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鉄道史を深く知るなら道路史を学ぼう

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は、「鉄道史を深く知るなら道路史を学ぼう」という話を書きます。

「え? なぜ鉄道史を知るのに道路史を学ぶ必要があるの?」
そう思う方は多いでしょう。

結論から言いますと、鉄道史の本には鉄道にとってネガティブな事実はあまり書いてありません。だからそのネガティブな事実に迫るには、鉄道以外の交通の歴史を知る必要があるのです。

鉄道にとってネガティブな事実の代表例が「他交通の発達による鉄道の衰退」です。とくに道路網の充実による自動車交通の発達が、鉄道に大きなダメージを与えたことは、もっともネガティブな事実です。

ところが鉄道史の本では、そのことがくわしく書いてありません。だから道路史の本から知る必要があるのです。

そこで私は、2020年11月23日にツイッターで以下の記事(ツイート)を投稿しました。

鉄道史を深く知りたいなら、道路史を学ぶのが早道です。日本では1950年代まで交通政策が鉄道偏重で、道路整備がないがしろにされた歴史があります。このことは、道路史の本には書いてありますが、鉄道史の本にはほとんど書いてありません。だからこそ、道路を通して鉄道を知ると理解しやすいのです。

このツイートは、内容のめずらしさゆえか多くの方に読んでいただけました。また「学ぶための参考書を教えてほしい」というご質問もお受けしました。

そこで今回は、私がお勧めする参考書を2冊をご紹介します。

1冊目は、武部健一著『道路の日本史 古代駅路から高速道路へ』(中公新書2015年)です。本書は、日本の道路史の全体像を俯瞰することができる貴重な書籍です。

これは新書なので、一般書店で購入することができます。

これを読めば、以下のことを知ることができます。
・日本では道路整備が長らくないがしろにされたという事実
・鉄道偏重だった交通政策

2冊目は、アメリカのラルフ・J・ワトキンス氏が率いる調査団(計6名)が1956年にまとめた調査書「日本国政府建設省に対する名古屋・神戸高速道路調査報告書」、通称「ワトキンス・レポート」です。これは、日本初の都市間高速道路(現在の名神高速道路)を建設する妥当性を検討するため、建設省がアメリカの調査団に要請した調査の結果をまとめたものです。

残念ながらこれは一般販売されていないので、国立国会図書館などの限られた施設でしか読むことができません。

ただ、この報告書で日本における道路整備の大幅な遅れを指摘されたことは、建設省にとって衝撃的で、日本の道路政策が大きく変わるきっかけになったとされています。先ほど私が「1950年代まで」と書いたのは、本書が記され、道路政策が大きく変わったのが、ともに1950年代だったからです。

これを読むと、『道路の日本史』に記された内容に対して理解を深めることができます。本書の冒頭には、当時のアメリカと日本の道路事情を示す写真が掲載されており、日本の道路事情がアメリカのそれよりもはるかに悪かったことがわかります。

ちなみに、国内における輸送シェア(分担率)において自動車が鉄道を追い抜くのは1970年代です。それまで鉄道が長らく国内交通の主役であり続けたのは、道路があまりにも貧弱で、自動車が鉄道の競争相手にならなかったからです。

このことは、日本の鉄道史、とくに日本における鉄道の衰退を知る上できわめて重要な事実なのですが、鉄道史の本にはほとんど書かれていません。これは、日本で記された鉄道史の本の多くが鉄道を楽しむ人をターゲットにしており、鉄道にとってネガティブな記述を回避した結果でしょう。

鉄道に興味を持ち、その歴史をより深く知りたいと思った方々。ぜひこの2冊を読んでみてください。道路を通して鉄道に意外な側面があることがわかり、視野が広がりますよ。

最後まで読んでいただきましてありがとうございました。今回書いた鉄道史と道路史の関係の詳細については、拙著『東京道路奇景』に記しています。
この本は、東京の道路が織りなす不思議な風景を「東京道路奇景」と呼び、それができた背景を探ることで、東京の都市計画や交通の歴史に迫るものです。

もしご興味がありましたら、ご覧いただけると幸いです。もちろん電子版もありますよ。


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