そちらに傾いている
ダイは長年連れ添ったパートナー。
十年以上は連れ添っているかもしれない。ダイとはとにかく長い付き合い。
馴れ初めというか、何でパートナーになったのか……初めの出会いの部分があまり思い出せない。そもそも側にいたから……とかそんな感じだったかもしれない。振り返ればそこにいたのだと思う。それくらい近くにいた。
ダイは手頃だった。重くもないし、軽くもない。私にとって都合が良い。こいつで良いかって思わせる。そんな人。
ダイとは悩める時も、良い時も悪い時も共に十年という時を一緒に刻んできた。なので、今は空気のよう。何かあったらダイに相談、とりあえずダイに。ダイダイダイ。とにかくダイの元へ行く。他を考えない。頼れるかどうかは微妙だけれど、空気なので生きていく上でたぶん必要な存在なのだと思う。
良いとか悪いとかじゃない。長い時間を一緒にいるから惰性もある。あなたを手放したら私は他にどこに行くのだろう。まぁダイとはそういう感じ。
それがある日、私の近くにはもう一人いることに気が付いた。それが山田さんだった。
出会いはたまたまだった。ちょっとした質問があって、近くにいた彼にアドバイスを求めてみた。もしかしたら山田さんに聞きに行く前に、ダイにも同じ質問をしたのかもしれない。その時のダイの答えが私を満たすものではなかったのかも。
今までこちらから話し掛けたこともなかったし、気付かなかったけれど山田さんは私の質問に対して的確に答えをくれた。気持ちが良かった。そして彼は笑うと「ひゅっ」と独特の笑い声を出すのに気が付いた。それがまた面白かった。
私の世界にはダイしかいないと思い込んでいた。それが山田という名の別の人がいることに気が付いてしまった。山田さんは魅力的だった。優しいかどうかは今はまだわからない。癖のある人かもしれない。ただ、私の質問に正確に答えてくれた。そして笑い声が独特。とても魅力的な人だった。
それから山田さんとはすぐに関係を持った。ダイともまだ繋がってはいる。でも、いつもダイの元へ真っ先に向かっていた私は一度立ち止まり、山田さんのことを考えるようになった。ダイとはここ最近会っていない。寂しくないわけはない。けれど、ダイに一番に会いに行く必要は無くなったのかも。
昨日も山田さんの元へ向かった。プリンターのインクを買いに。既に関係は持っている。
「ポイントカードはお持ちですか?」
「はい」
何の躊躇いもなく先日作ったポイントカードを出すと、山田さんがバーコードを読み取る。
「ポイントはお貯めしますか」
「そのまま貯めて下さい」
「かしこまりました」
こうして、ダイでは使えない山田さんのポイントが徐々に貯まってゆくのだ。
私はまだ迷っている。だってダイで貯めたポイントも残っているのだから。
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