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【連載小説】ライトブルー・バード<9>sideリュウヘイ③

    前回までのお話です↓

そして人物紹介はコチラ↓

星名リュウヘイ(17)…入学式でマナカに一目惚れした主人公。その後、彼女と同じファストフード店でアルバイトを始める。

今泉マナカ(17)…真面目な性格で、アルバイト先のマネージャー達から信頼されている女子高生。荒川ヒロキに好意を持っている。

小暮サヨコ(?)…ファストフード店チーフマネージャー。頼りになる存在ではあるが毒舌。

荒川ヒロキ(21)…大学生。一身上の都合で数ヶ月前にアルバイトを辞めている。2年付き合った真柴ヒデミとは破局。

    この店のコーヒーとアップルパイをこよなく愛する常連の佐藤さんは、70歳くらいの優しそうな老婦人で、3日に一度は必ず来店している。

「こんにちは。今日、マナカちゃんはお店に入っている?」

   そして彼女が最も気に入っているのはカウンター担当の今泉マナカだ。

「佐藤さんいらっしゃいませ!!…スミマセン、今泉は今日休みなんですよ」

    店のガラスを拭いていた星名リュウヘイがそう答えると、老婦人は「あら、残念」と言いながら店内に入って行った。

 「ごゆっくりどうぞ!!」

   (今泉さん凄いよな。ああやって個人的なファンを作るんだから。まあ、後方厨房の俺には元々縁のない話だけど…)

   閉まりかけの自動ドアを見つめながら、マナカのことを考えるリュウヘイ。恋心と勢いで始めたアルバイトだが、仕事をすればするほど彼女に対する尊敬の気持ちが大きくなっている。

 『スキルを上げたければ今泉マナカの仕事ぶりを見ろ』…これは小暮サヨコから言われた言葉だ。

「あ、ごめ~ん!! リュウヘイは言われなくてもマナカのこと見てるよな~?」

   いつもの『サヨコ節』は無視するとして…。

    マナカは常に『何を優先するべきか』を考えて行動をしている。さりげないフォローはもちろんなのだが、ほんのわずかな空いた時間を使って業務を先回りさせ、お客様に素早く商品を渡す『ファインプレー』をリュウヘイは何度か目にしていた。

   しかしそんなマナカのやり方が気に入らないスタッフも何人かいる。ちなみに全員が同年代の女子で…まあ、いわゆる『やっかみ』なのだが…。彼女たちにかかれば『ファインプレー』を『スタンドプレー』にすり変えることなど朝飯前だ。

「今泉さんが仕事を取ってしまう」

   そんな愚痴がリュウヘイの耳に飛んできた時は、さすがに「オイオイオイオイ…」と心の中で突っ込んでしまった。そうゆうヤツに限って典型的な指示待ち型なのだから。

  (女子の世界って本当にめんどくさいな。カエデも今泉さんも大変だ)   

  そして窓拭きが終了。丁度休憩時間に入ったので、リュウヘイは掃除用具を片付け、そのまま休憩室へと向かった。

「お疲れ様でーす」

「おっ! リュウヘイ、お疲れさん」

   休憩室にいたのはサヨコともう一人の知らない男性。一瞬、アルバイト希望者かと思ったが、それにしてはくつろぎすぎているような…。

  『どちら様で?』という表情のリュウヘイを見て、サヨコは「ホレ、自己紹介しろ」とその男性を促す。

「どーも! 俺、土居ユウスケ。半年前までここでバイトしてた…一応キミの先輩」

 (うわぁ、何か軽そう…)

「リュウヘイ、コイツは半年経ってやっと制服を返却しにきたようなズボラ野郎だから、別に敬わなくていいぞ」

「ひどいな~サヨコさん。で、キミは新人くん? 何か可愛いね」

   悲しいかな『可愛い』と言われるのは、もう慣れっこだ。だがユウスケに言われた瞬間、リュウヘイは何故かムッとしてしまった。

 「どうも、星名リュウヘイです。」

 「厨房担当でヒロキの後釜だよ。結構頑張っているぞ」

 「へぇー、荒川のねぇ…」

    リュウヘイの顔をじっと見るユウスケ。そして彼はサヨコに向かって首をねじ曲げ、ニヤリと笑った。

  「ねぇ、サヨコさん、荒川はどうしてバイト辞めたの? もしかして今泉さんに手ぇ出して修羅場にでもなったぁ?」

  (えっ!?)

 リュウヘイの心臓に何かが刺さった。

「ユウスケ、憶測だけでモノを言うクセは治した方がいいぞ」

  サヨコの口調は変わらないが、明らかに目は怒っている。

 「え~? 憶測じゃないっしょ。アイツらいつもイチャイチャしていたし…。いやぁ…見ているこっちが恥ずかしかったわwww。荒川は彼女がいるからって興味がないフリしていたけど、真面目なヤツらが燃え上がると色々ヤバそ…」

「あのっ!!」

  ユウスケの独壇場を遮ったのはサヨコではなく険しい顔になったリュウヘイだった。

「…何? 星名くん」

「やめてくれませんか? 今泉さんは俺の友達です。本人がいないところでこんな話するのはどうかと思います。いや、いたとしてもダメですけど…」

「…………」

  呆気に取られるユウスケ。そしてサヨコは感心した表情を見せ、声には出さないが「グッジョブ!!」と口を動かした。

「それに、俺の幼なじみが毎日同じようなことを学校で言われています。本人の気持ちなんかお構い無しで…。だから正直、気分悪いです」

「なんだよ真面目かよ」

   すっかり白けてしまったユウスケは、そそくさと帰り支度を始める。

「サヨコさん、この新人くんお気に入りっしょ? 荒川とか真面目なヤツ好きだもんね。じゃ、部外者はこれにて退散しまーす!!」

「あぁ、じゃあな」

そのままバタンとドアが閉まった。

「リュウヘイ、お前カッコよかったぞ…」

   リュウヘイの肩をポンと叩き、その顔を覗き込んだサヨコだったが…。

「…………」

リュウヘイの表情から魂が消えていた。

「おい!! リュウヘイ!! 褒めた直後に情けない顔になってんじゃないよ!!ドーベルマンからチワワに逆戻りしてるぞ!!」

「…サヨコさ~ん…だって…だって俺…」

「ユウスケの言うことを全部真に受けるな!!アイツは悪いヤツじゃないけど、お調子者で、大学とバイトを一緒に辞めるような後先考えない人間だ」

「…………」

   好きな人に近づけば、同時に『聞きたくないような情報が入る』というリスクを伴うことは分かっているつもりだった。だが、いざその場面に遭遇すると、何の覚悟も出来ていなかったことが嫌でも分かる。

   自分の存在だけ知ってもらえれば、それで満足だったハズなのに…。

  「リュウヘイ、これだけは言っておく。あの2人は間違ってもバイト先でイチャイチャするようなヤツらじゃないし、陰で付き合ってもいない」

「…でも…今泉さんは、その『荒川さん』のこと好きなの…かな?」

「聞きたい? 」

「いや、やっぱりやめておきます。ここで聞いたら、俺、さっきの土居さんと一緒になっちゃう」

「その方がいいよ。まあ、聞かれても答えないけど。だって私の持っている情報が今も有効だとは限らないしね」

「うん、あぁ………ねぇ、サヨコさん」

「何?」

「俺…その『荒川さん』についてだけは知りたい。どんな人なのか、どんな仕事ぶりだったか…ダメ?」

サヨコは腕を組んで眉間にシワを寄せる。

「うーーーん…まあ、いいか」


   バイトが終わった帰り道、リュウヘイの足取りは自分史上最高に重い。

  (き、聞くんじゃなかったぁぁぁ!!)

  ヒロキのことを聞けば聞くほど、マナカが惚れても仕方がないのでは…と思ってくる。

  (仕事が出来て、人当たりがよくて、頭が良くて、背の高いイケメン…オイオイオイオイ欠点どこだよ?『荒川さん』は彼女いるから分からないけど、今泉さんは惚れているよね?絶対に惚れてるよね!?)

   そして顔も知らないヒロキと自分を比べて意気消沈するリュウヘイ…。

   ショックだった。そして『ショックを受けていること』に対して更に大きなショックを受けてしまった自分がいる…。

  (もしかして俺『今泉さんと付き合えるかも』なんてどっかで思っていたのか?バカなの?俺ってどこまでバカなの? )

   何か胸の奥がモヤモヤして、何か薄汚れたモノが飛び出してきそうだ。この流れに従った方がラクになれる気がするのだけれど…。

「リュウヘイ、何してんの?」

「ぎゃっ!!!!」

    周りが見えていない状態だった為、思い切り驚いてしまったリュウヘイ。そんな彼を後ろから呼んだのは、幼なじみのカエデだった。買い物の帰りなのかコンビニの袋を持っている。

「よ、よぉカエデ」

「『よぉ』じゃないでしょ、リュウヘイ。めちゃくちゃ挙動不審なんだけど…」

「ハハハ…何でもない。買い物だったの?じゃあ一緒に帰るか」

    連れだって歩く2人だが、カエデの瞳は疑惑の光でいっぱいだった。

「何でもないワケないよね?」

「いやいや、何でもないって」

「いやいやいやいや、やっぱりおかしい」

「だからぁ!! 何でもない」

    少しの間沈黙が流れる。本当は誰かに話を聞いて欲しいし相談もしたいが、異性の幼なじみに恋愛相談するのはリュウヘイ的に恥ずかしい。

でも…、

「…あ、あのさ、カエデ!!」

「何?」

「…そのぉ…俺の『いいところ』って何かある?」

「はぁ!?」

「お願い、俺に少し自信つけさせてっ!!出来れば難しい表現ナシで。あ、 それと20字くらいで…」

  カエデの視線が痛い。『コイツ何言ってんの?』って顔をしている。

「…そんなの3文字で充分じゃん。リュウヘイは『おバカ』なところが長所だよ」

「褒めてなくね!?」

「リュウヘイの『おバカ』は短所でもあるけど長所でもあるの!! 何があったか分からないけど、背伸びしないでもっと自分に自信持ちなさいよ!!」

「…………お、おう」

「リュウヘイ、やっと笑ったね。さっきまでお通夜か!?…っていう顔していたんだから」

「…そっか、俺、そんな顔してたんだ?」

   あぶないあぶない…危うくあの『モヤモヤ』に支配されるところだった。落ち着け自分!!好きな人が原因で嫌な感情を持つのは絶対に嫌だ。

「サンキュー、カエデ。俺、何かスッキリしたよ」

   リュウヘイは胸の奥にある『嫉妬』という感情にそっと蓋をした。

    そして翌日…

  「こんにちは」

   店の出入口を掃いていたリュウヘイの前に、昨日来店した老婦人が現れた。

 「佐藤さん! 今日も来てくれてありがとうございます。あっ、今日は今泉がカウンターに入っていますよ。ラッキーでしたね!!」

   リュウヘイの言葉に彼女はニッコリする。

   そして…

「あなたの顔も見られたから、今日はラッキーが2つ」と言った。

「えっ…?」

「手、出して」

   リュウヘイは言われるがままに手を差し出すと、老婦人は手のひらにキャンディを5つ落とした。

「え~っと、これは?」

「フフフ…、面白い味を見つけたから、あなたと マナカちゃんにあげようと思って今日も来ちゃったの。いつも笑顔をありがとう。星名リュウヘイくん」

「……あ、ありがとうございます!! それと…ごちそうさまです!!」

リュウヘイは思い切り頭を下げる。

   昨日モヤモヤしていた胸から、今度は別の何かが飛び出してきそうだった。これはこれでかなりヤバい。うっかり『蓋』を開けたらきっと目から水が出てきそうだから…。

   キャンディの袋には小さく『アップルパイ味』と書いてあった。

「…なるほど、さすがに佐藤さんのチョイス」

   リュウヘイはキャンディをポケットに入れる。5個のうちの2個は昨日のお礼にカエデにあげるつもりだ。

  (『荒川さん』にはまだまだ及ばないけど、俺は俺なりに成長してんのかな?)

    ちょっとしたことがきっかけで、こんな風に思える自分は本当に単純でバカだ。でもこれならバカも悪くない。カエデの言っていたことは間違っていないんだなと思う。

   掃除を終え、リュウヘイは空を見上げた。この後は昼ピークの厨房作業が待っている。

「よっしゃ!! いっちょ頑張るか!!」

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