口々に言ったが、
他のクラスの子は不思議そうに1組、4組の子達を見ていた。


「ありがとう1組さん4組さん。そしたら、2組、3組、5組の子たちもおるから、
 ちょっとなかよし学級と、坂下くんと伊川くんのお話聞いてもらえるかな?」

そういって、脇本先生が話し始めた。


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