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思わぬ発見の旅 世界トップの大学に行ったつもりが...

こんにちは、フリーランスライターの川辺謙一です。

私にとって #忘れられない旅 は複数あります。
今回は、イギリスのオックスフォードに行ったときの思い出を「思わぬ発見の旅 世界トップの大学に行ったつもりが…」と題して書きます。

結論から言うと、憧れていた大学を見学するためにわざわざ渡英したのに、偶然現地で別のものを見つけて心を動かれてしまったという話です。

偶然の発見をする旅の話として、お楽しみいただけたら幸いです。

■ オックスフォード大学って、どんな大学?

この記事のタイトルに挙げた「世界トップの大学」とは、イギリスにあるオックスフォード大学のことです。

みなさんのなかには、「オックスフォード大学」という名前をすでに聞いたことがある方もいるでしょう。日本では、オックスフォード大学出版局が発行した英語の辞書や書籍が一般書店で販売されているからです。

オックスフォード大学は、イギリスを代表する国立総合大学であり、英語圏でもっとも古い大学です。同国のケンブリッジ大学とともに、世界の名門校としても知られています。

この大学は学術水準がきわめて高く、THE世界大学ランキングで2017年から2024年まで8年連続して世界第1位に選ばれています。

※日本のトップの大学として知られる東京大学は、同ランキングの2024年版では第29位です(出典はこちら)。

このため、オックスフォード大学は「世界トップの大学」と言っても過言ではありません。

日本の高校を出てからこの大学に入学するのは、おそらくかなりむずかしいでしょう。

また、当たり前のことですが、一般の人はその建物の内部に入ることはできません。

■ 縁あって研究室に入れてもらう

ただ、幸いにして縁がありました

時は18年前の2006年。
私は2004年に独立したばかりで、フリーランスとしては駆け出しのころでした。

この年、私と同じ大学の先輩夫婦(2人とも工学博士!)がそろってオックスフォード大学に約1年間の短期留学をすることになりました。ご主人はかつて同じ会社にいた方、奥さんはかつて同じ研究室にいた方でした。

このようなチャンスは二度とない!

そう思った私は、先輩夫婦に尋ねました。
「研究室におじゃましてもいいですか?」

答えは「OK」。

そこで私は、妻と2人で渡英しました。
いま思えば、時間に融通がきくフリーランスだからこそできた決断ですね。

■ ロンドンから離れた学園都市

オックスフォード大学は、イギリスの首都であるロンドンから80kmほど西にある学園都市(オックスフォード)にあります。ロンドンとオックスフォードの間は、バスや列車で90分ほどでアクセスできます。

日本では、東京から70kmほど北に筑波研究学園がありますが、それと似た距離感です。

↓オックスフォードの中心地の地図(Google Map)

なお、ロンドン〜オックスフォードの移動は、バスの方が明らかに便利です。列車よりも運転本数が多く、運賃が安いからです。

それでも私たちは列車でオックスフォードに行きました。なぜならば、当時の私が鉄道専門のライターであり、単純に列車で行ってみたかったからです。

ロンドン・パディントン駅からオックスフォード駅に向かう列車の内部。バスとくらべると利用者が少なく、空いていました。
このような車窓風景が延々と続きます。駅付近を除くと、人が住んでいる気配があまりありません

到着したオックスフォード駅は、ホームが2面しかないシンプルな駅。その姿を見て、「あの名門校の最寄駅がコレ?」と驚きました。

オックスフォード大学の最寄駅であるオックスフォード駅
自動改札機が導入されていました(オックスフォード駅)

■ いよいよ大学のキャンパスに

オックスフォード大学の建物。意匠に歴史を感じます

オックスフォード駅で、待っていた先輩夫婦とそのお子さんと合流し、先輩のクルマに乗ってオックスフォード大学に向かいました。

いよいよ大学のキャンパスが見えてきました。
そこでは、緑豊かな場所に、歴史を感じさせる意匠をこらしたレンガ造りの建物が並んでいました。私がかつて働いていた筑波研究学園都市とくらべると、建物の密度が高く、全体的にコンパクトでした。

オックスフォード大学の生理学科(Physiology)の入口

思わず建物の数々に見とれていると、先輩夫婦が所属する生理学科(生理学は生物学の一種)の建物に到着。いよいよ建物の内部に潜入…!

「あれっ?」

その内部は、思ったより普通でした。先輩夫婦の案内で研究室や図書室、講義室などをめぐりましたが、「どこか見覚えがある古めの大学」でした。

どこか見覚えがある古めの講義室。右にいるのは妻

「なんか片平(かたひら)っぽいよね」

ご主人が言った言葉に、その奥さんと私はうなずきました。

ここで言う片平とは、東北大学の本部がある片平キャンパスのことです。同大学のキャンパスの中でもっとも古い歴史を持つキャンパスで、戦災を逃れた西洋建築物が多数残っています。

あえて別の大学の例を挙げると、東京大学の本郷キャンパスに似ています。東北大学には、東京大学の安田講堂のようなシンボルとなる立派な講堂はありませんが、レンガ造りの西洋建築物が多いという点では、片平キャンパスと本郷キャンパスは共通しています。

そもそも東北大学(1907年設立)や東京大学(1877年設立)は、どちらも明治時代に帝国大学として設立された大学であり、西洋の名門大学をモデルにして建設されたという歴史があります。

いっぽうオックスフォード大学は、これらの大学よりはるかに歴史があります。同大学の公式サイトの歴史紹介ページには、「設立日は不明瞭だが、1096年にはオックスフォードでなんらかの形で教育が行われた」と記されています。

それだけ歴史があり、西洋のトップクラスの大学であれば、当然日本の明治政府がそれをモデルにして帝国大学を設立するのは自然な流れでしょうし、キャンパスや建物がかもし出す雰囲気が似るのは当然のことでしょう。

そう思ったら、さっきまであった「オックスフォード大学をこの目で観たい!」という熱が、急に冷めてしまいました。

と同時に気づきました。私は、この大学に的外れな期待と幻想を抱いていたのです。

ため息の橋(ブリッジ・オブ・サイ)。オックスフォード大学の建物を結ぶ橋

■ 朝から晩までクリケット?

オックスフォード郊外にあるブレナム宮殿

大学のキャンパスをざっくりとめぐったあとは、オックスフォード郊外にあるブレナム宮殿に連れて行ってもらいました。ブレナム宮殿は、第二次世界大戦中にイギリスの首相だったウィンストン・チャーチル氏の生まれた場所です。その壮麗さゆえか、『ハリーポッター』や『007』などの多くの映画のロケ地にもなっています。

本来は、ここでブレナム宮殿の美しさを語るべきでしょう。

ただ、私は、その庭園の芝生で白髪の高齢者たちが楽しそうにクリケットをやっている姿に目を奪われました。クリケットは、日本のゲートボールにやや似た屋外球技の一種で、イギリスでは上流階級がたしなむ「紳士・淑女のスポーツ」。それを1週間ほどかけて毎日朝から晩まで延々とやっていると先輩夫婦から聞き、日本との文化のちがいを感じました。

私は、その競技会場だけ時間がゆっくりと流れているように感じました。

イギリスの首都であるロンドンでは、バスやタクシーが慌ただしく道路を走っているものの、東京よりも時間がゆっくり流れている。このブレナム宮殿の庭園では、ロンドンよりもさらに時間がゆっくり流れている。

そう感じたのです。

結果的に私は、オックスフォードに来て、文化のちがいだけではなく、イギリスという国の成熟度の高さの見せつけられました。

と同時に、次の3つのことを感じました。

  • 人生の豊さとは、お金や地位、名誉とかではなく、こういうことである

  • 日本の社会が、現在のイギリスの社会と同じレベルまで成熟するには、気が遠くなるほどの長い時間がかかる

  • かつて自分が日本の会社で時間に追われながらあくせく働いていた日々は、いったい何だったのか?

■ 偶然の発見も旅の楽しみ

ここまでご覧いただきましてありがとうございます。

結論から言うと、私はオックスフォード大学を見るためにオックスフォードに来たのに、ブレナム宮殿の庭園でクリケットをたしなむ高齢者たちの姿が強く印象に残りました。

つまり、本来目的でなかったものをたまたま見て、心を動かされてしまったのです。

このような偶然の発見も、旅の楽しみではないでしょうか。

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