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家が火事になりました

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2020年2月10日に家が火事になりました。火事が起きる確率は、0.04%と言われています。でも起きてしまえば100%。突然、大混乱が始まります。何が起きて、何にを感じたか、いつ…
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#写真

家が火事になりました。

人生には時に思いがけないことがおきます。 その朝、僕は仕事仲間とともに、首都高で移動していました。そこに突然、出勤途中の妻から電話がありました。 「我が家が燃えてるらしいの」 「えっ、なに燃えてるって」 「とにかく家が燃えてるの」 最初はなにをいっているのか全くわかりませんでした。でも胸騒ぎを押さえながら自宅に戻ることにしました。すぐに高校3年生の長男と連絡をとりました。家族全員が避難できていることがわかり、一旦はほっとしました。でも息子は興奮した声で最後にこういい

ぬいぐるみは、人を幸せにする。

 人を、人たらしめるものとは一体なんなんでしょうか。食べたり、寝たり、生殖への欲求は動物にもあります。  それは「何かを愛おしむ」ことなのかもしれません。  火事の朝、パジャマで間一髪で逃げ出した小学校6年生と3年生の娘たち。幸いなことに怪我ひとつありませんでした。しかし彼女たちは「日常」のほとんどを失いました。ランドセル、教科書、靴、漫画、コスメ、アクセサリー、すべてが真っ黒な炭になってしまいました。  その日から、家族5人でAirbnbでの生活を余儀なくされました。

愛おしい日常を残したい。

 火事になってから、何かに突き動かされるように撮影を始めた。これまで何気なくやり過ごしてきた家族との日常、それを撮り続けてきた。しかしずっと疑問だった。なぜ火事をきっかけに写真を撮るようになったのだろうか。  noteに上がってたワタナベアニさんの文章にハッとした。答えが書いてあった。 あの日以来、家族との日々を書き続けている。  火事になってしばらくは憔悴するような日々だった。非日常の連続でヘトヘトに疲れ果ていた。火事から6日目、僕は意を決して、noteに事の顛末を書

悪い大人ほど、よく笑う。

 金髪で大きな口をあけている大人と、全身黒尽くめにサングラスの大人。どうみても悪い大人じゃないですか。でもめっぽう面白いんですよ。サングラスの大人は、ワタナベアニさんです。最近話題の本「ロバート・ツルッパゲとの対話」の著者にして、写真家でありアートディレクター。今日の「渋谷のテレビ」に遊びにきてくれました。  土屋敏男さんの作った、欽ちゃんのドキュメンタリー映画「We love television?」の写真を撮っていることもあり、独特の強面が脳裏に焼きついていました。そし

燃えた家を壊す前、子どもたちは壁いっぱいに落書きをした。

 2月の初め、火事という非日常を経験し、そのことを書いていたら、別の非日常が始まった。それから僕はずっと緊急事態を生きている。非日常とは普段とは違うことが起きるわけで、そこで考えた由無し事でも書き留めておけば、後から役に立つかもしれず、書き続けることとする。  火事になって2ヶ月がすぎた。家の中は、ダイニングテーブルからピアノ、蒐集していたCDに至るまで、まるっと燃えてしまった。 燃えた家との別れ。 あの家には名前がある。設計をしてくれた建築家の友人が名付けた。コトリとい

仲間がいなかったら、僕の心は折れていた。

 助けて欲しいって、言うのはすごく難しいことです。人に弱みを晒すようだし、どこからか「自分でなんとかしろよ」って声が聞こえてきそうです。でもそれが言えるか言えないかで、人生は大きく変わります。僕の場合、ひょんなことから「助けて欲しい」と言うことができました。そして沢山の人たちから助けてもらいました。  災難は、突然訪れます。僕の火事もそうでした。日常が一瞬で暗転します。突然、住むところがなくなって、着るものも、お気に入りのマグカップも、子どもたちのぬいぐるみも、全部なくなり

なぜ今、植物に惹かれるのか。

 嘘のような話ですが、家が火事になりました。それがきっかけで、日常の瞬間を残しておきたいと写真を撮るようになりました。撮りたい気持ちがむくむくと大きくなったところに、ずっと気になっていたカメラマンのワタナベアニさんから思いがけずカメラを頂きました。さらに撮りたい気持ちにドライブがかかりました。こうなるともう何がなんでも撮りたい。四六時中、道の際でしゃがみ込んだり、急に空を見上げたり、家族からは半ば呆れられながらも、感じるものがあれば手当たり次第に写真に収めるようになりました。

なぜ写真を撮り始めたのか。

 火事になって3ヶ月が過ぎました。いつか誰かの役に立つだろうと、その経験をnoteに書き続けています。今回は、写真を撮ることについてです。  火事をきっかけに、写真を撮るようになりました。僕は写真を撮るプロフェッショナルではありませんが、撮りたいものが沢山あって、いつもカメラを持ち歩いています。家族の日常や路傍の花、散歩で出会った犬。火事にあい、会社を休み、家族と多くの時を過ごすようになって、何気ない日々を愛おしく思うようになったからです。  火事の直後は、iPhoneで

君を撮るためにカメラを買ったんだよ。

 火事になった直後、日常を撮ろうと思った。3週間会社を休んで家族と過ごした。それが落ち着くと今度はSTAY HOMEが始まり、会社にもほとんど行かず、半径5メートルの世界に閉じこもる毎日が続いた。変わらぬ日常もカメラを手に、目を凝らせばドラマチックだ。花を撮れば、色の鮮やかさに目を奪われる。空を撮れば、雲の広がりにワクワクする。雨の日は憂鬱な気持ちが写真に滲み出る。天気が違えば、光が変わり、撮れる写真も変わる。  カメラは、ただ記録するための道具ではない。火事の後、肌身離さ

いつかあの家に2人を招いたら、きっと泣いてしまう。

 人が火事になる確率は0.024%、それなりにレアな体験です。そして非日常をおくり続ける日々は、さらにレアな体験を呼び寄せます。  火事から半年が過ぎた週末の昼下がり。僕は、東京都写真美術館で森山大道の写真展をみていました。アレハレボケのとんがった白黒写真、どぎつい色が焼き付けられたカラー写真、どれもインパクトがすごくて、どうやったらこんなスナップ撮れるんだろう、と思いながら、被写体たちの過剰な人生に思いを馳せていました。  すると被災地の復興を考える「FUKKO DES

火事のオフ会をやって、泣いてしまった話。

 いきなりですが、火事にあった人たちとご飯をたべました。火事という共通の体験をもつ3人がネットでつながり、リアルで集まることになりました。いわば火事のオフ会、これはなかなかレアです。ある世帯が火事にあう確立は、1年間で0.024%。かなりレアです。火事にあった2人が出会うのはさらにレア。今回は3人集うので、天文学的なレアさです。さらにレアなのは、その3人には共通の知人がいたこと。FUKKO DESIGNを一緒にやってる木村充慶くんです。彼が幹事となり、火事のオフ会をする運びと