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吉本ばなな『白河夜船』を読んで


睡眠障害で不眠と過眠を繰り返す私にカメラマンのまくらあさみさんがおすすめしてくれました。

眠れない時は1ヶ月くらいまともに眠れない。何日もオールしてずっと真夜中にいるみたい。

寝すぎる時は、二十四時間以上寝て、目が覚めた時に永遠に目が覚めなかったらどうなっていたのだろうとぼーっと考えて悲しくなる。



私は夜が好きだ。10代の時に夜型人間だと気が付きました。生活の全てが夜に起こるものなら快適なのに。

否、何も無い夜が無限に続くから好きなんだと思う。



『夜が好きだ。好きでたまらない。夜の中ではなにもかもが可能になるように思えて、私はちっとも眠くならない。

 彼といると時折、「夜の果て」を見てしまうことがあった。私にとってそれは、これまでに見たことのない光景だった。』

(吉本ばなな『白河夜船』新潮文庫)


ハッとするセンテンスだった。そうだ、夜の中では何もかも可能になる気がしていた。

アイドル時代、日中忙しかった分、夜は朝が来るまで外で遊び続けた。

勿論、お店も閉まっていてショッピングもできない。
電車も動いていない。

それでも、貸切のブランコ、人気のない大通り、車の音がしない町、無限に自由だった。

何をしても許されるような解放感

街中で踊っても、脚を高くあげても誰も見ていない

私はそういう自由を求めていた。


しかし、夜の果てを見てしまうことは何度もあった。それは、嬉しいことのように思えるけれど、ブラックホールのように果てしない終わりのない暗い空の下だった。

誰かといると特にそうなのだ。





『いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう。
 潮が満ちるように眠りは訪れる。もう、どうしようもない。その眠りは果てしなく深く、電話のベルも、外をゆく車の音も、私の耳には届かない。なにもつらくはないし、淋しいわけでもない、そこにはただすんとした眠りの世界があるだけだ。
 目覚める瞬間だけが、ちょっと淋しい。薄曇りの空を見上げると、眠ってからもうずいぶんと時間がたってしまったのを知る。眠るつもりなんかなかったのに、一日を棒にふったなあ・・・・・とぼんやり思う。屈辱によく似たその重い後悔の中で私はふいにひやりとする。』

(吉本ばなな『白河夜船』新潮文庫)

寝過ぎてしまう日々が続いた時の心情がそのまま描かれている。


逃げたいのだ。眠りの世界に。

それが悪夢でも、目が覚めているよりもずっと心地がいい世界の中にいる。叶うのならば眠り始めてからずっと目が覚めず、目が覚めないことにも気がつかないまま生涯を終えたい。

折角、長いこと眠りの世界にいても、目が醒めると現実という悪夢が始まって、眠り過ぎたことに罪悪感を抱いたり、あの嬉しい出来事は夢だったのかと落胆したり、眠りすぎる自分を責めてしまったり最悪だ。

寝すぎることが最悪なのではない。目が覚めることが最悪なのだ。

今、私は入院生活によって、睡眠障害が改善された。

眠ることが怖くても、翌朝起きられないことが怖くて仕方なく眠りに入る。


夜の果てまで走る


この本を読んでいて、一つ謎が解けた。
起きるのが遅かったわたしは、一人でに都会へ出向いて買い物や野暮用を済ます。15時くらいだったかな、働くものがビルにこもっている時間帯、私だけ何故ここにこの時間にいるのだろう。怠惰な自分に罪悪感を抱く。

しかし、都会は一人ではないのだ。デパートにも服屋にも銀行にも同じように可愛い服を着てお化粧した女の子たちがいる。全員にどんな生活を送っているかインタヴューをして安心したかった。そんな不審なことはできない。

『つまりはひまだから、寝てばかりいるのかもしれない。こんな女の子が日本中に何人いるのかわからないが、昼間のデパートで会う、大学生でも自由業でもなさそうな妙にぼんやりとした子なんかが、もしかしたらそうなのかもしれないと思う。そういう自分こそが、真に無目的な瞳をして歩いているのが、よくわかるのだ。』

(吉本ばなな『白河夜船』新潮文庫)

そうか、私もあの子たちから見れば同じように目に映っていたのかもしれない。


「眠りは私の味方だわ」

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