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なぜ鉄道ライターがまちづくりの本を書いたのか

私は、マスメディアの方から「鉄道ライター」の一人として扱われることがあります。20冊以上ある著書のうち、鉄道に関するものの割合が大きいからです。

そのような私は、東京の都市計画(まちづくり)に関する本を3冊出しています。1冊目は『東京道路奇景』(草思社,2016年)、2冊目は『オリンピックと東京改造』(光文社新書,2018年)、3冊目は『東京 上がる街・下がる街』(草思社,2019年)です。

そこで今回は、「なぜ鉄道ライターがまちづくりの本を書いたのか」と題して、その理由を説明します。

都市交通を極めようとすると、結局都市計画に行き着く」という話としてお楽しみいただけたら幸いです。


■ きっかけは一般道路(街路)

まず、結論から言います。私が東京の都市計画の本を書くようになったのは、東京の市街地を通る一般道路(以下「街路」と言います)の本を書こうとしたからです。

私は、都市交通に関する本として、地下鉄をふくむ都市鉄道や、首都高速道路の本を書き、まだ書いていないテーマが残っていることに気づきました。それが街路です。

近代都市においては、街路はきわめて重要な役割をしています。

街路は都市の骨格として機能しています。わたしたちの身体が骨格によって支えられているように、都市にとっては全体を支える基盤として機能しています。

街路は、人間における血管神経の役割もしています。たんに人や物が移動する通路になっているだけでなく、電力・ガス・上下水道・通信といったライフラインの通り道にもなっているからです。

街路は、防災にも役立ちます。災害発生時の緊急輸送路になるだけでなく、火災発生時の延焼(燃え広がり)を防ぐ役割も果たします。

以上のことから、「街路がないと都市が機能しない」とも言えます。

とはいえ、多くの方はこう思うでしょう。
街路って道路でしょ? どこが面白いの?

そう、街路は、鉄道や首都高速道路とくらべると人々の興味の対象になりにくいので、本の企画としては扱いにくいテーマなのです。

■ 未完成都市であるゆえに生じたひずみ

そこで私は、東京の街路そのものではなく、その背景にある東京の都市計画を対象にしようと考えました。街路は、都市計画に基づいて整備されるものだからです。

また、東京における街路と都市計画の関係を調べた結果、あることに気づきました。

それは、東京都内の都市計画道路の完成率が約6割であるということです。つまり、東京は、世界最大級の人口を有する巨大都市なのに、その骨格となる街路のネットワークは未完成のままなのです。

東京都都市整備局「高度な防災力を備えた東京を実現するには、道路の整備が不可欠です」より抜粋 https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/about/tokyotown/2012_1_2/img/117_02.pdf

東京に「首都高速道路」と呼ばれる都市高速道路が存在するのは、都市計画道路の完成率の低さを補い、都市全体の交通処理能力を高めるためでした。

このため、東京では中空や地下を通る道路が多数建設され、他の都市では見られない不思議な風景が生まれました。

そこで私は、この東京の道路が織りなす不思議な風景を「東京道路奇景」と呼び、それができた背景を探ることで、東京の都市計画に迫る本をつくろうと考えました。

その結果誕生したのが、1冊目の『東京道路奇景』でした。

つまり、東京の都市交通を語る上で最後のピースを埋めようとした結果、東京の都市計画を扱う本を書くことになったのです。

■ まちづくりにくわしい書き手は少ない?

私はこの『東京道路奇景』を書いたのを機に、東京の都市計画を扱う本だけでなく、記事の執筆の依頼を受けるようになりました。どうも現在の日本では、鉄道などの乗り物を語るライターはたくさんいても、まちづくりを語るライターはあまりいないようです。

このような仕事を通して、私はまちづくりの視点から都市交通を語るようになりました。もちろん、知識や経験においては各分野の専門家の方には及びませんが、そのような専門家の方が考えていることを一般に向けて紹介する仕事を今後もできたらと考えています。

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