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読書記録「風が強く吹いている」①

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだ本は、三浦しをんさん「風が強く吹いている」新潮社 (2006) です。

三浦しをん「風が強く吹いている」新潮社

・あらすじ
陸上経験がほとんどない寄せ集めの10人が、たった1年間で大学長距離走の花形「箱根駅伝」を目指す。主人公の走、先輩のハイジ、個性豊かなメンバーが、己の限界に挑戦し、ゴールを目指して襷を繋ぐことで仲間と繋がっていく、疾走青春小説。

箱根駅伝を目指すという突拍子もない展開から、無謀ながらも必死に挑戦するメンバーの姿、ゴールに向かって走る姿に手に汗握る作品でした。

しかし、この小説がただのスポ根作品だと思ったら大間違い。私はこの作品の「2人の主人公」について書きたい。

「速さ」と「強さ」


1人目の主人公は、1年生の「蔵原 走」
高校時代から注目されていたエース選手であったが、感情的でカッとなりやすい性格から、不祥事を起こしてしまう。ただ、純粋に「走りたい」という思いだけはなくなることなく、弱小陸上部の清瀬灰二(ハイジ)との出会いをきっかけに、また走りだす。

物語の前半では、とにかく「速さ」だけに集中していた走。厳しい指導の元で走ってきた走にとって、生ぬるい練習ややる気の無い選手に対し、つい反発してしまう。そんな走に4年生のハイジは、

「きみの価値基準はスピードだけなのか。だったら走る意味はない。新幹線に乗れ! 飛行機に乗れ! そのほうが速いぞ!」

 同著 200頁より抜粋

と走を叱る。走は自分の走りや記録にこだわるばかり、チームで走ることを忘れてしまう。もっとも、駅伝や陸上競技は個人競技の色合いが強いため、記録を重視してしまうのはわかる。しかし、ただ箱根に行きたいならばロマンスカーに乗ればいい。箱根駅伝を目指すならば、チーム全員が一枚岩となって走らなければならない。

それから走は、チームワークや仲間の存在を意識することとなる。それからハイジは、走にまた声を掛ける。

「長距離選手に必要なのは、本当の意味での強さだ。俺たちは『強い』と称されることを誉れにして、毎日走るんだ。…強くなるには、時間がかかる。終わりはないと言ってもいい」

同著 207頁より抜粋

駅伝は1区間約20km、高低差のある道をひたすら走る競技である。しかし競技でなくとも、何事か物事を成すもの(試験や仕事、ビジネスなど)はすべて長距離走のようなものであると思います。

目指すべき目標に向かって、絶えず前進し続ける体力や忍耐力、安定した精神状態、周囲の状況や自分自身への冷静な分析力。どんなに苦しくても前に進もうとする粘り強さ。
そして何よりも、自分なら絶対に出来るという確信

走はチームメイトやライバルを通じて、「強さ」とは何かを知る。何のために走るのか、何を目指して走るのか、そんな主人公の心の成長が伺える物語である。

次回 もう1人の主人公「清瀬 灰二」について語ろうと思います。また次回!

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