溶けるように落ちて

最近、片想いをしている。お相手はクラスメイトの男の子。前からちょっと気にはなっていた。男の子の友達がかなり少ない私にとって、珍しく交友関係がほどほどにある。ずっと見ていて何故か飽きない。むしろ何だかほわほわとした気持ちになる。そんな、ちょっと、不思議な存在の男の子だった。

ある日。

「しっかりと言われたことはやらないと!」
「すみません…」

うっかり提出物の忘れ物をしてしまって、提出期限の放課後、先生からしっかり怒られた。よりによって緩くない、厳しい先生。完全にやらかした。こってり30分は絞られたところで御免となり、とぼとぼとクラスに戻る。平叙点とかめちゃめちゃ気をつけてるのになぁ……うう。

教室に戻ると、気になっている男の子だけひとり、席について勉強していた。

「あ、あれ……?」

私、待っててもらってたはずなんだけどな……友達についてふと零す。

と、

「あ、さっき席に手紙置いてめちゃめちゃ急いで帰ってたよ」

「えっ、あっ、ありがと」

パタパタと自分の席に駆け寄ると、確かにそこに器用にハートに折った手紙がひとつ。不器用が頑張って開く。

『雨がこれから降る予報らしくて傘ないし雷怖いから帰る!ごめん!!><』

「ええええ…」

思わず色んな意味でがっくりとする。

「なんだったの?」

不意打ち!正直ドキッとした。

「えっとね、傘ないし雷怖いから先帰るって」

「だからさっきあんなに急いで外見ながら帰ってたんだ…」

「うん、多分ね〜……私も傘ないかも」

「あー大丈夫だよ。雨降るの確か7時からの予報だから」

「え!?2時間後じゃん!も〜嘘でしょ〜」

私友達の2時間後の雷の恐怖に負けたのか……なんか今日はトコトンついてないなぁ。苦笑いして、はぁ、と溜息をつきながら席に突っ伏した。

がらり、と椅子を引く音がした。上靴の音がする。こちらに近づいて……

「はい、これ」

「えっ?」

思わぬ出来事に顔を上げて驚く。

差し出されたのは、ひとつのチョコレート。

「なんか先生からもらったんだけどさ、僕チョコダメなんだよね」

だからさ、はい、と差し出されるチョコレート。

「あっありがとう」

彼の手のひらからチョコレートを受け取る。彼はにこにこと笑って、満足そうに席に戻る。

私の手のひらに、ちょこんとチョコレートがひとつ。こんなふうに男の子から何かを貰うのは初めてかもしれない。どぎまぎする。ちょっとあったかくて、ちょっと溶けてる。多分ポケットにいれてたんだろうな。なんだかちょっと、元気になった気がする。


帰り道、ポケットから、貰ったチョコレートを取り出してしげしげと眺める。

「……えいっ」

包みの、両端のねじってある所を引っ張って緩める。開くと、やっぱりちょっと溶けているチョコレート。

「ふふふ、」

えい、とチョコレートを口の中に放り込む。元々溶け始めていたチョコレート。あっという間に溶けて、甘さが広がる。

空を見上げれば三日月が昇っている。どうやら今日の天気予報はハズレらしい。

「月、綺麗だなぁ」

チョコレートが完全に溶けて無くなって、ふと、いつの間にか先生に怒られてしょげてたことなんか忘れてしまっていたことに気付いた。

「課題、明日提出しなきゃだなぁ」

少し憂鬱な気分がよぎった時、手の中からくしゃっと音がする。チョコレートの包装の音だ。チョコレートを差し出した彼の、受け取ったあとの満足そうなあの彼の笑顔が過ぎる。

どうやら溶けていたのはチョコレートだけではなかったみたい、なんて、ね。そんな私の、恋に溶けるように落ちたお話。

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