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火事のオフ会をやって、泣いてしまった話。

 いきなりですが、火事にあった人たちとご飯をたべました。火事という共通の体験をもつ3人がネットでつながり、リアルで集まることになりました。いわば火事のオフ会、これはなかなかレアです。ある世帯が火事にあう確立は、1年間で0.024%。かなりレアです。火事にあった2人が出会うのはさらにレア。今回は3人集うので、天文学的なレアさです。さらにレアなのは、その3人には共通の知人がいたこと。FUKKO DESIGNを一緒にやってる木村充慶くんです。彼が幹事となり、火事のオフ会をする運びとなりました。

どんな顔をしてあえばいいんだろう

 その日は思いの外、多忙な1日でした。朝から仕事に追われました。でもずっと頭の片隅で火事のオフ会のことを考えていました。

 約束の時間・19時ぴったりに居酒屋に到着。女性の店員さんに、幹事の名前を伝えました。

 「おまちしておりました。お連れさま、お見えになってますよ。2階の階段を上がってすぐのお部屋です」と案内されました。微笑む店員さんにお礼をいい、部屋へと向かいました。すごくドキドキしました。初めての人に会うのだって緊張するのに、その人は火事にあった人なわけで、どんな顔をしてあうべきなのか、全然わかりません。

  扉の前で深呼吸しました。この向こうにいると思うと、鼓動が早くなります。思い切って中に入ると、木村くんの姿が見え、お向かいに困ったような笑顔で男性がたちがりました。すぐに村田正樹さんであることがわかりました。一瞬で心がゆるみました。この人には心を許してしゃべってもいいんだよって、直感的に思いました。

「村田さん、ようやくおあいできましたね」

「おあいできてうれしいです」

 もうひとりは、仕事で少し遅れるとのことでまずは乾杯。

 余談ですが、火事のことを人に話すときは気を使います。相手に大きなショックを与えるからです。だから最初に、家族も無事だし、安心して聞いてくれていいからね、ということを伝えるようにしています。

 でも今回は、お互いに火事にあった者同士。村田さんとはリミッターを解除して話せるんだなぁとそれがうれしかったです。同じ経験をした者同士にしか踏み込めない間合いがあるんですよね。

 村田さんとの出会いは、noteがきっかけでした。火事にあったのはちょうど10年前、ずっと以来火事については固く口を閉ざしてきたんだそうです。僕の書いたnoteを、偶然目にして、こんなメッセージを寄せてくれたのです。

Twitterで拝見し読ませていただきました。
ぼくも10年前に住んでいた貸家が放火で全焼しました。近隣にも迷惑をかけてしまい、すべてのものを失いました。
でもそれによって、たくさんの大切なことにも気づく事ができました。
あれから10年して今年はぼくにとって一つの区切りの時と思っていたとき、記事を拝見させていただきました。
いままで火事の事は人前で話す事が出来ずにいましたがこの記事を見て勇気をいただきました。

 このメッセージを受け取ったのは火事の7日後。その頃、家族5人でairbnbに身を寄せていました。あの頃、先のことなんてなにもわからず不安しかありませんでした。仕事も休まなきゃだし、家のゴミを片付けも、仮住まい探しもいろんな人に助けてもらうしかなかったです。ぼくは無力感に押しつぶされそうでした。

 そんな時に、このメッセージを読み、「ああ、こんな自分でも人の役に立つんだ」って思うことができ、救われたんです。

なぜ火事のことを話さなくなったのか

 火事のオフ会の話に戻ります。  
 村田さんが自分の火事の経験を話し始めました。当時一人暮らしをした村田さん、夜、家に帰ったら、季節外れの花火の匂いがしたといいます。でもキッチンを確認しても何もない。その家には母家とは別にお風呂小屋があったそうで、覗いてみたら、浴槽の中でものすごく大きな炎が上がっていたんだそうです。怖くなり119番をしたが、みるみるうちに母家に火が燃え移り、結局、全焼。のちに原因は放火だとわかりました。犯人はお風呂の鍵をこじ開け、浴槽に大量の段ボールを投げ込み、火を放ったのです。

 村田さんはいわば被害者です。でも近隣にもご迷惑をおかけしたという自責の念に囚われます。心ない言葉を投げかけられたこともあったそうです。次第に、この火事のことは誰にもいうまいと思うになりました。目に涙を溜めながら村田さんは、絞り出すようにこの壮絶な顛末を話してくれました。そして気がつくとぼくも木村くんも泣いていました。

 おかしな話ですが、ぼくは涙を流しながら、同時に、いいようのない安堵の気持ちを抱いていました。感じていました。おそらく村田さんもそうだったんだと思います。同じ境遇の人となにかを分かち合えていることがうれしかったのです。

 欧米には火事経験者が、お互いの経験を思う存分語りあうグループワークのようなものがあるといいます。しかし日本でそのような取り組みはあまり聞きません。そんなことができれば、救われる人は少なからずいると思います。

 まもなく3年前にマンションが原因不明の火事に見舞われた下枝さんが現れました。彼も火事の経験をnoteにまとめています。それを火事の直後に木村くんから教えてもらい、ぼくもnoteを書きはじめました。それが新たなご縁と生み出して、村田さんと出会うことができました。火事という不運による数奇なご縁です。結果的に、ぼくら3人にとって、何より心地よいご縁でした。

一般社団法人カジがあったらいいのに

「家族の無事と出火原因、これって必ず聞かれるよね」

「わかります、そして必ずその順番ですよね」

 ハイボールを飲みながら、火事あるある話に花を咲かせながら、ぼくは考えを巡らせていました。火事にあったことを人に言えなかったり、苦難を抱え込んで孤立してしまう人たちはたくさんいます。そんな人たちが火事の経験を、わかちあえる仲間がいれば大きな救いになるはずです。今のぼくらのように。

 思いついたことを口にだしてみました。

「一般社団法人カジってあったらいいよね」

 火事にあった人は孤立しがちです。しかしネットをしらべても有益な情報はあまりありません。サポートする仕組みもほとんどありません。

 罹災証明の取り方から、仮住まいの探し方を教えてくれる人がいたらどれほど心強いことでしょう。また辛い気持ちを聞いてくれる人がいればどれほど勇気づけられることでしょう。

「いいね、それいつかできたらいいね!」

「じゃあ設立することになったら、この3人ではじめよう」

 最後はそんな夢を語りあって火事のオフ会はお開きになりました。お店の前で記念撮影をしたのですが、みんなとても幸せそうな笑顔をしていました。

 村田さん、そして木村くんは同じ方向だったので、赤坂見附の駅まで一緒に歩きました。上気した顔に夜風が涼しくて心地よかったのを覚えています。

 ホームでお別れする前に、村田さんと握手しました。

 そして1枚、写真を撮らせてもらいました。

 ファインダーを覗きながら、ぼくは泣きそうでした。

 村田さん、下枝さん、幸せな夜をありとうございました。

 また近いうちに会いたいです。

あなたからのサポート、すごくありがたいです。