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海外大学院在籍中の転学について


はじめに

白鳥は2019年夏から米国大学院留学(Rice University Applied Physics)を開始し,2020年1月にラボに所属してから数ヶ月でコロナによるロックダウンに見舞われた.

なんとか生き残り(5人いた同期のうち3人やめてしまった),修士号(2022年4月)を取得して約1.5年でラボが引越しすることになった.

コロナではじまりラボ引越しでおわる(のか?)白鳥博士課程において,ターニングポイントであろうラボ引越しによる大学院転学についてまとめていきたい.

研究グループ引越しタイムライン

2022年11月29日,突然催されたラボ全体ディナーで,「ラボ引越しするかも」と指導教官.いつ?どこに?なんで?等の憶測がたちまち飛び交った.

2023年3月3日,ついに指導教官が移動先大学を明かす.中西部イリノイ州にあるUniversity of Illinois Urbana-Champaign(以下UIUC)である.

指導教官が語った移動理由として「RiceはNon-active facultyが多いため学部の予算が少なく,新しいFacultyを雇うことがあまりできず,研究機関としての競争力に欠ける」みたいなことを挙げていた.

指導教官が約17年間かけて築き上げてきた研究環境を丸ごと移し,ポスドクや学生を全員つれていく覚悟を見せるほど,都合の良い話が背後にあったのではないかと白鳥は考えている.

個人面談を経て,6月上旬には最終引越しメンバーが確定した.大学院生2人,ポスドク2人を除き,白鳥含め15名が引越しすることに.

8月上旬には,UIUC Physicsから転学条件(後述)付きオファーが提示された.さらに指導教官のお金でラボUIUC遠征が実施された.

8月末には,ラボ引越し全体ミーティングにおいて,11月から実験器具の標準実験や顕微鏡/光学系の梱包開始,12月上旬には引越し業者が全ての荷物をトラックに積載し,各自引越しをすませ,1月2日に現地集合との予定が発表された.

9月末には賃金(Stipend)などが記載されたOfficial letterを受け取り,10-11月には,引越しの準備を進めつつ.12月半ばから引越しを見越した長めの冬休みが始まった.

引越し後のオフィスの風景.オフィス環境はRiceの方が良かった.

白鳥が転学したモチベーション

与えられた選択肢は3つ:①UIUCに転学,②Riceに残りコロナよろしくリモートワーク,③白紙に戻そう博士課程(Riceで指導教官を変える).

博士課程5年生の白鳥にとって,指導教官とともに引越しする①以外の選択肢はないようなものであったが,転学にまつわる様々な不確定要素に立ち向かう自分自身を正当化するために考えていたモチベーションを以下に挙げる.

転学条件について

2023年8月1日,指導教官から口頭で以下の転学条件を知らされた.

必要:64 credits,Thesis Proposal (Preliminary Exam)
必要なし:Qualifying Exam,Teaching(TA),Coursework
卒業目安:2025年5月

64 creditsを取得するのは大変そうだが,Research creditsフルで,1学期に少なくとも1つ授業を取れば,可能である(余分に授業をとるメリットは後述).

また,卒業目安が約半年ほど遅くなってしまうが,早く卒業することにこだわってない白鳥にとっては確かに研究して卒業するための保険でしかない.

さらに,指導教官が引越し補償として1人$3000(税金引かれて後払い$2580)をサポートしてくれた.

世界大学ランキング42位

World University RankingsとUS College Rankingsの順位が逆なRiceとUIUC

ランキングが全てではないが,US ranking上位のRiceからWorld ranking上位のUIUCに移ることで,履歴書ではばを聞かせることができると考えた.

ちなみに「42」は生命,宇宙,万物についての究極の疑問の答えでもある.そしてSF繋がりで「2001年宇宙の旅」のHAL9000はHAL研究所(モデルはUIUCのNCSA:米国立スーパーコンピューター応用研究所)で開発されたという設定になっている.

Computer Science Concentrationが欲しい

ランキングが全てではないが(2回目),UIUCのComputer Science(以下CS)のランキングは全米5位だ

UIUCは自然科学系Ph.D.でCS要素の大きい研究をしている学生に,履歴書に載せることができるCompuetational Science and Engineering(CSE) Concetrationを提供している.

条件は,CSやStatisticsの授業を4つ取り,Committee membersにCSE-affiliated facultyを1人追加することである.

白鳥が卒業するには64 creditsが必要であるため,CSE concentration取得ついでに授業を取ることは都合が良いと考えた.

さらに,UIUCの1学期で取得できる最大credit数はResearch creditsだけで16であるが,授業を少なくとも1つ取ることでその最大値を20に上げることができるそうだ.

Spring2024では,2つの授業(CS555: Numerical Methods for PDE & STAT542: Statistical Learning)をとった.両方とも一応Graduate Levelなので大変難しく,研究時間が多く取られてしまった.

宿題という終わりが明確なタスクを無意識に優先してしまい,逆に仕上げるまで費やす時間が膨張してしまうケースに陥ることが多かった.スケジュールに研究の時間を先に確保し,オフィス以外の場所で宿題に取り組むなどメリハリをつけることを心がけていきたい.

残りの2つの授業はSummer2024のCS515: Scientific VisualizationとFall2024のECE490: Introduction to Optimizationを取る予定である.

爆裂に増える先輩のつながり

学部や専攻に関わらず,同じ大学出身だと親しみが湧く.所属が変わることでAlmuniとの間接的なつながりが増えることは利点があると考えた.

さらに,UIUCには超伝導理論(BCS)とトランジスタ発明の業績で人類で初めてノーベル物理学賞を2度受賞したJohn Bardeenやその学生で発行ダイオード(LED)を発明したNick Holonyak,Internet Explorerの元になったブラウザ「Mosaic」を開発したMarc AndreessenやYouTubeを創業したSteve Chenなど,物理学や計算科学の歴史に名を残す偉大な卒業生たちがいる.彼らの後輩面をできるのは気分が良い.

環境変化による新たな自己成長

白鳥は人生ポリシーとして,「コンフォートゾーンは可能なら抜けておく」を掲げている.そのようにして,大学進学で故郷(静岡)を離れ,大学院進学で母国(日本)を離れてきた.

ラボ引越しは約4.5年住んだアナザースカイ(Houston)というコンフォートゾーンを抜ける絶好の機会だと考えた.

さらに,Houstonよりもかえって田舎のChampaignに引っ越すことで集中力を高め,Ph.D.への最後の追い込みとしたかった.

米国内での引越しについて

ミニマリストを目指すことを決心し,断捨離を力強く実践した.これは引越し業者を雇うコストを削減するとともに,自分の生活スタイルを改善するための良い機会となった.

アパート探し:sublease成功

初対面ルームメイトはかなりリスキーだと判断し,1人暮らし用(Studio/1 Bedroom)のアパートを探していた.

2023年10月31日,現地の友人からSubleaseを探している人がいるとの知らせを受け,すぐに連絡を取り,半年以上いろいろ調べてきた家探しがほんの数日で終了した.

白鳥が即決したアパートの条件が以下の通り.

ベランダあり,Unit-in Laundry,ソファ,テーブル,マットレスなどの家具付き1 Bedroom & 1 Bathroom.
家賃:インターネット込み$900.電気代,水代を考慮して約$1000
立地:研究室まで徒歩1.5miles.2ブロック先にバス停.
Illinois Terminalを含むChampaign Downtown, Public Library, Dunkin's, CVS, Asian Market, 1周1kmの公園,大学ジムが全て1mile圏内.

引っ越す前には想定していなかった自分の生活習慣を形作るための導線をつなぐ様々な要素が徒歩圏に集合しており,大変素晴らしいアパートだと感じている.

ラボの引越し荷物に私物(本)を混ぜる

最後のオフィスデスクの様子.Riceのオフィスは日当たりも良くて最高だった.

白鳥の私物の中で最も嵩張るものが本(段ボール2箱分)である.これらをラボの引越し荷物として紛れ込ませることに成功した.

残す私物は家具類と衣類である.衣類は冬物を含めてスーツケース2つに収まる量まで選抜がなされた.家具類は炊飯器,低温調理器,コーヒーセット,仮設サウナなどが選抜された.

白鳥さよならビンゴ大会で私物を処理する

自分を送り出す会の自作ポスター

選抜されなかった家具,あるいは重すぎて運べなさそうな家具は,お世話になったRiceの日本人大学院生の皆様を招待し,白鳥を送る会と並行してビンゴ大会を催すことで,楽しく私物を処理することができた.中には,愛用してきた自転車,テレビ,スピーカー,ルンバなどが含まれていた.

こういう会は自分で積極的に催していくのが白鳥流である.実は学部の研究室でも似たような渡米前白鳥を送る会を自分で企画している実績がある.

家具購入含めた引越し費用まとめ

私物は大きめの段ボール(3箱)に梱包してUPSでChampaignまで送った.

段ボールはUHAULとかで買った方が安かったし,UPS以外の選択肢を十分に検討していれば,コストをより下げることができたかもしれない.

段ボール代:$52.1
輸送費:$136.38 (67lbs),$147.04(77lbs),$184.84(87lbs)
交通費:$319.52
家具等:$413.96(Target),$1526.05(Amazon)
白鳥welcome年始寿司:$91.51
合計:$2871.39

結局,引越しコストよりも引越し後の家具類のコストが高くなってしまった.ミニマリストどこいった笑.

引越した1月1日にちょうどUIUCの日本人大学院生が集まっていたので,自分の歓迎会ついでに寿司を持参した(これも白鳥流である).

また,引越し前の断捨離を通して,Champaignでの白鳥の生活をより快適で充実したものにしてくれる家具やグッズをいろいろ購入していた.

例えば,ベランダをサウナ後の整いスペースにしたことが挙げられる.

仮設サウナ→Champaignの冷たい水風呂→ベランダ整いスペース

これにより,白鳥の生活の質が数段上がったように思われる.

転学前後の変化

米国留学中初の一人暮らし

学部以来の1人暮らしで,ルームメイトと住むことによる経済的かつ精神的なメリットを享受できなくなってしまった.

しかし,自分との対話が増え,自分の生活スタイルをより洗練する機会に巡り会えたような気がする.こうしてnoteを書くようになったのもその一環である.

日本人の友人がたくさんできた

Riceでは,日本人大学院生会(JGSA)を設立して,月に一度Happy Hourを企画したり,2週間に1度テニスしたり,ボドゲやたこ焼きパーティーなどを楽しんできた.

UIUCではRiceの時よりも頻繁に日本人の友人らと外食したり,ボドゲをしたりしている.一人暮らしで溜まりがちな日本語でのおしゃべり欲を満たせるのは大変嬉しい.

気候に慣れず体調崩しまくり

白鳥の人生の中で,寒冷な地域に住んでいたことがない.

引越して数日間は冬の乾燥した空気で喉がやられ,風邪気味状態が長引いたり,2月末には唐突に熱が出たり,4月には肺炎にかかり,救急車からの2泊3日入院でその後2週間ほど安静にしていなければならなかった.

あれほど忌避していた救急車への初乗車でパシャリ

慣れない気候か環境変化によるストレスか,研究がなかなか前に進まないもどかしさか,それともRiceにいる同期が続々とPh.D.をとっていることへの焦りか.

入院時にいろいろ考えた結果,バクテリアにやられてしまうのは,やはりトレーニングが足りないと結論づけた.これらは在米ワークアウト編として別の記事にまとめていきたい.

死ぬほど寒い日が多かったSpring2024が終わり,Champaignの夏が始まる.Houstonの灼熱の夏に比べたら,ずっと過ごしやすいだろうと期待している.

ラボ引越しでの目立った貢献なし

ラボの最高学年にもかかわらず,ラボ引越しにあまり貢献できたとは思えない.

胸を張って貢献したと言えるものは,ラボのウェブサイトを構築したことぐらいだろう.

おわりに

世の中には受動的な転学と積極的な転学があり,白鳥のケースは前者に当たる.

これは白鳥個人の力ではなく,100%指導教官の力である.しかし,転学によって新たな自己成長を希求し,博士課程を円満に修了するためのチャンスと捉えたい.

そう,白鳥の前に道はなし,白鳥の後に道はできるのだから.

最後に,白鳥の転学体験談が,万が一似たような事情に直面した同胞の一助になれば幸いである.

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