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いつかあの家に2人を招いたら、きっと泣いてしまう。

 人が火事になる確率は0.024%、それなりにレアな体験です。そして非日常をおくり続ける日々は、さらにレアな体験を呼び寄せます。

 火事から半年が過ぎた週末の昼下がり。僕は、東京都写真美術館で森山大道の写真展をみていました。アレハレボケのとんがった白黒写真、どぎつい色が焼き付けられたカラー写真、どれもインパクトがすごくて、どうやったらこんなスナップ撮れるんだろう、と思いながら、被写体たちの過剰な人生に思いを馳せていました。

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 すると被災地の復興を考える「FUKKO DESIGN」を一緒にやっている木村充慶くんから着信。

「河瀬さん、急ぎお伝えしたいことがあるんですけど、今いいですか」

 こんな週末に急ぎ案件ってなんだろう、何か緊急事態なんだろうか。

「ZOOMでいいですか、すぐにアドレス送ります」

 有無をいわせない展開。森山大道のエネルギッシュな写真群に後ろ髪引かれながらも一旦会場の外へ。程なくZOOMのリンクが届き、iPhoneからリモートイン。それにしても、このZOOMの接続画面、今年に入ってみない日はないんですけど、こんなにリモートが一般化するなんてだれも思ってなかったですよね。

 見慣れたZOOMの画面には、木村くんの他に、見知った2人の顔がありました。クラウドファンディングのREADYFORの草原敦夫さんとカメラマンの汰木志保さんです。草原さんは、FUKKO DESIGNがクラファンをやるときに相談に乗っていただき、それ以来活動をご一緒させていただいている方です。汰木さんは災害現場でボランティアをしながら写真を撮るというボラ写という活動をしています。2人は僕の家が火事になった直後、大量のゴミ出しを手伝ってくれました。汰木さんは、その時の様子をカメラで記録、noteにまとめてくれてくれた。

 ZOOM越しに、木村くんがニヤニヤしながら問いかけてきます。

「河瀬さん、なにか気づくことないですか?」

 また木村くんが新しい企画を考えていて、このふたりを巻き込んでいるのかな、でもそれにしては、なぜ木村くんはニヤニヤしているんだろう。でも大体、こういう時って...ひょっとして...まさか...。

 汰木さんが口火をきります。

「私たち、一緒に住んでいるんです」

 ええええええええええええええええええええええええ!

 東京都写真美術館の静かななロビーで思わず大きな声をあげてしまい、係員さんにキッとした目線を感じました。ZOOM画面ゆえに分かりにくかったのですが、よく見ると、2人はマスクもつけずに一緒の部屋にいます。

 今度は、草原さんから驚きの告白。

「河瀬さんの家の手伝いをしにいったあの日に、初めて出会ったんですけど」

  えええええええええええええええええええええええ!

 じゃあ僕の家の火事がきっかけで、2人の人生が動き出したってことじゃないですか。また大きな声をだしてしまい、係員さんのさらに強いキッとした目線を感じました。

「まさに河瀬さんがキューピッドみたいなもので、早く報告したいなぁと思いながらも、コロナ禍もあってお伝えする機会を逸してきたんですよ」

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 2人は結婚を考えているといいます。コロナ禍で結婚式とかは難しいこともあると思います。でも画面の2人はとにかく幸せそうで、心がホクホクしました。

 いつかお祝いさせてね、と伝えて5分ぐらいのサプライズZOOMを終えました。ウキウキした気持ちで、森山大道の写真展に戻りました。ゴミに群がるカラスとか、網タイツに包まれた女性のボディパーツとか、TOKYOを切り取ったエネルギッシュな写真を眺めながら、2人はこれからどんな人生を共に歩んでいくのかなぁと、そのことばかりを考えていました。

 火事って、人生最大のピンチなわけで大変なことの連続です。でも火事で傷ついたあの家で2人は出会い、そこから愛を育んでいるのです。こんなに嬉しいことはありません。

 いつかあの家がなおったら、あの日、煤だらけになってゴミの片付けをしてくれたみんなをお招きしたいです。おいしいものをいっぱい用意して、「1、2、3、ファイヤー」っていいながら乾杯したりして、あの2人の頭をぐしゅぐしゅしながら「よかったなぁ」ってお祝いをしたいなぁ。そんな日が来たら、きっと僕は、鼻水をずるずるしながら、泣いてしまうと思います、うれしすぎて。

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