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日本一の焼き芋屋が話題のD2Cブランド(ミスターチーズケーキ)を分析してみた。

Mr.チーズケーキ。D2C界隈で、一番勢いのあるブランドです。D2Cっていうと、難しく感じますが、ようするにメーカー直販の(通信)販売モデルになります。

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正直、焼き芋屋でしかない僕が個人的に洞察しているだけなので、誤解とかあったら、ごめんなさい。


1、D2Cって何?

メーカー直販っていうのは、昔から楽天やアマゾンに腐るほどあります。大きなところでいえば、タンスのゲン(年商175億円)とか伊藤久右衛門(年商33億円)とかでしょうか。しかし、近年言われているD2Cという業種は、これらの会社とは企業構造が違うようです。

1-1、通販の原価構造

通販には、送料がかかります。ヤマトや佐川の業務用レートでも450-500円程度が送料として必要になります。さらにお店と違い、お客様は黙っていてもお店の前を歩いているわけではないので、広告費が必要になります。広告費比率は一般的には売価の10-15%程度です。

仮に5,000円の客単価の場合、送料500円+広告費750円になります。これだけで、コストが1,250円となり原価率でいえば25%になります。一般的な小売店の仕入れ商品の原価率は70%程度になるので、通販で販売することは出来ません。

そのため、通販の全体感として、メーカーの直販サイトor楽天やアマゾン、Yahooなどの大手企業に商品を卸販売するという方向に進んでいます。

独立系の小売で伸びた会社としていうとジャパネットたかたが挙げられると思います。ただ、ジャパネットたかたは、コロナの影響で家電を売っていますが、一時期は収益性の高いトラベルクルージングを大々的に売って業績を伸ばした会社です。大型客船をチャーターし、船旅を販売するメーカーに近い位置づけにありました。

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1-2、ネット発のメーカー

楽天の草創期から通販をはじめた一部の直販メーカーは突き抜けた存在になっています。彼らは、楽天やアマゾンなどプラットフォームに最適化したメーカーになっているのではないかと思います。ランキングで売れ筋を見つけ、売れ筋の商品に似た商品を同様の価格で販売するという戦略で伸びてきました。

イメージで言えば、生キャラメルを大ヒットさせた花畑牧場ではなく、それを模倣して、キャッチアップしていくフォロワーに近い存在になります。フォロワーの広告展開、ウェブページの制作能力は非常に高く、後追いしても容易にキャッチアップ出来てしまうという勝ち目の無い状況になっているというのが近年の楽天などの通販モールの状況ではないかと思われます。いわゆるコトラーの競争地位別戦略でいうところのリーダーの戦略になります。

通販を展開するには、基本的には楽天やアマゾンで展開しないと採算が取れる事業規模にまで成長出来る見込みはないが、楽天やアマゾンでリーダーに牛耳られた市場では大きな利益を生み出せないという状況がしばらく続いてきました。

1-3、D2Cの発生

楽天やアマゾンなどのモールや、GoogleやYahooなどの検索サイトを導線にしても勝てない直販メーカーは通販を諦めていました。しかし、この動きが変わってきました。

理由は、キュレーションメディア市場の崩壊ではないかと思います。

いわゆるDeNAに端を発したキュレーションメディア事件で、多くのメディア関係者が職を失いました。恐らく、その一部の人たちが直販メーカーに流れ込み、自社の商品の魅力をきっちり商品ページに盛り込み、販売につなげるという手法を開発していきました。

ロジックとして言えば、SNSで集客を行い、商品ページに誘導するという形なので、キュレーションメディアの運営とはほとんど変わりません。大手D2Cブランドと言われる「北欧、暮らしの道具店」「中川政七商店」などこの流れで伸びてきたのではないかと思っています。

また、広告ツールの発達もこの流れを加速させているように思います。誰が、チーズケーキを探しているのかを正確に特定出来るようになってきているので、適切な対象に広告を出稿出来るようになっているというのも、この流れを加速しているのかもしれません。

これまでは、楽天に加盟して、楽天の中で広告を出さないとピンポイントにチーズケーキを探している見込み客に出会えなかったので、広告システムの進化が生み出した新しい事業モデルだと思います。

つまり、私なりのD2Cの理解は、モールや検索サイトに依存しない集客エンジンを持つメーカーの直販サイトになります。

2、D2Cの実態

商品の良さを訴求する事にはお金がかかります。例えば、写真の撮影枚数が増えます。アパレルだと着用するモデル、カメラマンなど写真の着画はコストを大きく圧迫する要因です。

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ユニクロは近年はECに力をいれていますが、5年ほど前にはほとんどの商品は、モデルの着画ではなく、床に並べた味気ない写真を何枚か商品ページに並べている状況だったと思います。

仮に、このような写真を撮影するには、モデル代、カメラマン代などを考えると1商品に対して2~3万円はかかるはずです。また、商品の魅力を訴求する宣伝文も必要になってきます。

商品名と商品写真だけのページであれば、システムで簡単に対応できるので1ページあたり100~300円くらいで対応ができるはずです。しかし、商品の魅力を訴求して販売するとなると原価が全く異なるというのはわかっていただけるかと思います。

大手D2Cブランドは主要導線を記事広告にしています。記事広告は自分の商品の魅力を伝えやすい反面、集客単価が高いという特徴があります。検索サイトからの集客に比べ、一人当たりの広告単価は、2倍というイメージでしょうか。検索サイトでお客様を1,000円で見つけられるとしたら、記事広告だと2,000円程度かかるイメージです。この値段は、当然、価格に転嫁します。

つまり、商品の良さを訴求するイメージ展開を頑張る業態であるものの事業モデル上、原価率を低く設定せざるをえないという矛盾を孕んだ事業モデルになっています。

その解決策として、年商20億円の大手D2Cブランド「北欧、暮らしの道具店」は自社のウェブサイトを広告媒体として他社に販売するという展開をしていたりします。


3,ミスターチーズケーキって???

名前の通り、チーズケーキ屋さんです。以下、社長の田村さんのプロフィール。

田村 浩二(33歳)
新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂『Restaurant FEU(レストラン フウ)』にてキャリアをスタート。 ミシュラン二ツ星の六本木『Edition Koji Shimomura(エディション・コウジ シモムラ)』の立ち上げに携わった後、 表参道『L'AS(ラス)』を経て渡仏。三ツ星レストラン、 一ツ星レストランで修業を重ね、2016年に帰国。 31歳の時、世界最短でミシュランの星を獲得した『TIRPSE (ティルプス)』のシェフに就任。現在は Mr. CHEESECAKE の他、消費者と生産者をつなぐ事業家などとして活動している。出典:キャリアハック

気になっているのは、スタッフ数が20人を超えているところです。恐らく30人前後のスタッフが在籍している可能性があります。ここから考えると月商が2,000万円を超えてきている可能性がありそうです。

ネット専業の単品のお菓子屋さんとしては日本一売れていたはずのケンズカフェさんの年商が3億円ということですから、ネットでは限界に近いレベルの金額を販売しているようです。

正直、ネット販売の素人がいきなり叩き出せる売上ではないので、不思議に思っていたところ、バックには連続起業家(特にキュレーションメディア、DeNAキュレーションメディア騒動で有名)がいるようです。


3-1、美味しいの作り方

僕もネットのお菓子屋の端くれなので、美味しいの分析をするようにしています。人の考える美味しいは、以下の3パターンに類型出来るかなと思っています。

a.正統派の美味しさ。

松阪牛のステーキとか、素材が良いので美味しいパターン。アイスクリームなどは、値段なりの美味しさだったりとかという話です。

b.方程式のパターン化

材料の組み合わせの美味しさというのがあるかなと思います。例えば、つけ麺はラーメンと同じ味の構成なので、美味しいラーメンをベースにつけ麺を作れば不味くは出来ないよという感じかと。

c.未知の方程式の美味しさ

オレンジソースがけなど、食べた事のない美味しさ。


恐らく、田村さんは原価率の制約の部分からCを狙っているのではないかと推測します。チーズケーキにトリュフを混ぜたり、日本人が経験したことのない美味しさを提供することで、低い原価率に成功しているのではないかと思います。

ただ、このパターンはノウハウの総量に依存するので、どこかで知識は枯れ果てるはずです。

4,想定される次の展開

繰り返しますが、ネットの販売規模の限界は3億円程度です。ルタオ(年商200億円)のようにギフト化、定番化することと、リアルに打って出ないと、ここまでの爆発はしません。

商品軸の話でいうと定番化しないと売上は爆発できません。定番化するにあたっては、正統派の美味しさに転向する必要があります。転向しないと、ネットの限界3億円は超えられないと思われます。

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D2C各社は、ネットの販促戦略で高い収益性、低い原価率に成功しているインターネット専業の人たちでしかないので、この非ネットのリアルな世界に出ていくには、かなり難しいです。D2Cの本場アメリカではアクションカメラで大成功したGoproが既存のカメラメーカーに駆逐されたように、マスに打って出ることによって、厳しい戦いが強いられることになります。インターネットという水たまりから、マスに打って出るというのは市場環境の厳しさが全く異なります。


大手D2CブランドであるFABRIC TOKYOが一般的な第三者割当ではなく、デッド(借金)で調達していることなどを考えると、自分たちの求める会社の評価額(バリエーション)で値段を設定出来ない原因がこの当たりにあると睨んでいます。ネットからリアルへ展開を伸ばすには、同じ商品ではしんどそうです。

ただ、商品軸を拡大する選択肢もありますが、3億円の限界がある商品群のライフサイクルをコントロールするのは現実的ではないため、商品を大きく増やしていくことは考えにくいはずです。

先日、ミスターチーズケーキにも出資するベンチャーキャピタルのANRIがNAGIに出資をしましたが、彼女たちの売上は、まだ2千枚(5,400円/枚)=1,000万円。この次のフェーズでは定常的に量販をしていく必要があります。

ただ、量販に成功したところで、そもそもがブランディングというイメージ戦略で成功しただけのぼったくり商品だと、Goproの二の舞になるリスクを孕んでいます。ただ、インターネットの世界から出ないとBake(最盛期100億円)などのブレイクは目指せません。

ここから考えると、茅の舎さんの通販展開とかを参考に店舗展開と通販ブランドとしての確立をしていくのが定石のような気がします。トゥルースリーパーなど、テレビショッピングを中心とした通販屋さんたちの両分を狙いにいくのが手堅いところなのかもしれません。


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