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日本では海外よりも鉄道員の質が高い?

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は、「日本では海外よりも鉄道員の質が高い?」という話を書きます。

ここで言う「鉄道員」は、鉄道現場で働く人たちを指します。運転士や車掌といった乗務員から、駅員、運行管理をする指令員、車両や施設のメンテナンスを行う保守作業員などをふくんでいます。

■鉄道技術者から聞いた事実

「日本では海外よりも鉄道員の質が高い」と聞くと、「そうかなあ?」と疑問を感じる方もいるでしょう。ただ、海外で鉄道を利用したことがある方の中には、「たしかにそうかも」と思う方もいるでしょう。

結論から言うと、「日本では海外よりも鉄道員の質が高い」というのは事実です。日本国内では、「鉄道員がまじめに働くのは当たり前」だと思う人が多いので、この事実はあまり知られていないかもしれません。ただ、海外の鉄道員とくらべると、日本の鉄道員は「質の高い」のです。

私は、この事実を複数の鉄道技術者から聞き、とても納得しました。なぜならば、私が取材を通して見てきた日本のさまざまな鉄道現場は、「質の高い鉄道員」なくして存在し得ないところばかりだったからです。

この事実は、ある記事を書くために鉄道の当事者に対するヒヤリングを繰り返していたときに耳にしました。そのある記事とは、講談社の現代ビジネスに寄稿した記事「日本の都市鉄道、なぜか『海外輸出』がうまく行かない『3つの理由』」です。

つまり、日本の都市鉄道の技術やノウハウを海外に売り込むことを難しくする大きな理由として、「日本の鉄道員の質が高すぎて、他国の鉄道員が真似できない」という事実があるのです。それは、日本の鉄道の「強み」でもあり、「弱み」でもあります。

■「質が高い鉄道員」と「職人的芸当」

日本の鉄道員は、それぞれ特殊な訓練を受けた「特別な人」であり、海外の鉄道員とくらべると社会的地位が高いという傾向があります。たとえば、列車の運転士や車掌は、国土交通省が定めた規定に従って訓練を受けており、その状況を熟知した指令員が列車の運行管理を担っています。

つまり、日本の鉄道では、各分野のスペシャリストがそれぞれの現場におり、輸送を支えているのです。

日本の電車や運行管理システムは、こうした「特別な人」が操作することを前提として設計されています。このため、業務の専門性がきわめて高くなっており、列車の動きを秒刻みで管理するという「職人的な芸当」ができるのです。

いっぽう、海外の鉄道員はそうではありません。日本の鉄道員とくらべると、社会的地位が低く、充分な訓練を受けていない人が少なからずいます。つまり、日本の鉄道員よりもアマチュアに近い「普通の人」が鉄道を支えているのです。

このため、海外の電車や運行管理システムは、基本的に誰もが操作方法を習得できるように設計されており、操作の詳細を記したマニュアルが存在します。つまり、日本の鉄道システムとは設計思想が根本的に異なるのです。

■質が異なる理由

それでは、なぜ日本の鉄道員は海外の鉄道員よりも質が高いのでしょうか。その理由を一言で語ることは難しいかもしれません。

そこでここでは、「仕事」に対する価値観や意識に着目して、その主たる理由を探ってみましょう。

日本には「仕事」に対する特殊な価値観があり、それを受け入れ、勤勉に働く労働者が大勢います。

一方海外では、「仕事」に対する価値観が日本とは大きく異なる国や地域が存在し、勤勉でなく、意識が低い労働者が少なからずいます

労働者を取り巻く環境も、日本と海外では異なります。とくに日本は、労働者を取り巻く環境が良くも悪くも「特殊」です。

つまり、こうした労働者の質や、それを取り巻く環境の差が、鉄道員の質の差として反映された。私はそう考えています。

また、私は、日本の数々の鉄道現場や海外の鉄道を取材し、そこで働く人たちの姿を見て、こうした事実がたしかに存在すると感じてきました。

■鉄道員の質の差が海外展開のネックに

ここまでは、日本の鉄道員の質が高くなった理由や、その背景を説明してきました。とくに海外で鉄道を利用したことがある方の中には、日本の鉄道員の質が高さを実感した方もいるでしょう。

このようなちがいは、日本の鉄道に関する技術やノウハウを海外に売り込む上で大きなネックとなります。なぜならば、鉄道員の質が異なる国に、日本で開発・設計された電車などをそのまま送っても、現地の鉄道員が使いこなせない場合が多いからです。

現在、日本政府は、成長戦略の一つとしてインフラ輸出に注力しており、その一環として鉄道の海外展開を推進しています。ところが残念ながら、その成果が出ているとは言いがたい状況が続いています。

もし鉄道の海外展開を今後実現させるならば、日本と海外の鉄道員の質のちがいを理解したうえで、日本の鉄道のやり方にこだわらず、相手国の要望に合わせて臨機応変に対応する必要がある。私はそう考えています。

※この記事は、私が現代ビジネスに寄稿した「日本の都市鉄道、なぜか海外輸出がうまく行かない『3つの理由』」の内容の一部をピックアップしてまとめたものです。

【参考リンク】いずれも講談社の現代ビジネスの記事

日本の都市鉄道、なぜか「海外輸出」がうまく行かない「3つの理由」

日本の新幹線、なぜか「海外輸出」がうまく行かない「3つの理由」


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