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ブリガンダイン:20年遊ばれるゲームUI

ブリガンダイン グランドエディション」(GE)というゲームを20年以上遊んでもらえた理由のひとつに操作性、ユーザーインターフェース(UI)があると思っています。1プレイ20~40時間を快適に、さらに国や難易度を変えて何周も遊んでもらえるよう、開発時に細かく気を配りました。
本作のUI設計とプログラム担当として、具体的にどの部分にどのように配慮したのか、ちょっとしたSLG/SRPG(シミュレーションゲーム/シミュレーションRPG)のUI変遷史も交えつつ、まとめてみました。
本作の深い部分まで知りたい方や、ゲームのUIに興味のある方に読んでもらえたら幸いです。

マウス風ペンカーソル

気に留める人もいないと思いますが、本作の羽ペン型のマウス風カーソルは戦略マップと戦闘マップで同じ操作感を提供するために考えました。

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GEの前作、「ブリガンダイン 幻想大陸戦記」(幻想)の開発当初、プレイステーション(PS1)のコントローラーはまだ十字の方向キーのみでアナログスティックはありません。PS1の前のスーファミ時代に人気だったSRPG、ファイアーエムブレム(FE)やスーパーロボット大戦(スパロボ)、タクティクスオウガなどは皆、十字キーを1回押すとカーソルが1マス動く形でした。
私がPCエンジンで開発したレディファントム、幻想と同月発売のギレンの野望などヘクスマップ型のSLG/SRPGも、十字キーで1ヘクスずつカーソルが動く形で、ペンカーソルをマウスのように動かすブリガンダインの操作は異色でした。(私が知る中でゲーム機では、PCエンジンのバスティールが先にマウス風の矢印カーソルでした。)
ヘクスマップではカーソルの斜め移動も必要になため、4角マスと比べて十字キーで操作しづらい問題がありました。これをマウス風操作にすることで直感的に、戦略マップと戦闘マップを同じ操作感にすることができました。
さらに、幻想の開発中に発表されたDUALSHOCKにいち早く対応しました。アナログスティックでカーソルを動かす操作は当時新鮮で、マウス風カーソルとの相性も良く、開発中はよく意味もなくグリグリ動かしていました。
今では、FEやスパロボなど他のSLG/SRPGもマウス風ペンカーソルになり、すっかり当たり前になりました。
また、戦略マップで遠くの拠点、戦闘マップで離れた敵などに速く移動したいときのため、□ボタン押下中のカーソル移動の加速にも対応しました。

ボイス再生中の自動ページ送り

GEを開発した1999年頃、ゲーム中のセリフにボイスのあるゲームは少なく、ドラクエやFF、FEなどもまだボイスはありませんでした。(スパロボは戦闘シーンのみボイスあり。)
ボイスのあるゲームで当時よく見かけた操作は、セリフウィンドウの1ページ単位でボイスを再生し、ボタンを押すと続きのボイスがまた1ページ分再生されるというものでした。これではボイスがぶつ切りになり、声優さんの演技も台無しで、没入感が阻害されると感じていました。

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そこで、ボイスの再生に合わせて自動的にページ送りするようにし、声優さんの演技をそのまま再現するようにしました。これを実現するため、1ページ単位のセリフの長さを測る作業を、8時間ある全収録ボイスで行いました。(とくに他のゲームは参考にしなかったと思いますが、先に自動ページ送りに対応したゲームがあれば記載したいので、お知らせください。)
これも今は当たり前になり、最近のゲームでは、自動ページ送りとページ単位再生をワンボタンで切り替えられたり、ボタンを押すと1ページ単位でボイス再生が止まったりするので、GEを今遊ぶとこの部分の操作性は劣って感じられますね。
この20年の間に、本作も含め多くのゲームによって改善が積み上げられ、操作性が進化していることを実感しています。

ステータス画面の雰囲気作り

ブリガンダインでは、ステータス画面で技や魔法にカーソルを移動すると、フレーバーテキスト(雰囲気作りの説明文)を表示します。
たとえば、ジェノフレイムなら「炎の嵐をおこし、周囲の敵を焼きつくす」といった具合です。通常攻撃も含め、すべての技や魔法にフレーバーな説明文を表示するゲームは珍しかったと思います。

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スーファミ時代までは容量の都合もあって、このレベルで説明文を表示したゲームは、タクティクスオウガ(TO)くらいだったと思います。TOはアイテムや、STRなどの基本情報に至るまでゲーム内で解説するほどの行き届いたヘルプ機能があり、ずば抜けた作り込みと丁寧さでした。(ブリガンダインはアイテムのフレーバーテキストまで手が回っていません。)
しかし、[ヘルプボタンを押す→目的の項目までカーソルを移動する→決定ボタンを押す]というTOの操作は若干手間も感じられ、ブリガンダインではカーソルを移動するだけで説明文を表示するようにしました。(STRなどの基本情報のヘルプは見送りましたが、今なら対応したいところです。)
また、本作のプロフィール画面も当時としては珍しかったように思います。
スーファミの第4次スーパーロボット大戦は、タイトル画面のオプション内の「キャラクター大辞典」から登場キャラクターの原作設定を見ることができました。ゲーム中に見られなかったのは、スパロボ内の話と原作が若干異なるため、混乱を避ける意図もあったのかなと想像します。

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ブリガンダインではゲーム内で、各キャラクターを後世の歴史家、というよりも攻略本的なメタ視点で解説しています。スパロボや信長の野望三國志のようにゲーム以前に人物の知識があるゲームと異なり、ブリガンダインは原作なしでゲームオリジナルのキャラクターが100人以上登場するため、ゲーム中のイベントだけでは人物を把握して楽しむことは難しいと考え、ゲーム内でキャラクターの解説を行うこととしました。
本来、創作物のキャラクターはその言葉や行動によって人となりがプレイヤー(読者)に伝わるものと思いますから、このプロフィール画面は邪道という認識でした。とはいえ、人物や世界観が伝わるようひとりひとり趣向を凝らし、国が滅びて再仕官した場合など個々のキャラクターの状況に合わせて変化するプロフィールの作り込みは、プレイヤーに好評だったと思います。
また、その後スパロボも、ゲーム内でプロフィール画面が表示されるようになりました。やはり、ゲーム内で閲覧できる方がわかりやすいですね。

ボタンガイド

GEではステータス画面やウィンドウを開いたとき、下部にボタンガイドが表示されます。

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今では家庭用ゲーム機向けに発売される全ゲームが対応していますが、PS1の頃は日本でボタンガイドに対応したゲームはごく少数でした。ブリガンダインも1作目の幻想ではボタンガイドを表示していません。
ゲーム機向けソフトは、ゲーム機メーカーによる審査を通らないと発売できませんが、PS1の頃は日本と北米(当時のSCEとSCEA)で審査基準が若干異なり、日本はボタンガイド必須ではありませんでした。
ブリガンダインの北米版「BRIGANDINE -The Legend of Forsena-」では、バランスの再調整や帝国が選択できるなど、幻想とGEの中間の改良を行いましたが、同時に北米の審査で必須だったボタンガイドにも対応しました。
当時日本ではボタンガイドは一般的でなかったため、私も画面がうるさくなるのではと乗り気ではありませんでしたが、対応したところ以前より親切なゲームに感じられ、GEでもボタンガイド対応としました。
この20年でマニュアルを見ずゲームを遊ぶのが当たり前になり、最近の新規プレイヤーのためにも対応しておいて良かったと思います。
他のゲームにボタンガイドがないことを考え、邪魔と言われないよう表示は最小限に留めましたが、△ボタンでステータス画面、□ボタンでメッセージ早送りなども表示しておけば、なお良かったなと思います。

反省点

本作のゲーム後半で、多数のクエストのメッセージを見るのが面倒との意見をときどき目にします。
この点は自覚がありGEでは、□ボタン押下によるメッセージの早送りを実装しましたが、改善が足りませんでした。
ブリガンダインという作品は、当時RPGが40~100時間程クリアにかかるのに対し、1周は20~40時間と短くし、ゲーム開始直後から各国の君主や上級ドラゴンとも戦えるという、面白さの圧縮もコンセプトだったので、今遊んで無駄・面倒と感じられる時間を作ってしまったのは反省点です。
もし今、改善するならワンボタンですぐに結果表示したり、毎回結果のみ表示するオプションを設けたりしたいですね。


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