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夫婦の愛憎劇と動乱を描いた映画「ナポレオン」(ネタバレあり)

 12月2日に、Tジョイ東広島で映画「ナポレオン」を鑑賞しました。
 ネタバレありで感想を書いて行きます。

夫婦の愛憎劇



 リドリー・スコット監督による映画「ナポレオン」
 内容の多くを占めるのがナポレオンと妻であるジョゼフィーヌとの出会いから結婚して、夫婦になっての愛憎劇だ。
 自分以外の男性と話すジョゼフィーヌに嫉妬し、戦地から毎日のようにジョゼフィーヌへ手紙を書くナポレオン
 ナポレオンが自宅に不在の時は若い男と不倫をするジョゼフィーヌ
 とうとうナポレオンが怒って、ジョゼフィーヌを追い出しかけたり
 ナポレオンとジョゼフィーヌの間で後継者となる子供が出来ず、夫婦仲に溝が生じていたり。
 こうした夫婦の日々が歴史の出来事と合わせて流れる映画だ。
 正直、タイトルを「ナポレオンとジョゼフィーヌ」とすべきでは?と思えるぐらいナポレオンとジョゼフィーヌの場面が多い。
 この夫婦の場面でナポレオンは嫉妬深く、手紙で戦地からラブコールを送り続ける愛妻家である面が強調して描かれている。
 ヨーロッパを席巻した皇帝となった男はパートナーを愛し、嫉妬する普通の人だとする描写なのかなと思えた。

歴史作品として



 映画「ナポレオン」は歴史作品としては、ナポレオンが一人の軍人から将軍になり、皇帝に成り上がったが、ロシア遠征に敗れてエルバ島に流され、脱出してから再起してワーテルローで戦い、また敗れてセントヘレナ島で最期を迎えるまで描かれている。
 とはいえ、何十年ものナポレオンの人生を夫婦生活の場面に尺を取られながらなので、駆け足での描写となる。
 ナポレオンや当時の歴史について知っている人なら何が起きているかは分かると思うものの、ナポレオンや歴史に疎い人だとよく分からないままではないかと思われる。
 序盤でナポレオンへ任務を与えるバラスと言う男が何者なのか?
 ロベスピエールがどんな立場の人で、どうして失脚したのか?
 何でエジプトで戦っているのか?
 これだけでも説明は無い。
 ナポレオンとその時代を知らない人は分からないままになってしまうのではないだろうか?
 それでも特筆すべきは戦場の場面だろう。
特に終盤のワーテルローの戦いでは、ネイによるフランス軍騎兵突撃に、古参近衛軍団が前進する場面は戦史好きなら燃える場面だ。
 騎兵部隊の突撃は劇場のスクリーンで見る価値は大いにある。それぐらい戦記をメインで見たいなと思えるほどのクオリティだ。

面白いかどうか



 「ナポレオン」が面白かったかどうかとなると微妙だ。
 ナポレオンの時代の場面を見る分には良い映画ではないかと思う。
 しかし、ナポレオンとジョゼフィーヌの夫婦場面と歴史の流れ場面を同時に見せているから尺はいくらあっても足りない。
 本作が目指した方向性が2004年の「ヒトラー~最期の12日間~」ではないかとも思える。
 この作品ではヨーロッパの第二次世界大戦の終盤であるベルリン攻防戦を舞台に、ドイツ総統のアドルフ・ヒトラーが亡くなるまでが描かれている。
 追い込まれる戦況で将軍達に怒鳴り散らし、嘆く一方で愛人のエヴァ・ブラウンと結婚する。そのエヴァはヒトラーに対してあっさりした思いを語るのだが、ヒトラーと共に自決してしまう。
 「ヒトラー~最期の12日間~」でヒトラーの人間らしさを描写したとしてドイツでは大きな反響があった。
 (作中で緊張する女性に気遣うヒトラーの場面がある)
 リドリー・スコット監督「ナポレオン」もそうした歴史の巨大な存在であるナポレオンを夫婦仲で苦心するただの男であると見せたかったのかもしれない。
 英雄であり皇帝であるナポレオンを等身大にさせたものと解釈できる。
 しかし正直、夫婦場面も歴史場面もどっちつかずな気がしてならない。
 ナポレオンとジョゼフィーヌの夫婦を描いた作品に絞るか、ナポレオンがヨーロッパを席巻してから転落するまでを描いた戦記または大河ドラマとして絞るか
 ナポレオンの人生を描くにはやはり2時間半ぐらいでは足りないのだ。

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