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材木屋の娘

 ー 娘は社長を超えられるか。きっと超えてほしい親と親の周囲に勝てない娘と。 ー

 仙台にお客様があり、その合間の時間にお会い出来そうということもあって、仲介者が確保してくれたホテルの喫茶コーナー個室でお会いしたのが最初だった。娘さん、と言っても大きなお子様もいるお母様だが、清潔感漂う物静かな第一印象だった。細身な風貌は、でんと構えるというよりも少しストイックさを感じさせるように見受けた。
 「私、元システムエンジニアなんです。」なるほど、こちらも同じ出自なので、仕事が性格を形成している部分も解る気がする。きちんとしたいが為にうまく緩く出来ないところもありそうだ。それが自己への不満や不安にもなっている。
 どうやらお父様は強大であり、生産現場を任せるために引き抜いた人材とも、うまくやるのが大変そうだ。
しかしながら、父の会社を想う気持ちは、それなりで、本来跡を継ぐかも知れなかったお兄様の突然の死も、その想いに拍車を掛けているのかも知れない。
 最初にお会いしたときには、自己紹介・自社紹介を兼ねたいつもの「サービス紹介」の資料で何者かをご説明しながら、少しずつヒアリングさせて頂いた。いつも最初にお聞きするのは、組織の構成やその中における役割と人間関係だ。
 コンサルティングの世界では、人と組織の話は、最初に必要で最後にも登場する。
しかしあまり途中でいじくり返すとやりたかったことができなくなる。我々からすると、人・組織はある意味魔物だ。

 お話を聞いているとなんとなくの想いや、取締役としての社員への愛情、将来への不安と成し遂げたいことがイメージ出来てきた。「そしたら、一緒にシナリオを描いてみませんか」そう締めくくりとして切り出すと、少し驚いたような表情で「そんなことが出来るんですか?」という返しだった。「やってみましょうよ。」
 NDAだけ締結して、あくまで相談段階だが、こちらも言霊を発した手前、引っ込みは付かない。手弁当だが、その代わりに次回の接見も仙台出張のタイミングとさせてもらい、2週間後くらいのタイミングだったはずだ。
 会社さんの所在地は秋田だが、お会いするのがなぜ仙台かというと、結婚して仙台に嫁ぎ、必要に応じて秋田に通うというリモートワーク型の生活をされているからだ。そういうところも理にかなっていて、私としてはしっくりくる。

 2度目の接見で想いを見える化するために、ディスカッション用のペーパーを二十数ページ作った。
宛先は会社名だけでなく、その取締役個人名にした。これは、会社というより、あなたのためのものだ。私からのメッセージである。
 ゴールは「事業承継」と明言した。そのためにやっていくことは、
 1.株主構成の整備
 2.経営陣の確立
 3.いきいきと働ける組織の確立
 と書いて、これを先ず確認した。「いきいきと働ける」は彼女の言葉だ。会社員だった経験、システムエンジニアだった経験がきっとその想いを強くしている。
 地域企業を回る中で見てきた、いわゆる「ファミリー経営」について勉強しているときでもあったので、このことにおいてもメリット・デメリットを共有して、意識合わせをした。世界の成長企業の多くはファミリー企業で、日本でも勿論少なくないが、後継者が見つからず存続出来ない優良企業も少なくない。
 ファミリー経営は、その解決策のひとつでもあり、中長期的にみて良いところもある。
その意味合いも語り合いたかった。
 将来的に叶えたいであろう組織モデルも描いた。役割や責務についても説明した。
そしてその前段階での組織モデル。一気にあるべき姿にいくのは、それはそれで危険だ。
周囲とも目を合わせながら、息遣いを確認しながら、歩を進めていくのも大事なことだ。
「最初のステップとしては、CHO(人事トップ)として、働き方を見直していってはどうですか?」彼女の目が輝く。
本人がいきいきとしてないでどうする。
 そしてこれを16年ほどのスケールでのロードマップに描いて見せた。
この途中段階も、3年単位くらいでステップを分けて説明する。少しづつイメージが湧いてきているようだ。
そして誰にでも伝えることにしている『成功の循環モデル』。質を高める順序を示している。
 「ありがとうございます。社長と話してみます!」
その後残念ながら、社長についている顧問の先生を超えられなかったのか、私のコンサルティングご支援は叶わなかったが、最後にもきちんとお会いして頂き、わざわざお詫びくださった。
 きっといい経営者になる。そうあってほしい。

このときの経験が、中小企業経営者に寄り添い、想いを見える化する「戦略ドック」サービスに繋がっている。

想いを見える化する【戦略ドック】

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