ぬいぐるみは、人を幸せにする。
人を、人たらしめるものとは一体なんなんでしょうか。食べたり、寝たり、生殖への欲求は動物にもあります。
それは「何かを愛おしむ」ことなのかもしれません。
火事の朝、パジャマで間一髪で逃げ出した小学校6年生と3年生の娘たち。幸いなことに怪我ひとつありませんでした。しかし彼女たちは「日常」のほとんどを失いました。ランドセル、教科書、靴、漫画、コスメ、アクセサリー、すべてが真っ黒な炭になってしまいました。
その日から、家族5人でAirbnbでの生活を余儀なくされました。そんななか「なにかできることはないか」という申し出をたくさんいただきました。衣服やランドセルなど最低限の必需品が揃い始めた被災後3日目、妻が初めて「具体的なお願い」をしたのが「ぬいぐるみ」でした。もとの家では、下の娘はパンダとこぶたとかめのぬいぐるみ、上の娘はテディベアが大好きで沢山のくまのぬいぐるみに囲まれて寝ていました。そんな娘たちが、パジャマ一枚で焼け出され、さぞかし心ぼそいだろうと妻は考え、ある方にくまとパンダのぬいぐるみをお願いしました。その方もその想いに応えて、すぐに買い揃えて避難しているAirbnbまで持ってきてくれたのです。それから子どもたちは、ぬいぐるみたちとずっと一緒です。
こんな話を専門家から聞いたことがあります。
災害が起きたとき用の、避難バックになにをいれるべきか、ラジオや懐中電灯など避難生活に必要なものはリスト化されてネットにもあがっています。でもその専門家は、必要最低限のモノに加えて、「心が落ち着くもの」をいれたほうがいいといいます。たしかに心に強いショックをうけた時には、心が休まるなにかが実はとても必要なのです。
また火事のあとにある仕事仲間からこんなメールをもらいました。
妻も以前火事を経験しているとお話ししましたが、(中略)妻は小学2年生のときに被災し、完全に全焼し何も残っていない状態だったそうです。そのあと、仮住まいの生活中にぬいぐるみなどの心のよりどころが欲しかったらしいのですが、親には言い出せずにずっと我慢していたそうです。そこで、是非河瀬さんの娘さんにプレゼントをしたいので、お子様たちの好きなキャラクターを教えてください。
きっと大人になっても、忘れられないくらい、欲しかったのを我慢してたんでしょう。だから同じ思いをさせたくないと思って、そんな申し出をしてくれたんだと思います。だからそのありがたい申し出もぜひ受けたいと思っています。
興味深いと感じていることがあります。ぬいぐるみは、愛おしいと思って、大切するものですよね。逆に自分が傷ついたときには、それが大きな慰めになる。またコミュニティのなかで誰かが傷ついたときには、やはりその人をなんとか救おうとする。それはひょっとすると自分を救うことになのかもしれない。
愛おしいという感情は、人間にそなわった大切な機能なのかもしれません。そして「ぬいぐるみ」は、人間が発明した「最強の癒し」なのです。
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