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意思のないDXに見込みはない


目的がはっきりしない依頼

大企業を相手にコンサルティングを行なっていると、何に取り組みたいのかよく分からない相談を受けることがあります。DX関連でいえば、「制約はないのでデジタルで収益を大きく増やしたい」とか「溜まっているデータを活用して何でも良いので新しい事業を作りたい」といったような依頼です。

目的がはっきりとしない状態を解きほぐし、顧客企業がやりたいことを明確にしていくことも、コンサルタントの重要な価値の1つです。むしろそのような時こそコンサルタントの腕の見せ所かもしれません。しかし稀に、どれだけ議論を尽くしても、結局は「何でも良い」という話に終始してしまうことがあります。それは、経営側に意思がないという状態です。

考え方によっては、机上の空論をずっとこねくり回すのではなく、とにかく何かを始めようとしているという点で前向きなのかもしれません。また、勝手な思い込みで制約を設けたりせず、全ての可能性を考えようとしていることは正しいのかもしれません。しかし少なくとも、DXを進めていくのであれば、意思のない状態を早く脱しないと成功する見込みはないのです。

そこで本記事では、DXに関して経営の意思がない状態が生じやすい理由と、本来はどうあるべきかを解説したいと思います。


DXのトレンドへの消極的な追随

ビジネスの世界において、DXというキーワードが登場してからかなりの時間が経ちました。また最近では、生成AIの著しい進歩がそれ以上の注目を集めています。好む好まざるに関わらず、得意不得意に関わらず、全ての企業がデジタルやデータによる変革、DXに向かい合うことを避けられない時代に入っているのです。

かつては、問題意識や新しいトレンドへの感度が高い企業だけが積極的にDXに取り組んでいた時代もありました。しかし今では、そうでない普通の企業でも、他社の成功事例に触発されて、あるいは株主からの要求に応えるために、「とにかくDXを始め、早く成果を出さなければならない」というプレッシャーを受けています。

そのような企業は、DXというトレンドに対して消極的に追随しているだけです。言うならば「仕方なくDXに取り組んでいる」といった状況です。結果として、経営者に明確なビジョンがないまま、取り組みを始めることになってしまいます。


経営陣のリテラシ不足

伝統的企業では、経営陣の年齢層が高く、単純にデジタルサービスに慣れていないことも多いです。そのため、デジタルサービスの顧客価値やデジタルビジネスの本質について、感覚的には理解できていない場合があります。

大企業の経営陣であれば、日頃からデジタルに関連するトピックの報告を受ける機会が多いため、資料上の知識としてはそれなりに詳しくなっている場合もあります。しかし、スマホアプリでも、クラウドサービスでも、生成AIでも、まずはユーザとして自分が使い倒すことで、初めて感覚的にわかってくることがあるのです。

デジタルについて感覚的に理解できていないと、例えばデジタルを単なる技術導入による省力化やコスト削減の手段と捉えてしまったり、デジタルサービスにおいて最も大切な顧客視点やUXという概念が理解できていなかったりすることがあります。

そのような企業では、経営陣がデジタルの本質を捉えたDXのビジョンを持つことが難しくなり、結果としてDXプロジェクトは意思のない取り組みとなってしまいやすいのです。


短期的な成果への偏重

また近年では、多くの企業において、目に見える成果、すなわち業績数値の短期的な変化を求める傾向が強くなっています。一般的にこの傾向は、本来必要な意思やビジョンを軽視し、即効性のある施策を重視することに繋がりやすいのです。

結果として、全体として目指す姿が曖昧なまま、数多くの施策の実行管理を進めることになります。それだけで十分な成果が出れば良いのですが、多くの場合、大きな成果がなかなか出ずに、組織全体が徐々に疲弊していくことになってしまいます。


経営陣の意思とビジョン

逆に、経営陣がDXについて強い意思を持っており、明確なビジョンを打ち出していけば、どうなることが期待できるのでしょうか。

まず、経営レベルにおいては、意思が明確になっていることで、重要な戦略的判断を迅速に行えるようになります。これは、環境変化の早いDX領域での取り組みにおいて、極めて重要なことです。

また、現場レベルにおいても、筋の通った実行プランを立てやすくなり、プロジェクトチームが迷走しにくくなります。社員一人一人が日々の業務を通じてどのように会社に貢献出来ているのかも明確になります。社員は経営陣のビジョンに共感し、その実現に向けて努力し、評価されることでやる気を高めることが出来るため、現場のモチベーションは高まるのです。

更に、明確な意思があることによって、取り組みが一貫性のあるものになります。DXは長期的な視点で取り組む必要があり、一貫した戦略と実行を実現するためにも、経営陣が一貫性のあるメッセージを発信し続けることが鍵となるのです。

このように、DXの目的やゴール、目指すものといった企業の意思を明確にして、ビジョンを示すと、それが羅針盤となって、あらゆる取り組みの方向性が明確になっていきます。


まとめ

DXプロジェクトの成功には、経営陣の強い意思とビジョンが不可欠ですが、世の中では、それがないままDXに取り組んでいる場合が少なくありません。経営陣としては、収益効果としての成果が出れば何でも良い、という姿勢ではなく、DXを通じて実現したいことについて意思を持つことから始めましょう。経営陣がリーダーシップを発揮して明確な意思を示すことで、DXの成功に一歩近づくことができるのです。

明確な意思を持つことがDX成功の第一歩

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